10話 二人の精神不調

メリサが昼の食卓の食器を準備しながら言った。


フローナが起きるのは朝とお昼の間、コキアは夜なので

フローナは朝食がそのまま昼飯になるので一日二食、

コキアに関しては一日一食だ。

最初はメリサが心配していたが、体調の管理をしながら

二人にはそれが最適だと判断した。

 

最初は無理に起きていたフローナやコキアも、シェルの一言で今のスタイルを確立したのだった。


"体調が良い方がいいだろ。

戦い以外はのんびりいこうぜ。"と。



メリサ「あれ、フローナちゃんまだ起きてこないね。僕、起こしに行ってくるよ」

シェル「いや、俺が行くよ」


コンコン、と軽くノック。


シェル「フローナ、開けるよ」


そっと扉を開けると、フローナはベッドの端に座ったまま、青ざめた顔で俯いていた。


シェル「フローナ、何かあったか?」


フローナは小さく左右に首を振る。

途切れ途切れに声を絞り出した。


フローナ「急に、不安と恐怖感が来て・・・ごめ、ね・・・時々あることだから・・・大丈夫」


こんな私じゃ、みんなに見放されても仕方ないよ・・・。


その心の声が表情から全て伝わってくる。

シェルは何も言わず、ただそっとフローナを抱きしめた。


シェル「大丈夫だ。俺らが付いてる。

俺に言いにくい時は、メリサやレン、コキアに言ってくれていいからな」


フローナ「うん・・・ありがと」


フローナはシェルの胸の中で、少しだけ呼吸が穏やかになった。




♦︎二週間後


フローナの不調がすっかり良くなった頃。

今度は廊下で突然、レンがしゃがみ込んだ。


レン「っ・・・は・・・苦しい・・・」


フローナ「レンさん!大丈夫ですか?今メリサさんを呼んで・・・」

シェル「フローナ、大丈夫。俺がやるから」

フローナ「え?」


シェルはすぐにレンの背後に回り、強く抱きしめて支えた。

まるで呼吸を少しずつ分け与えるように。


そこへメリサが駆け寄る。


メリサ「フローナちゃん、おいで」

フローナ「は、はい」



メリサはフローナをキッチンへ連れて行き、柔らかく言った。


メリサ「フラッシュバックだね」


フローナ「フラッシュバック、ですか?」


メリサ「うん。レン君は過去のことを思い出すと、過呼吸が出ちゃうことがあるんだ」

フローナ「あんなにしっかりしてるレンさんでさえ・・・」

メリサ「何かを抱えてるのはフローナちゃんだけじゃないってことさ。

大丈夫。君にもレン君にも、僕らがついてるから」


フローナは涙をこぼしそうな目で呟いた。


フローナ「・・・私、こんな弱いままじゃみんなが離れていっちゃうんじゃないかって不安になって・・・それで・・・」


メリサはにっこり笑う。


メリサ「じゃあ質問。フローナちゃんはさ、隊長がよく暴走するけど嫌になったかい?」


フローナ「え?いえ、全く」


メリサ「それと同じさ」


フローナ「全然違うと思うんですが・・・」


メリサ「他人なら面倒に思って放っておくかもしれないね。

でも、何百回起きても嫌じゃないし放っておけないって気持ちになるのは仲間の特権だろう?」


フローナ「・・・そうですね。私も、嫌だと思ったことないです」

メリサ「でしょー?」


メリサは嬉しそうに笑い、続けて肩をすくめた。


メリサ「それにしても、なぜか隊長が抱きしめると発作が治るんだよね」


フローナ「不思議ですね・・・私の時もそうでした」


メリサ「おや、フローナちゃんも?」


フローナ「シェルには何か不思議な力があるんでしょうか?」


メリサ「ありゃ、アニマルセラピーだよ」


フローナ「ぶっ!!ちょっ、メリサさん、それ的確すぎます!」

メリサ「あ、今の上手かった?」


ケラケラと笑うメリサにつられ、フローナも笑う。


その瞬間。


シェル「誰がアニマルセラピーだメリサ」


背後から見事なツッコミが入り、メリサが肩を跳ねさせた。


メリサ「やだよ、聞いてたのかい?」


フローナ「シェル、レンさんは・・・」

シェル「心配すんな、寝てるよ。起きたら治ってる」

メリサ「そうかい、それならよかったよ」


フローナは胸を撫で下ろす。


フローナ「悩んでるの、私だけじゃなかったんだ」

シェル「ん? ああ、精神的なやつな」

フローナ「うん」

シェル「まぁ、何にも抱えてない奴なんかいないだろ」


フローナ「そっか。そうだよね」


メリサが顎に手を当てる。


メリサ「ってことは隊長も何か悩んでるのかい?

