しゃれこうべ

床の間ん

1話完結 しゃれこうべ



水底(みなそこ)に沈むは


髑髏(しゃれこうべ)


現世(このよ)の縁(えにし)もとうに尽き


空の眼(まなこ)で見上げるは


水面(みなも)に浮かびし渡し舟


その舟運ぶは人二人


船こぐ船頭(せんどう) 客一人


船頭乗せるは かねてより


思い寄せたる その娘


行く先町場の 機織り場


来る日も来る日も 運びけり


年頃娘に 色めきて


嫁ぐ噂が 耳はいる


お相手町場の 宮大工


若くし腕良く 恨めしく


己は舟こぐ 他に無く


踊る賽子(さいころ) ツケ嵩む


金貸し詰め寄り 口々に


いかようにとや いかように


烏賊(いか) でも蛸(たこ)


同じこと ほねぬき(骨抜き)


くねくね へたり込む


ああ


ああ


指折り数えりゃ 身も細る


揃えて払う 耳も無し


せめて聞く耳 あればなお


一筋光明 在るならば


朝げと夕げの その娘


それは菩薩か 観音か


ああ


やもすれば


ああ


あわよくば


募る男の 恋心此(これ)下心


娘嫁げば 舟乗らず


舟乗らざれば 縁は無し


己が無縁は 身にしみる


ならせめて


水底(みなそこ)冥土で 夫婦(めおと)にと


思いし心も つかの間に


思いよぎるは 髑髏(しゃれこうべ)


冷たき川底 果てしなく


昇る日沈む日 見て過ごす


それこそ無縁 身震いす


ああ


やはり


我が身は惜しい …






 おわり



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