第2話
翌朝、私はまだ太陽が昇っていないような時間に目が覚めた。
昨日のことが衝撃過ぎて深く眠れなかったんだろう。
そんなことを考えながらリビングに行くと、昨日来たお姉さん?が床に大の字で寝転がっていた。
「普通は机で寝たりするものなのでは…?ま、いっか。そういえばお姉さんの名前聞いてなかったな」
お姉さんの持ち物を探って名前を調べようかと一瞬脳裏をよぎる。
「いや、起きてから聞いたほうが無難か」
これ寝起きで頭が回ってないな。
「顔でも洗ってこよう」
そう思って川に行く。
水面をのぞくと自分の顔がうつるけど、そこにうつったのは以前の自分じゃなかった。
川の水で顔を洗うと目がさえてきた。
「よし。頭もすっきりしてきたし、時間もあるからちょっと掃除でもしようかな」
外の落ち葉を掃こうと思って納屋から箒をとってくると、お姉さんが私のこと探しているようだった。
「朝から掃除とは、感心しますね。ところで顔洗いたいんですけどどこで洗えば?」
「それなら川で洗えばいいじゃないですか」
「え、大丈夫なんですか?この川の水」
「大丈夫なんじゃないですか?私は昔から使ってますけど風邪にもかかったことないですよ」
「まあ今日は床で寝てたし顔が洗えたらなんでもいいです。それに、これから仲間になる人の言葉は素直に聞いておこうと思ったので」
なんか私が一緒に行くこと確定してない?
落ち葉を掃きながら昨日のことを考える。
人生を一変させるようなチャンスか…。前向きには考えている。
でも、戦うことになるってわけがわかんないなぁ…。
「あの、お姉さんがしてることはどんなことなんですか?」
「それはどういう…?」
「え、えっとお姉さんの組織?のやってることです」
「私たちは淀みの者と戦うのが基本業務ですよ。モンスターっていうのは簡単に言えば淀みから生まれた化け物です。こいつらは生物の体の形を無理やり変えたような姿をしてるんですよ。気持ち悪いしケガだって日常茶飯事ですよ。それにモンスターと戦うだけじゃないんですよ。犯罪者の中には魔法を使うやつもいるので、そういうのにも対処しなきゃならない。嫌になりますよ」
「それは、大変ですね・・・」
「でも、それなりにやりがいもありますよ。給料がもらえたときは一か月生き延びたって実感できるし、隊長も高圧的だけど小っちゃくてかわいいし既婚者だし」
既婚者がやりがいってなんだろう…。
「今の私にとって勇戦隊のみんなはかけがえのない大切な仲間なんですよ。辛いときも逃げ出したくなった時もみんなに支えてもらって、なんとか立ち直りましたから。でも、そのぶん同期の片腕が飛んだ時は自分が弱くて情けなくて泣きましたよ」
「怖く、ないんですか?」
「怖いですよ。でも、それ以上に怖いのは私の大切な人たちが私が弱いせいで死んでしまうことです。人間死ななきゃ終わりじゃないですし。 それに、私たちがやらないとモンスターにみんな殺されるので。そんなの絶対いやじゃないですか。でも、こんな危なくて精神すり減らすような仕事好き好んでやるやつなんてなかなかいません。だからこそ残った仲間たちを大事にしてるんですよ。そこで3回目の提案なんですけど、あなたも私たちの仲間に加わってみませんか?」
そういって私に笑いかけてくれた。
お姉さんは日々戦って疲れているんだろう。
だけど、表情からは充実していることが伝わってきた。
危険でも、確かなやりがいがある仕事だということ。
私がお姉さんのように生き残ってるかはわからない。
腕がなくなるのは自分かもしれない。
お姉さんのようになるのも私の一つの未来の姿かもしれない。
曲者のようになるかもしれないし、ならないかもしれない。
それでも、お姉さんの表情が羨ましかった私もそんな顔ができるようになりたい。
そう思ってしまった。
「私も、お姉さんみたいな顔ができるようになりたいです」
気づいたら口に出していた。
お姉さんは面食らったようだった。
「ははっ。私の顔ですか?なら私の仲間にならないといけませんけど」
「なら、なります」
「…本当ですか? 冗談じゃなく? 命の保証もない仕事ですけど」
「はい。なります」
覚悟はきまった。ふわふわとした理由だけど、それでも、私に降りかかった幸運を使う理由には、十分だった。
