第1話 …ふぇっ!?

 クラスで一番かわいい子が俺の家に来ることになりました。


 …なんでこうなったんだ。


 ええと確か橋の下で子猫にデレてる灰崎さんを見かけてそのあと俺がその子猫を飼うことになって…


 いやもうこの際どうしてこうなったかなんて重要じゃない!


 とにかく今この場を繋ぐことを考えないと。


「あのさ、」


 俺は家への道をたどりながら必死に会話デッキを組み立てる。


「灰崎さんはいつからあそこでお世話してるの?」


 そう話しかけると猫に向かっていた視線が一瞬俺の方に向いた。


 そしてすぐに視線を元に戻すと「2週間前くらい」と一言だけ呟いた。


「へぇ、そうなんだ。猫好きなの?」


「うん」


 今度は視線もくれずにそれだけ呟いた。


 む、無理だこれぇー!


 会話が続かないよ…


 いやでも緊張してるだけって可能性もあるしもう少しだけ頑張ってみるか…?


「俺も好きなんだよねー、どの種類の子が好きとかある?」


「…別に。」


 やっぱ無理っす!!


 さっきまでの子猫にデレてた灰崎さんはどこに行ったの…


 これ俺のこと嫌いなんじゃ…?


 もう黙った方がいいのかな。


 こいつめっちゃ話しかけてきてうぜーとか思ってるのかな?


 あ~もう!考えれば考えるほど訳わかんなくなる!


 さっきの猫の前での灰崎さんと今の冷たい灰崎さんが交互に頭の中を駆け巡る。


 そしてどうしようか思考を巡らせているうちに家についてしまった。


「こ、ここが俺の家です…」


「ん」


 ロビーを通り過ぎエレベーターの前で待つ。


「ここの六階です…」


「そうなんだ」


 死ぬほど続かない会話…


 完全に冷え切った空気と共にエレベーターの中に乗り込む。


 ち、沈黙が痛い…


 致死量の沈黙ってあるんだな。


 今すぐここから逃げ出したいほどには辛い沈黙だった。


 それにしてもなんでついてきたんだ?


 んー、そんだけこの子マルが大事ってことか。


 まぁきっと灰崎さんはいい子ではあるんだよな。


 エレベーターから出て部屋の前にきたタイミングで灰崎さんが口を開いた。


「マルが安心して暮らせる環境があることが分かったら帰るから」


 灰崎さんから口を開いてくれたのが初めてだったため少し面食らってしまった。


「うん。分かった」


 俺のことは嫌いかもしれないけどマルのことは心から愛してるんだな。


「俺が責任もって育てるから」


「うん」


 そう言って俺は灰崎さんを家の中に招いた。


♢♢♢


「す、すごい」


「だろ?親父が送ってくれたんだ」


 灰崎さんは新品のキャットウォークに目を輝かせていた。


「これならこの子マルものびのび暮らせそうだろ?」


 灰崎さんは部屋を見渡しながら答えた。


「うん」


 あはは、相変わらず冷たいな。


 これいよいよ本格的に俺のこと嫌い説浮上してるな…


 俺なんかやらかしたっけ…?


「…ここなら大丈夫そう」


「おう、ならよかった」


 でも、と言って灰崎さんは続けた。


「まだ桐葉のこと信用してない」


 えぇ…やっぱ嫌われてるじゃん。


「じゃあなんで俺に頼んだんだよ」


「マルが心配で…親もいないのにずっとあそこ橋の下で生きていける訳ないから…。少しでも早くマルを良い環境に行かせてあげたかったの」


 灰崎さんはマルを撫でながらほんの少しだけ苦い表情を浮かべた。


「この子には私みたいになってほしくないから………」


「え?なんて?」


 灰崎さんがぼそりと呟いた言葉は俺の耳に届く前に空気に溶けて消えていった。


「なんでもない」


「………?」


「とにかく私の家じゃマルを飼うことができなかったから。ちょっとした賭け、桐葉が良いやつかどうかっていう」


 なるほどな。


 学校では人に冷たくて感情が見えないけど、マルのことはちゃんと愛情もって接してるんだな。


 時には一部の人に嫌われたり性格について憶測でいろいろ言われたりすることあるけど、きっと感情表現が苦手なだけでいい子じゃん。


「分かった。責任もってマルを世話するから、安心して」


「うん、そうじゃなきゃ殺すから」


「こ、ころっ…!?」


 や、やっぱ嫌われてるのには変わりないかも…


「ていうのは冗談だけど桐葉がちゃんと世話できる奴か見極めるためにこれから一週間放課後ここ来るから」


「あぁ分かった。………………えっ!?今なんて?」


 なんかこれから毎日放課後に俺の家に来るって聞こえた気がしたんだけど…気のせいだよな?


「だから桐葉がちゃんと世話できる奴か見極めるためにこれから一週間放課後ここ来るからって言ったの」


 …聞き間違いじゃなかったああぁぁぁあぁぁあああ!


「大丈夫って分かったらもう来ないから」


 ええと…


「いきなり押しつけた上にこんなこと言っちゃって申し訳ないけど全部マルのためだから。分かってほしい」


「うん、それはいいんだけど…」


 問題は同級生の男の家に一週間も入り浸っていいのかっていう問題が…


「灰崎さんはいいのか?」


「ん?あぁ、マルのことか。本当は離れたくないんだけどマルのためを思ったら仕方ないことだから、割り切れるよ」


 そう言うことじゃないんだけどな…まぁ灰崎さんがいいならいいか。


「ちなみにどうしてそんなにマルのこと気にかけるんだ?」


「私に似てたんだ。だからどこかほっとけなくてさ。一人ぼっちで雨の中うろついてたの。誰にも助けを求められなくて一人でずっと」


「似てたって…」


「まぁ似てたのは色だけだけどね」


 あ、なるほどな。


 確かに灰崎さんの髪色と同じ明るい綺麗な金色だ。


「そんな感じで見捨てられなくてちょっとだけお世話してあげようと思ったら思いのほか懐かれちゃってさ」


「そういうことだったのか」


「うん」


「灰崎さんはやっぱり優しいいい子だよね」


「…ふぇっ!?」


「責任感もあって面倒見がいいし周りも良く見えてるし…」


「わかったわかった!もういいから………」


 すると何故か灰崎さんは顔を真っ赤にしていた。


「やっぱ桐葉嫌い、もう帰る」


 そう言って灰崎さんは嵐のように去って行ってしまった。


「あれ…俺地雷ふんじゃったかな」


 てかそんなことより!


「やっぱり俺嫌われてんじゃねぇかよぉおおお!!!」


 俺の叫び声は誰に届くわけでもなく空気中に溶けて消えていったのだった。

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難攻不落のダウナー系ギャルの灰崎さんが俺にだけ甘い 星宮 亜玖愛 @Akua_kaku

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