14話 ローズ


♦︎過去。15年前。

メリサ5歳。


公園の砂浜。


ローズ「あら?あなた男ですの?」

メリサ「そうだよ。よく分かったね。この格好していたらみんな間違えるのに。」

ローズ「見れば分かりますわ。それで、心はどっちですの?」

メリサ「男」

ローズ「わたくし、あなたの事気に入りましたわ、

友達になりましょう」

メリサ「うん、いいよ」


お嬢様な格好をした女の子とフリフリのワンピースを着たメリサは見た目に似合わないくらいの男らしい握手をガッと交わした。


 

♦︎現在

メリサ「それからは幼馴染みたいに一緒にいたよ。

親同士の問題で途中からは離れ離れになってしまったけど、僕は一度だって彼女を忘れたことはなかった。」

 

フローナ「メリサさんはローズさんに気持ちは伝えたんですか?」

メリサ「さすがフローナちゃん。感が鋭いね。

僕はさ怖かったんだ。気持ちを伝えてしまう事で

唯一の心のよりどころである彼女との関係が壊れてしまうのが・・・だから言えなかった。」

フローナ「それはローズさんも同じ気持ちかもしれないですよ?」

メリサ「そうかもしれないね。フローナちゃん、話を聞いてくれてありがとう」

フローナ「いえいえ!また会えるといいですね。ローズさんに。」

メリサ「うん!」




♦︎次の日。

昼間、五人が街を歩いていると・・・。


突如、音楽と共にバラの花びらが舞った直後、上空から声が聞こえてきた。

ヘリの梯子に派手なドレスを身に纏った一人の女性が乗っている。


ローズ「お久しぶりですわねメリサ」

メリサ「あ!?ローズ!!」


タッ!!とローズがヒールをものともせずに地面に着地する。

更にヘリの中から三人の黒スーツにサングラスの男性が現れた。

 

メリサ「この人たちは誰だい?」

ローズ「この三人は私のボディーガードですわ」

メリサ「まじか」

ローズ「まじですわ。名前は左からハリラ、ベルベル、ケフタですのよ。」

 

ハリラ「よろしく」

ベルベル「よろしく」

ケフタ「よろしく」


メリサ「よ、よろしく」


メリサ(見た目じゃ全然違いが分からない。声で判断するしかないな。)

 

ローズ「浮浪者をやっていたからスカウトしたんですのよ」

メリサ「相変わらず大胆なことするね。

あれ、でもそしたら給料払うんじゃないの?家とは縁切ったって言ってなかった?」

ローズ「ええ、もちろん自分で稼いだお金から払ってますわ」

メリサ「え!?凄いじゃないか、何の仕事してんのさ?」

 

ローズ「ドレスのデザイン会社の社長をしてますのよ」

メリサ「まさかの社長!?」


そんなこんなでローズとボディガード三人としばらく旅を共にすることになった。


♦︎

メリサは旅が始まると真っ先にバラの花束をローズに渡した。


メリサ「僕は君が好きだ、やっと言えたよ」

ローズ「ありがとうメリサ。メリサ、わたくしも次にあなたに会ったら言おうと思ってましたのよ」

メリサ「何を?」

ローズ「わたくし、メリサが好きですわ」

 

メリサ「ローズ・・・僕はあの時、唯一の心の拠り所である君を失うのが怖くて好きだと言えなかった」

ローズ「メリサ、私もそう思ってましたわ。

でもあなと離れてみて気付いたんですのよ。

好きなものを好きと言わない私は私ではないと。」

メリサ「!ローズ・・・そうだね、僕らは僕ららしくない事してたんだね」


 

メリサ(あぁ、彼女は変わらないな、ずっとあの日から僕の好きな君のままだ。)

 

メリサは愛おしげにローズを見つめた。


ローズ「メリサはいつか私を好きでなくなる日が来るのかしら?」

メリサ「そんなの絶対ないよ」

 

