11話 寄せ鍋
昼下がり。
キャンピングカーは、ゆったりとした陽だまりに包まれていた。
フローナは布団の上でぼんやりと膝を抱えて座り、窓から入る光をただ見つめている。
部屋には静かで、少しだけ寂しい空気が漂っていた。
今日は生理前。一月の間で一番メンタルが落ちる日。
そんな中、扉がそっとノックされる。
フローナ「だーれ?」
シェル「俺だ・・・入っていいか?」
フローナ「うん・・・」
ガチャっと部屋の扉が開く。
フローナはベッドサイドに腰掛け、何かに怯えている様子だった。
シェル「フローナ、そばにいていいか?」
フローナは少しだけ目を伏せた。
フローナ「でも・・・」
シェル「泣いても怒ってもいいから。
そばにいさせてほしい」
まだ付き合っているわけではない。
けれど、仲間を放って置けなかったシェルはメリサの反対を押し切りフローナに声を掛けた。
その言葉は優しく、力強かった。
シェルが心から心配してくれていることが分かり、
フローナは小さく頷く。
フローナ「うん」
シェルは隣に座り、そっと隣で寄り添った。
しばらく沈黙が続いた後、フローナがぽつりと呟く。
フローナ「シェル、ごめんね・・・迷惑かけて」
シェル「こんなの迷惑のうちに入んないよ」
そのまま、彼はフローナの頭を優しくポンポンと撫でた。
フローナ「・・・ありがと」
シェル「手、繋ぐか?」
フローナ「え!?」
男と部屋に二人きり。
しかし、そんな空気を微塵も漂わせることなくシェルは話を続ける。
シェル「弟がさ、泣いてる時によく手繋いでたんだ。
そしたらすぐ泣き止んでてさ。嫌だったらしないよ。」
フローナは何も言わず、そっとシェルの袖を指先で掴んだ。
シェルはふっと微笑み、その手を優しく握り返した。
温かい手だった。
その温度は、胸の中の冷たい氷をゆっくり溶かしていくようだった。
数分後。
シェルの体温が移ったフローナはポカポカと体が温かくなり、うとうととまぶたを落とし始め・・・
そのまま静かに眠りについた。
♦︎
コン、コン。
メリサ「隊長、入るよ」
シェル「ああ」
メリサは寝息を立てるフローナを見て微笑んだ。
メリサ「フローナちゃん、眠れたみたいだね」
シェル「うん」
メリサ「・・・ずっと手繋いでたのかい?」
シェル「まあな。弟にしかやった事なかったからフローナに効くか分かんなかったけど・・・
しばらくしたら落ち着いたみたいでさ。
うとうとし始めたから、そのまま寝かせようと思って」
メリサ「そうかい。それなら後は隊長に任せるよ」
メリサは満足げに頷き、部屋を出て行った。
♦︎
しばらくして、フローナが目をこすりながら起き上がった。
フローナ「ん・・・あれ、私、寝ちゃってた?」
シェル「起きたか」
フローナはふと、自分の手にまだ温もりが残っているのに気付いた。
フローナ「シェル・・・もしかして・・・手、ずっと繋いでてくれたの?」
シェル「うん」
フローナ(そっか・・・シェル、振り解かずにいてくれたんだ・・・)
フローナ「あの・・・ありがとね?」
フローナは少し照れたようにお礼を言った。
シェル「いえいえ。さっきよりは顔色良くなったな。
良かった」
フローナ(シェルはほんと優しいなぁ・・・)
♦︎夜。
レンが夕食の用意をしている間、皆んながフローナを気遣っていた。
生理のことも打ち明けた方がいいとフローナ自身が判断し、皆んなに話したのだった。
メリサ「よし、僕はこれからフローナちゃんの不調を無くす薬を開発するよ」
シェル「珍しくやる気だな、メリサ」
レン「それなら俺は微力ながら元気になれる食事を調べて作ります」
フローナ「メリサさん、レンさん・・・」
そこへコキアが真顔で手を挙げた。
コキア「なら僕は、抱き締めてあげます」
フローナ「え!?///」
コキアの口から意外な言葉が飛び出す。
コキア「抱き締めると精神が安定するというデータがありますから」
コキアがじりじりとフローナに近付く。
彼は感情がない。ただ、データを元に彼女を癒そうとしているだけだ。
シェル「なっ!?コキアずるいぞ!
俺だって手繋ぐだけで我慢したのに!・・・あ・・」
コキア「手、繋いだんですか?」
レン「ほぅ?それは聞き捨てなりませんね」
シェル「いや、その・・・フローナが落ち込んでたから励まそうと、ちょっとだけな??」
レン「急にもごもご言うじゃないですか」
メリサ「いーや、ガッチリ繋いでたね。しかもず〜っと!」
シェル「メリサ!余計なことレンに言うな!!
レン、落ち着けって、な?」
レン「問答無用!」
シュッ!!
レンは立てかけてあった刀を手に取り、鞘から刀を抜くとシェル目掛けて振り下ろす。
シェル「ひえぇ!!助けてぇ!!」
シェルが逃げ、フローナが笑う。
フローナ「ふふ」
コキア「・・・」
追いかけっこが始まったその隙に、
コキアは静かにフローナへ歩き寄るとぎゅっと抱き締めた。
フローナ「え、ちょ、ちょっとコキア君!?///」
シェル「あーー!!どさくさに紛れて何フローナに抱き付いてんだ!!」
レン「そうですよ!!抜け駆け禁止ですよ!!」
フローナ「まぁまぁ!コキア君まだ子どもなんだから!」
シェル「俺の一個下なだけじゃい!」
レン「そうですよ!!13歳はもう立派な男です!」
コキア「二人もフローナさんとハグしたいんですか?」
依然として真顔で続けるコキア。
シェル「え、そりゃまぁ・・・」(照れ)
レン「んんっ!」(咳払い)
メリサ「じゃあもうまとめて皆んなでハグしちゃおうよ♪」
フローナ「え、わぁっ!!」
メリサは、フローナを抱き締めているコキアごと抱きしめた。
シェル「俺も俺もーー!!」
レン「いえ、俺は・・・」
シェル「つべこべ言ってないでレンも来いって!!」
シェルはレンの腕を引っ張り、強引に輪へ入れた。
レン「え、ちょ、ちょっと!!」
最終的に、
一番体の大きいシェルが、全員をまとめて抱きしめる形になった。
フローナ「あったか〜い!」
メリサ「だね♪」
コキア(抵抗なし)
レン「やれやれ。今日の夕飯は"寄せ鍋"ですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます