第5話

警察署を出てまず俺たちがしたことといえば飯を食うことだった。外へ出たときには13時を回っていたし、なによりエリがそう強く要望してきたからだった。それはもう熱烈に。

すぐそこにあったファストフード店に入り注文を済ませて席に着いた。驚いたことに会計は全て顔で済ませることができるらしく、まだ身分の登録が済んでいない俺は大人しくエリに支払ってもらう他なかった。妹に昼食を奢ってもらう情けない兄の構図は若干不服ではあったものの先程貰った金を用いて会計は難なく終わった。


「ハンバーガー。はじめての食事としては申し分ない相手ね。」

エリは注文したダブルチーズバーガーを前にして意を決したように言った。

「お前食事すんの初めてか?」

そう聞くとエリは慎重な面持を崩さないまま黙って頷いた。

どうりで、食事をすると決めた時から急にソワソワしだしたと思っていたんだ。

それにしてもコイツ警察署にいるときは堂々としてたくせに、絶対に遊び半分で来てるだろ。

エリはそれはもう丁寧につつみ紙を空けていく。

俺は面白そうだと思い、サイドのポテトを軽くつまみながらその様子を観察することにした。

包を空けて中を確認すると、彼女はしばらく間を置いて小さく一口噛み付いた。

そのまま黙々と咀嚼していたと思ったら、次は大きくハンバーガーを頬張った。

2秒くらいたっただろうか。彼女の頬はそれはもう情けなく緩んでいた。

「んふふ」

そんな声にもならない音を彼女は発した。恐らく人間が出せる最も幸せな音だったんじゃないだろうか。

その後しばらくそんな感じで咀嚼していたわけだが、ふと我に返ると今度は早口で話し始めた。

「こんなものを発明するなんて人類もまだまだ捨てたもんじゃないわね。これを生み出したってだけでも十分に、、、」なんてことをケチャップでベチャベチャの口でまくし立てていた。

食い方はまぁおいおい直していくとしよう。今回は初めてだし食事を楽しませてやろう。なんて事を考えていたが、

「ゴホッゴホッ」

食べながら急に話し始めたもんだからむせ返って口の中のものが俺のトレイの上に降りかかってきた。

「はぁ」

こいつはつくづくどうしようもない奴だ。さっきのほっこりした気持ちを返してほしい。

「おい、大丈夫か?水飲め水」

そう言って俺は飲み物を手渡す。

「あんま物食ってる時に喋んなよ」

「ごめんごめん」

「今回だけは許してやるよ」

俺はエリに口の周りを拭くように促しつつ、警察署で貰ってきた一式を確認し始めた。

「これには掛けるなよ」

「もうしないわ」

まずは地図を机の脇に広げる。

ヤマトは東北地方の中央、4つの県にまたがるように存在していた。

俺等がいるのはその北部。端のさらに端、ひっそりと存在する桜台という場所だ。

「なんでこんな場所に?」エリに尋ねる。

「のんびり過ごせそうだし」

理由はどうであれガキ二人が転生する場所としてはなかなかいい場所ではあるだろう。

街の中心部へは約200キロほど、大分距離があるように感じられるがこの時代では30分もあれば事足りる距離らしい。

「確認だが、みんなあのタイミングでスタートしたんだよな」

「そうよ そういえば変な時間に始まったわね」

「それはおいおい考えるとしよう」

そう言いながら俺も昼食のハンバーガーに手をつける。

「変わらない味だ」

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