ローズ「街が変わるように人の心もいずれ変わってしまいますわ」

メリサ「確かに、僕はこの趣味がずっと続くかは分からない。でも、君を好きな気持ちは変わらないよ絶対に、

ローズは自分の気持ちが変わってしまうと思う?」

 

ローズ「ないですわね」(キッパリ)

メリサ「!」

ローズ「わたくし、この格好とメリサだけは一生好きですもの」

メリサ「本当に昔から君はブレないな」



ローズ「メリサ、一つお願いがありますわ」

メリサ「何だい?」

ローズ「結婚式を挙げましょう。と言っても本当に結婚する訳ではなくあくまで形だけ。

わたくし、結婚はしたくありませんけどウエディングドレスは着てみたいんですの」


 

メリサ「あは、君も結構わがままな人だね」

ローズ「これが私ですもの。こういうわたくしはお嫌い?」

メリサ「ううん、好きだよ・・・。しようか、式と言っていいのか分からないけど」

メリサ「そうですわね、"なんちゃって結婚式"とでも命名しましょうか」


メリサ「いいね君らしくて・・・それに"僕は君には勝てないから"」

ローズ「ふふ、決まりですわね」


メリサ(ローズ、僕は正直何だっていいんだ。君が僕の側で笑っていてくれるなら。)






♦︎しばらくして

僕は最近、

ローズがボディーガードたちに守られている理由を知った。

それは、ローズと護衛の男性たちと一緒に行動した時のことだった。

 

ローズの蹴りにやられた男が弱々しく訪ねた。


「こんなに強いのに何故周りの連中に守られているんだ・・・?」

 

ローズ「それはあえてそうしてるだけですわ。

私を守る体制を常に取らせておけば、私が弱いと相手を油断させる事ができますもの。

今まさにあなたがそれを証明してくれましたわ」

 

「くそ!!」

 

ローズ「それと一つ、私は仲間を傷つけたあなたを絶対に許しませんわ、覚悟しなさい!」


敵は更なるローズの足蹴りによって一瞬で意識を失った。


そうだ。ローズは強い。

なのに護衛を付けてる。だからきっと、この人たちは

ローズを慕っているのだとすぐに分かった。

だってどう考えてもローズの方が強いのだから。


レン「ローズさん、物凄い蹴りですね」

メリサ「ローズは戦闘民族の末裔だからねぇ、7歳の時、一撃で熊を倒してたよ」

レン「それは凄いですね・・・」




♦︎

ローズ「メリサは男ですわよ」


昼間。

街中でメリサを女だと勘違いした男が声を掛けてきた時にローズが言った。

 

「え!?なーんだそっか、じゃあ君だけでもいいからさ」


男はすぐに態度を変え、ターゲットを無粋にも変えようとする。

本当、最低だ。

 

メリサ「駄目だよ、ローズは僕のものなんだから」

「え、君、心も男なの?じゃあ何で女装してんの?」

メリサ「うるさいな、僕の勝手だろ」

 

「派手なねーちゃんとオカマのカップルとかやべーわw」

 

ゴスッ!!!

ローズは男の股間目掛けて勢いよく脚を蹴り上げた。

鈍い音が響く。

 

「!???」

 

ローズ「人の恋路にちゃちゃ入れる人は嫌いですわ」


「こんのあま・・・ぐぅ・・・」

 

男は股間を押さえてうずくまっている。

一撃で熊をも倒すローズの蹴りだ。

そんな蹴りが股間に命中すればひとたまりもないだろう。


シェル「わー!!お兄さんどいてどいてー!!」

 

と、その時。突如背後から猛スピードで走ってくるシェルの姿が見えた。

相変わらず容赦ない。


ドンっ!!!

