第2話 「契約彼氏、初出勤」
――翌朝。
(……人生、こんなに緊張する登校ってある?)
家を出る前に、三回深呼吸した。
鏡の前で前髪を直し、服装を確認し、もう一度深呼吸。
(落ち着け俺。ただの登校だ。ただし隣に“彼女役”がいるだけ)
集合場所は、家から少し離れた通学路の角。
そこで待っていたのは、昨日と同じ――いや、昨日よりも可愛い白石ほのかだった。
「おはよ、彼氏くん」
軽く手を振りながら、さらっと言ってくる。
「……おはよう」
(“彼氏くん”って呼び方、もうちょっと何とかならない?)
俺の動揺など気にせず、白石は自然に隣に並ぶ。
「距離、これくらいでいい?」
「え、あ、うん……」
肩が、触れそう。
というか、たまに触れてる。
(近い近い近い!!)
白石は平然としているが、俺の心臓は朝から全力疾走だ。
「昨日言い忘れてたけど、外では名前で呼んでね。下の名前」
「し、下の名前!?」
「カップル感出るでしょ?」
(出す必要ある!?)
「……じゃあ、白石……さん」
「それ、他人」
即ダメ出しされた。
「“ほのか”」
「……ほの、か」
言った瞬間、白石が一瞬だけ目を丸くした。
「うん。いいね」
(その反応、反則じゃない?)
学校が近づくにつれ、生徒の数が増えてくる。
視線が、明らかに集まり始めた。
「ね、ねぇ……見られてない?」
「見られてる見られてる」
「軽っ!?」
「大丈夫。どうせ今日中に広まるから」
(それ大丈夫って言わないよ!?)
校門をくぐると、案の定、ざわつきが一気に強くなる。
「え、白石の隣って誰?」
「彼氏?」
「マジで?」
(やめて! 俺のHPはもうゼロだ!)
そんな俺の心情を知ってか知らずか、白石が突然――
俺の腕に、そっと腕を絡めた。
「……っ!?」
「ほら。こうすると、もっと分かりやすいでしょ?」
耳元で小さく囁かれる。
(分かりやすすぎるわ!!)
完全に固まった俺を見て、白石はくすっと笑った。
「緊張しすぎ。契約彼氏なんだから、堂々として」
「そ、それ無理だって……」
「じゃあ慣れよう?」
そう言って、もう一度腕を絡め直す。
(この一か月、俺、生きて帰れるのか……?)
教室に入る直前、白石が小さく言った。
「……ありがとね。引き受けてくれて」
一瞬だけ、昨日とは違う、少し柔らかい声。
「え?」
「なんでもない。ほら、行こ」
そうして始まった、
“期間限定の彼氏生活”一日目。
この時の俺はまだ知らない。
この何気ない登校が、あとで何度も思い出す“特別な朝”になることを。
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