17話 コキアの過去
僕は生まれた時から感情がなく、痛みも感じない。
周りから付けられたあだ名は"ロボット"。
気味悪がって誰も近付かなかった。
だけど僕には感情がないから何を言われてもどうでも良かった。
♦︎コキア10歳。
この頃、僕には特技がある事が分かった。
剣術が人よりも優れているらしい。
そんな僕は10歳で兵隊になった。
恐怖も感じない、痛みも感じない、反抗もしない。
僕は闘うに当たって好都合な存在だった。
体には無数の傷跡。痛みを感じないから気を抜けば死が待っている。
いつも最前線で闘う部隊の更に先頭に立たされていた。
「死んだらまた新しい兵を補充するだけだ」
それが僕の日常だった。僕が死んでも誰も困らない。
♦︎
スラ「なぁ、一緒に飯食おうぜ!」
そんな折、兵隊仲間の中で唯一僕に話しかけてきたのはスラと言う同い年の男だった。
今思うと隊長に似ていた気がする。髪は黒くて耳は尖ってないけど。
彼はいつも笑ってた。誰かが死んだ日も隊長に殴られた後もいつも笑っていた。
どうして僕に話しかけるの?どうして僕にそんな風に笑いかけるの?
最初はただの同情心で仕方なく話しかけてるものだとばかりだと予想していた。
スラ「ももちゃんは絶対に幸せにならなくちゃいけない人間なんだよ!」
ももちゃん。それが彼が僕に与えたあだ名だった。
理由は単純。僕が桃ばかり食べるから。
スラは口癖のように「幸せにならなくちゃいけない」
そう言っていた。
でも、僕には感情がないから、
君がどんなにそう願っていても僕が幸せになる事はない。
♦︎
スラ「ねーねー、ももちゃんももちゃん」
コキア「ねぇ、どうしてスラは僕のことももちゃんって呼ぶの?」
スラ「え、だってももちゃん、桃好きじゃん!」
コキア「え、でも僕一言も桃が好きだなんて言ったことないよ」
スラ「桃食べてる時、嬉しそうにしてる」
コキア「僕、喜んでないよ」
スラ「いや、俺には分かる!」
コキア「ふーん」
スラ「あー、ももちゃんと桃いっぱい食べに行きたいなぁ〜!いつか二人で行こうな!西の地にある桃の郷!」
コキア「別にいいけど」
スラ「やったー!ありがとももちゃん!」
コキア(何で君の方がお礼を言うんだろう。)
♦︎
戦いの中、スラが死にかけていると聞いた僕はスラの元へ向かった。無意識だった。
スラ「ももちゃん来てくれたのか・・・なぁ、俺はもう死ぬんだな」
コキア「うん、君は死ぬよ」
スラ「はは、こう言う時は嘘でも死ぬな、俺が助けるって言うもんだろ」
コキア「・・・」
スラ「正直、ももちゃん来ないと思ってた」
コキア「体が勝手に動いてた」
スラ「はは、そうか。体が勝手にか。
でも死ぬのが俺で良かった・・・ももちゃんは悲しみに飲み込まれる事はないけど、
俺はももちゃんが死んだら悲しみに飲まれてた。」
コキア「何で君は僕にそんなにこだわるの」
スラ「友達だからな」
コキア「友達・・・?」
スラ「まぁ、分からなくてもいいさ今はな。
いずれ分かる時が来る・・・じゃあなももちゃん」
拳と拳をぶつけようとしたがスラの腕は僕に届く前に力尽きた。
"基地にはお前の墓を立てておいた。
ももちゃんはもう戦うな。これからはもっと自由に生きろ"
生まれて初めて僕を友と呼んだ男が死んだ。
でも、僕が涙を流すことはなかった。
ただひたすら真っ白な雪が僕らの上に降り続けていた。
♦︎
僕が戦から帰って来ると、そこには僕の墓があった。
100%助からない闘いだと思われていたからだろう。
そんな時、ふとこのまま僕は死んだ事にして別の生き方をしたらどうなるのかと脳裏によぎった。
だけどすぐに気づく。闘う以外の生き方が分からない。
人を殺すことばかり教えられてきた僕は
人と付き合っていく事にはことさら向いてなかった。
だから僕は森の中でひっそりと暮らす事にした。
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