 

「ぐへっ!!!」

 

鈍い音と共に男が倒れる。

 

シェル「あーあ、だからどいてって言ったのに」

メリサ「隊長、何してんだいローラースケートなんか履いて」

シェル「いやー街で見かけてついやりたくなっちゃってさ。けど、難しいなこれ」

フローナ「シェル大丈夫?」

 

フローナが手を貸し、シェルがその手を取る。

 

シェル「ありがと」

 

 

「誰か俺の心配して・・・ガクッ」

男の声は虚しくかき消された。


 

メリサ「この人達がいると悩む暇ないね」

ローズ「本当ですわね」


メリサ(君も何だけどね)




♦︎なんちゃって結婚式


街外れの小さな丘。

夕暮れの風がやさしく吹き、空はオレンジ色に染まっていた。


即席のアーチには、どこからか集めた大量のバラの花。

地面には白い布が敷かれ、簡易的なバージンロードまで作られている。


フローナ「すごい、本当に結婚式みたい・・・」


レン「凄い完成度ですね」


シェル「何だかんだ言ってメリサ、本気のやつじゃん」


メリサ「いやいや、あくまで“なんちゃって”だからね?」


その時。


ローズ「お待たせしましたわ」


全員「!!」


白いドレスに身を包んだローズが、夕陽を背に現れた。

ふわりと広がる純白のドレス。

いつもの派手な薔薇の装いとは違う、息をのむほど美しい花嫁姿だった。


メリサ「ローズ・・・」


ローズ「どうですの?

わたくし、ウエディングドレス、似合っています?」


メリサ「綺麗だよ」


ローズは満足そうに微笑み、ゆっくりとメリサの前へ歩いていく。



♦︎ 司会:シェル(強制)


シェル「えー、急遽始まりました、“なんちゃって結婚式”。

まさか俺が司会やるとは思わなかったけどな」


フローナ「シェル、頑張ってー!」


シェル「はーい・・・。

それでは、新郎メリサ。新婦ローズ。前へどうぞ」


メリサは少し緊張した様子で、ローズの前に立つ。


レン「指輪はありませんよね?」


ローズ「代わりに、こちらを使いますわ」


ローズが差し出したの

小さな薔薇のブローチ。


ローズ「これは、あなたと出会った日に摘んだ薔薇を加工したものですの」


メリサ「そんなのずっと持ってたの?」


ローズ「ええ。あなたとの約束ですもの」


メリサは照れながら、自分の胸元につける。


シェル「それじゃあ、新郎。新婦に一言どうぞ」


メリサ「急だね」


少し黙った後、メリサは真っ直ぐローズを見る。


メリサ「ローズ。

君は自由で、強くて、わがままで・・・でも、誰よりも芯が通っていてブレない。」


ローズ「・・・」


メリサ「僕は、そんな君がずっと好きだ。

“形だけ”でも、今日ここに立てて、嬉しいよ」


ローズは少しだけ目を伏せ、すぐに顔を上げる。


ローズ「では、今度はわたくしの番ですわね」


ローズ「メリサ。

あなたは弱くて、臆病で、すぐ悩むくせに誰よりも誠実ですわ」


メリサ「・・・」


ローズ「わたくしは結婚はしません。

けれど、あなたを好きな気持ちだけは、一生変わりませんわ」


ローズ「ですから今日のこの式は

“ずっと好きでいる”という契約ですの」


フローナ「えっと、最後はキス・・・ですか?」


メリサ「えっ!?」


ローズ「“なんちゃって”ですもの。ほっぺたで十分ですわ」


ローズはそう言って、

ちゅ、とメリサの頬に軽く口づけた。


メリサ「・・・」


フローナ「メリサさんが固まってます!」


シェル「大丈夫かメリサー」


レン「完全に時が止まってますね」


ローズ「あら?意外と可愛い反応ですわね」


 

♦︎ 夜

式の後、少し離れた丘の上。


メリサ「本当に、これでよかったの?」


ローズ「ええ。

だって今日は願いが叶いましたから」


メリサ「ローズ・・・」


ローズ「それに」


ローズはくるりと振り向き、笑う。


ローズ「メリサ、大好きですわよ」


メリサ「僕も好きだよローズ」


夕暮れの空の下、

二人の距離は、あの日よりもずっと近づいていた。


 

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