③降伏した相手を無慈悲に殺してはいけません

 岩だらけの大地に真っ黒な丘がある──否、それは巨大なドラゴンの姿だった。


──魔竜。あるいは人類最悪の敵。


 そして今日も彼の前には、彼を倒そうとする者たちの姿があった。


 人狼ワーウルフながらも人として育てられ、聖剣ガッサントーダを携えて魔竜討伐に挑む勇者……と、あと賢者っぽい女、武道家っぽい男、僧侶っぽいジジイ。


 人類最強と呼ばれる彼らは、漆黒のドラゴンを前にしても怯むことはなかった。


 武道家が闘気を波動にして放つ。僧侶が光の槍を召喚してそれを魔竜に向かって放つ。賢者が右手と左手からそれぞれ炎と氷の魔法を放つ。


「魔竜よ、これまでだ。俺の抜刀術『アマコリュウセン』にてそなたを無にかえそう」


──対して、魔竜はとりあえず様子を見る。挨拶代わりに邪息ブレスを吐くことも我慢する。


 そうしているうちに勇者の仲間たちが放った波動やら魔法やらが直撃する。そのタイミングを狙って勇者が踏み込んで斬撃を放つ。


「アマコリュウセン!」


 こうして勇者の必殺技が見事に漆黒を斬り裂いた。


「ぐお……ぐおおおおおお」


 苦悶の声をあげる魔竜。それを見て追撃をかけようとする勇者──だが。


 聖剣が半ば消滅していた。これでは追撃ができない。


「ぐおおお……ぐお?」


 攻撃がんでしまったため、いつまでうめいていれば良いのかを確認するように──魔竜が勇者たちを見た。


「千載一遇のチャンスだ。この命、燃やし尽くすぜ!」


 意を決して、武道家が己の生命をすべて波動に変えて──自爆技である必殺技を発動させる。


「みんな、短い間だったけど楽しかったよ」


 それに続いて、賢者が己の生命をすべて魔力に変えて──自爆技である魔法を発動させる。


「おいぼれが役に立つ日が来たかのぉ」


 さらに僧侶が己の生命をすべて魔力に変えて──賢者と被ったなぁと思いながら自爆技である魔法を発動させる。


「ぐおおおおおおおおおおお」


 それらが直撃すると、再び魔竜が苦悶の声をあげた。波動やら魔法やらがキラキラと光っている間じゅう、彼はずっと声をあげ続けた。


「ぐおおおお……ぐお?」


 そして静寂が訪れる。結局のところ無傷だった魔竜と、武器と仲間を失った勇者だけが残されていた。


「…………」


 絶望した勇者は聖剣を投げ捨て、狼の姿に変身すると──腹を見せて寝転がり、降伏のポーズをとった。そこに魔竜は容赦なく爪を振り下ろす。



***



【お説教タイム】


「無抵抗の犬さんをぶっ潰してはいけません。世界中から抗議が殺到して大変なことになります」


 少女の姿をした女神の前で、魔竜が土下座(?)をしながら話を聞いている。


「ぐぬう。しかしあれは犬じゃなくて狼だし、我は元から世界中から嫌われておるし」


「言い訳をしてはいけません。とにかく好感度を意識してください。あと爪で叩き潰すのも容赦無さすぎるのでめてください。もっと優しく撫でるように……つまり手加減してください」


「分かった。次からは気をつける」


 魔竜はそう言って謝った。人類最悪の敵は、女神の前ではちゃんと反省をする弟なのであった。

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