翌日、正午
「絶対死ぬんじゃないよ」
「わかってるよ。」
お母さんには昨晩話したけど、
「それにしても私が若いころに魔法をかけたのにまだ魔法付与が続いてるとはね」
そう言ってお母さんが私に着せてくれたのは黒いケープマントだった。
「これにはお守り程度の火への耐性がついてるから着てなさい」
「へ~。お母さん魔法付与なんてできたんだ」
「私の魔法はそっちがメインなの。はい、できた」
私の格好は、ケープマントに黒いミニスカートそれにお古の黒いブーツを履いている
手には私物を入れた鞄を持っている。魔女と言われたらそれまでだけど、なかなかいいんじゃないかな
「そうだ、お手伝いさんが来るらしいからお母さんは心配しないで仕送りを楽しみにしてて。 …それじゃ、行ってきます」
「うん、いってらっしゃい」
家を出ると、これはまでとは全く違う道に進むことになる。
分かっているけど、足がすくむ。
少し躊躇していると、後ろから肩を押された。
振り返ると、お母さんが立ちあがって笑っていた。
「がんばってきな!」
『 うん!!』
覚悟は決めた。
私は一回振り返って手を振った後、お姉さんが待ってる川のそばまで走っていった。
「お母さんともっと話さなくていいの?話せるの最後かもよ?」
お姉さんが心配そうな顔で聞いてくる。
「だいじょうぶです。お母さん、成人して一年たってもて自立しようとしないから心配だったなんて言ってましたし。それに、次に会うときは家族全員で集まりたいですから。すごい魔法使いになってお父さんをびっくりさせてやりますよ。それに、私は自分で選んだんだから後悔なんてないですよ」
「そういえばお姉さんの名前聞いてなかったですね。なんていうんですか?」
「私の名前?キリエっていうの。25歳だよ」
こうして私は望んで魔法使いの道に入った
私は、偶然でも変われるチャンスを手に入れたことに変わりはない。
私は日常を捨てるわけじゃないし、死ぬつもりもない。
「へ~ギリギリお姉さんの範囲ですね。それじゃ、キリエさんって呼びますね」
「それじゃ、私もいつもの口調に戻らせてもらうよ」
「なんかやけに変な話し方してると思ったらそっちが素なんですね」
キリエさんの眉がピクピクしている。
ちょっとからかいすぎたかな なんて考えたときには遅かった。
「じゃ、私はホノカちゃんって呼ぶからね。それと、気を抜いてたら吐くよ」
「え、なんですか?」
そういった瞬間、私の体がフワッと浮き始めた。
「え、これ私どうなってるんですか!?」
キリエさんの顔がニヤニヤしているのを見て私は察した。
これさっきの仕返しだ。
「私の魔法で隣町の魔導列車の駅まで飛ぶから。体制崩さないように頑張ってね。荷物は私が持っててあげるから」
そういうと、キリエさんと私は空高く飛び上がったあと、ものすごい勢いで川の上から隣町の方に飛んでいく。
「うわああああ!!」
「はははっ。喋ってたら舌かむよー!」
そう言ってキリエさんと私は隣町の駅まで空を飛んでいった。
約2時間の空の旅の後、ゆっくり隣町の駅前に着地した。
隣町の街並みはほとんどの建物が二階建てでレンガや石、木でできていた。
「はい、到着。隣なのにめっちゃ遠いね。ところで、足が生まれたての小鹿みたいになってるけど大丈夫?」
「あなたのせいでしょ!速いし高いからめっちゃ寒かったんですよ!」
「ごめんごめん。ま、仕返しだけじゃなくて列車の時間に間に合わせるためでもあったからさ。許して!このとおり!ね?」
そういって私に向かってお辞儀をしてきた。
「人の目もありますから許しますけど、今度するときはもっとゆっくりとんでくださいね」
「おお、思ってたよりあっさり許してくれたね。なら、駅に入ろうか。中を見たらびっくりすると思うよ。」
「外から見たら白いドームにしか見えませんけど?」
「もうちょっと期待してくれてもいいんだけどなぁ…。それじゃ、行こうか」
そう言いながら歩き出した私たちはドームの中に入った。
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ぜんせんとっく @1gatu5ka
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