13話 自分を大事に


店内は夜の喧騒で賑わっていた。

シェル、メリサ、レン、フローナ、コキアの五人は奥の席で静かに飲んでいた。

と言ってもシェルはお茶、メリサはコーヒー、フローナはココア、コキアは牛乳なのだが。


その時だった。


隣のグループ席で飲んでいた男が突然、怒鳴り声を上げながら酒瓶をテーブルに叩きつけた。

かなり酔っ払っているようだ。

 

ガシャァンッ!!!


砕け散ったガラス片がメリサの方へ飛んだ。


メリサ「!!」


シェルは反射的に腕を突き出し、その破片を素手で受け止めた。

手から破片がカランと落ちる。


メリサ「隊長!手が!!」


シェル「大丈夫。ただの擦り傷だ」


しかし、それを見たフローナは・・・。


ズンズンッ!!


無表情のまま、歩き出し、男の胸ぐらをわしっと掴む。


男「な、なんだおまっ・・・ひぇっ」


フローナ「ちょっとお話いいかしらぁ?」


ずるずるずるーーーっ!!


そのまま男を店の外へ引きずっていく。


メリサ「隊長止めなくていいのかい?」


シェル「あの男じゃフローナに勝てないから大丈夫」


レン「気の毒に」



♦︎数分後。


レン「あ、戻ってきましたね」


フローナ「みんなー!お代はこの人が持つってー!」


男「・・・払わせていただきます・・・」

(くそぉ・・・この女めっちゃ強ぇ・・・。てことはあの連中全員ヤベェのか?)


フローナ「ごめんなさいは?」


男「ご迷惑をおかけして、すみませんでした・・・」


客1「マジかよ〜!ラッキー!!」


客2「ねーちゃん最高!!かっこいい〜!!」


店内は拍手と歓声に包まれた。

マスターはニッと広角を上げて静かに歓声に溶け込んだ。


メリサ「フローナちゃんには敵わないねぇ」


シェル「ああ」


♦︎

そして少し静かになった頃。


メリサ「隊長」


シェル「ん?」


メリサ「さっきは庇ってくれてありがと」


シェル「俺は当たり前のことをしただけだよ」


メリサ「手当てするから来て」


シェル「えー?こんなの唾つけときゃ治るって」


メリサ「だーめ!隊長はもっと自分を大事にしな」


シェル「メリサ・・・ありがとな」


シェルは一瞬驚いたように目を丸くし、

それからふっと柔らかく笑った。


メリサ(隊長。君がいなかったら、僕はこんなに楽しい毎日を送れていなかったよ。

だからさ、もっと、自分のことも大事にしておくれよ。)




♦︎夜。

キャンピングカー・和室。


フローナ「ねぇ、明日行く場所、この道、真っ直ぐ行った方が早いんじゃない?」


地図を覗き込むフローナ。

しかしシェルは、畳の上にあぐらをかいた姿勢のまま、首を振る。


シェル「いや。ここは魔獣も山賊も多い。遠回りだがこっちの方が安全だ。」


フローナ「そっか・・・」


シェル「目的地に早く着くより、“お前ら”の無事が最優先だ」


ぽつりと告げたその声は、静かで揺るぎなかった。



♦︎小さな治療部屋。


無機質な部屋に椅子が二つと机が一つとコンパクトなベッドが一つ。

箪笥の中には薬や注射器、体温計など医療道具が入っている。

普段は安全の為に全て中に仕舞っている。


メリサ「フローナちゃん?どうしたのさ。」

フローナ「今日のことなんですけど・・・」

メリサ「今日?とりあえず椅子に座って」

フローナ「ありがとうございます」


フローナが椅子に座る。

 

メリサ「それでどうかしたのかい?どこか具合でも悪い?」

フローナ「いえ、具合は大丈夫なんですが・・・。

今日のシェルのことでちょっと。」

メリサ「隊長のこと?」

フローナ「はい、シェルが安全な道を見つけてくれた時に"お前らの安全が"って言ってて。

"俺らの"って言わないんだなって。」


メリサ「あぁー、なるほど。そういうことかい。」


フローナ「はい・・・」


フローナ(シェルは優しい。

仲間のことは誰よりも大事にしてくれるのに、自分のことは後回しだ。)


メリサ「隊長はいつもそうだよ。

僕らには過保護なくらいに気を回すのに、自分は置き去りにする。」


フローナ「それがちょっと寂しいです。」


メリサはふっと笑って、フローナの頭に手を置いた。


メリサ「隊長が自分のことを大事にできないんなら

僕らがいっぱい大事にしてあげようね。」


フローナ「はい!」


メリサ「ははは、君は健気で可愛いねぇ」

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