見たことないけどさ」

フローナ「確かに、シェルが悩んでるところ見たことない・・・怒ってるとこもないし」

メリサ「基本的に隊長は喜怒哀楽の喜と楽しかないんだよ」

フローナ「それも凄いですね・・・」


シェル「あのねぇ・・・俺だって悩むときくらいあるって」

メリサ&フローナ「「例えば?」」

 

シェル「えっ?うーん、悩み、悩み、悩みか〜・・・」


腕を組み考える。


メリサ「悩みがないことに悩まないでおくれよ」


 

♦︎

夕方近くになると

眠そうに目をこすりながらコキアがキッチンへと入ってきた。


コキア「ふぁ・・・」

フローナ「おはよう、コキア君」

コキア「おはようございます」


メリサが思い出したように言う。


メリサ「コキア君、桃と牛乳でいいんだったよね?」

コキア「はい。あ、できればフルーツ牛乳で」


(※コキアは基本的にフルーツと牛乳しか食べない。

桃の季節は特にそればかり)


メリサ「はいよ」

フローナ「あ、私やります!」

メリサ「ありがと。じゃあ一緒に作ろうか」


フローナは嬉しそうに頷いた。


調理が進むころ、コキアがシェルの裾をくいくいと引っ張った。


シェル「ん?どした、コキア」


いつもと違う空気感、レンがいないことに気付いたコキアはシェルに質問する。


コキア「何かあったんですか?」


シェル「さっきレンが発作起きてな。でも今寝てるから、大丈夫だ」


コキア「そうですか」



♦︎10分後

キッチン。


メリサ「はいよ、コキア君」

フローナ「どうぞ!」


二人が作ったフルーツ牛乳(桃+牛乳)を渡す。

 

コキア「ありがとうございます・・・ごくごく」


そこへ、レンがゆっくりキッチンへ入ってきた。


フローナ「あっ、レンさん!」

シェル「よー起きたな。気分どうだ?」

レン「大丈夫です・・・ご迷惑をおかけしました」

メリサ「全然だよ」

フローナ「元気になってよかったー!」


シェルはその場でパッと笑う。


シェル「じゃ、俺焼き魚食いたい!」

メリサ「こらこら、レン君病み上がりなんだから今日はパンで我慢しな」

レン「いえ、俺は平気です。というか、何もしてないと落ち着かないのでやらせて下さい」


 

♦︎

レンは料理が好きで料理関連はレン担当だ。

洗い物や食器の用意はフローナやメリサが担当している。

ちなみに、掃除はフローナが担当、洗濯物はメリサが担当している。

コキアは寝ている時と食べている時以外のほとんどが運転している為、

広めの運転席はコキアの部屋としても使われていた。


 

メリサ「そうかい?それならお願いするよ。

でも、無理はしないどくれよ」

レン「はい。ありがとうございます」


フローナはそっと胸に手を当てた。


悩んでるのは私だけじゃない。

それぞれに傷があって、それでも同じ場所に立っているんだ。



♦︎落ち込まない理由


フローナ「それにしてもシェルってほんと自信家だよね」

シェル「ん?俺、自信なんかないよ」

フローナ「嘘」

 

シェル「本当だよ、だって言うのが先だもん」

 

シェルは人差し指を立てて言った。

 

フローナ「!・・・それは一理あるかも」

シェル「でしょでしょ」

メリサ「隊長でも落ち込むことあるのかね」

レン「隊長は能天気のかたまりですからね」

シェル「あのねぇ」

フローナ「でも、確かにシェルが落ち込んだとこ見たことないね」


シェル「んー、落ち込む理由がない訳じゃないよ?

でも、俺が落ち込んでる間にお前らに何かあったらずっと後悔するだろうし。

それにその落ち込んでる時間、お前らと楽しいことしてた方が良いじゃん・・・ってどうしたお前ら?」

 

天を仰ぐ一同。

 

メリサ「自分の汚れた心が浄化された気がするよ。後光差してるし」

レン「右に同じく」

シェル「え、何どゆこと?」

フローナ「シェルが尊いってことだよ」

 

シェル「うん?」

コキア「?」

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