第4話 不信の権者
絶えず轟く爆発音に街の群衆はパニックになって訳もなく東奔西走し、炎が建物から建物に移り建物の崩壊も始まっていた
最初の爆発から数時間経ってもこの街に助けは来なかった
街に滞在していた冒険者やギルドで名の知れたパーティの面々がたった1人の彼に立ちはだかったが、全てただの肉塊に成り果てただけだった
「あれェ?俺ナニしに来たんだっけカァ?」
「なんでもイイカァ…ただ気持ちよくぶっ壊すゾォ!!」
「エスプロ….」
"
突然身体の自由がきかなくなった男は奮い立って何度も体を動かそうとしたが動く気配は無かった
「なんで動かネェ!ダレだ!?」
頭も動かせない彼は目を使って辺りを見渡したが生きて立っている人影は見当たらなかった
すると唯一見ることのできない背後から彼にとって聞き覚えのある声がした
「困るな…こんなに目立つことをするだなんて…。」
「俺はアスランが持ち出した本の回収を命じたはずだが?」
灰緑色の目まで届くほどの髪と、髪と同じ色をした瞳を宿す目の下に大きな隈ができており、痩せ細った体つきで白衣を着た男が大きなカバンを背負いながら男は彼の背後に立っていた
「ベリアン…」
「お前はいつから俺を呼び捨てにできるほど偉くなったんだ?」
怒気のこもった声にその男は狼狽えることなくそう答えた
「やっぱりお前みたいな'人'は信用出来んな…」
「ふざけんナァ!」
彼は身動きの取れない身体に鞭打ったがそれでも指先が少し震えるだけだった
「知ってるだろう?俺の"不信"の権利の権能を…」
「黙レ!このヒョロガリがァ!」
自分の話を聴く気がないと判断したベリアンは怒り狂う彼の口をその権能を持って閉ざした
「これで少しは人の話を聴く気になるだろう?」
それでも彼の目は血走り鼻息が荒々しいまま…
動けるのなら今すぐにでも飛び出して殴りかかってくるのが容易に想像できた
「その様子からするに俺の命令なんてもう頭の片隅にもないんだろうな。」
「命令を下した後、念のため俺も後をつけてみたが案の定こんな騒ぎになった…」
「もうすぐこの件を鎮圧するために誰かこの国の実力者がやってくるだろう…どう責任を取るつもりだ?」
「このまま逃げても捜索と調査が始まってこの近くでの活動が制限されるぞ?それにまだ命令の内容を実行できていないんだろ?」
そう詰められた身動きの取れない男はそれでも我に帰る様子はなく、獣のような目は健在だった
「お前が俺の命令を無視したのはもうこれで3回目だよな?」
'3回目'。この言葉は彼のポリシーのひとつだ。
「俺も1回ならまだお前のことを信用し、2回目なら疑い、3回目はもう信じない。」
「お前は俺の敵だな?」
ベリアンは狂気じみた笑みで灰色の男の長いボサボサの髪を引っ張り上げる
「お前はもう未来の信徒の人間でも俺の部下でもない。」
「お前は…'敵'だ!」
彼はカバンの中から一本の注射器を取り出して彼の首元にそれを刺そうとした
中身は嫌でもわかる、絶対に身体に良くないもの、灰色髪の男はまともな自我を持っていなくとも本能でそれを感じ取れた
自然と彼の目からは涙が零れ落ちた。
死にたくないという本能が彼の本能に強く根付いた、身体が静かに震えそれは止まることを知らない。
死という恐怖は彼の意識を少なくとも正常に戻した
「なにか最後に言い残すことでも?」
声を発することのできない口をモゴモゴとしている彼の様子を見てベリアンは口の拘束を解除した
「死に…だくなイ…!」
掠れた声で放たれたその一声は心が身体が恐怖に呑まれたことが明確に表れていた
「その恐怖心は信用に値する。」
ベリアンは彼の'恐怖心'に信用を見出した。
決して命令に逆らうことはなく裏切ることもない。
目的のためならなんでもする操り人形が完成した。
「これを持っていけ」
「これ以上俺を失望させるなよ」
「わかっタ。」
一本の緑色の液体の入った試験管を持たされた灰色髪の男は不信の拘束から解放されその身体は自由になった。しかしその心はベリアンの手中にあった。
もうあの獣のような目もいまや見る影もない。
男は獣から従順なペットになった。
「この街。ネルマス町の南東はお前がほぼ焼き尽くした。」
「アイツの家はこの街のどこかということしかわかっていない。南東の住民に聞き込みをしてもそのような男は知らないの一点張りだった。」
「つまりアイツの家は南東にはないと考えた方がいい。」
「あの本の鍵が壊されていて既に誰かに読まれているようなら読んだ人物の特定。鍵がついたままなら回収。その任務の内容は変わらない。」
「俺は南西から、お前は北東から探せ。面倒な奴らが来る前に終わらせるぞ。」
「それでは最後に北西で集合カ…わかっタ」
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