18話 当たり前なことなんて
ある日の夕方。
フローナがコキアの運転席を見たいと言い出し、コキアと共に中へ入った。
運転席の中はキャンピングカーとは思えないほどゆったりとした作りになっている。
運転席にフローナが座ってみると
ふわりと甘い香りがする。
桃と牛乳の香りだった。
席は一つしかないが、横にテーブルがあり、レン特製桃牛乳が置いてある。
最初は牛乳と桃を別々で食べていたのだが、
メリサのアイデアでフルーツ牛乳のようにしてはどうか?と言ってみたところ、コキアが頷き、レンが試作品を作った。
それが気に入ったらしく、それ以来、フルーツ牛乳ならぬ桃牛乳をよく作ってもらうようになった。
コキア「座ってみますか?」
フローナ「え!いいの?」
コキア「どうぞ」
ぽふっ!
フローナ「わっ!フカフカ!それに結構広いね。」
コキア「隊長やレンさんは狭いって言ってましたけど
僕は体が小さいので充分な広さです。」
フローナ「コキア君はここでずっと寝てるんだよね?
体痛くならない?」
コキア「さぁ・・・僕は痛みを感じませんので」
フローナ「あ、そっか・・・じゃあ尚更心配だね」
コキア「?どうしてですか?」
フローナ「だって、痛みを感じなかったら体が悪くなっても気付かないってことでしょう?」
コキア「それはまぁ・・・」
フローナ「メリサさんがコキア君の健康診断はしょっちゅうやってるから大丈夫だよって言ってくれたけど・・・やっぱりちょっと心配」
コキア「最初は畳の部屋で雑魚寝をしていたんですが、一人でいる方が寝やすくてここにしてもらったんです」
フローナ「そうなんだ・・・それならいいのかな?
・・・運転かぁ、コキア君ずっとしてくれてるんだもんね。いつもありがとね。」
コキアが首を軽く横に振る。
コキア「僕は車の運転以外、役に立てる事がないですから」
フローナ「え、運転できるの凄くない?」
コキア「運転なんて他の人だってできますよ」
フローナ「そんな事ないよ!だって私はできないもん!」
ドーン!!!
フローナ「なんかね、私が運転したら死んじゃうからって皆んなに止められてたんだよね。」
コキア「それは・・・なんか分かる気がします」
フローナ「そー??まぁ、だから・・・できて当たり前な事なんて一つもないんだよきっと」
その言葉にコキアの目が真ん丸くなる。
けれど、目の下まで伸びた髪によってフローナからはその目は見えない。
フローナ「コキア君はちゃんと役に立ってるし私達にとって大切な仲間だよ」
コキア「そう、ですか」
その時、レンの声が聞こえた。
レン「フローナさん、コキアさん、食事の準備できましたよー」
フローナ「はーい!行こうコキア君!」
コキアは小さく頷く。
コキア(そうか、皆んなが当たり前にできた事が僕にできなかったように
僕が当たり前にできる事も皆んなにとって当たり前じゃないんだ。)
それは、コキアが生まれて初めて何かに対して"腑に落ちた"瞬間だった。
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