第5話 鍵のついた本

「お前の父親は死んだ」


フードの男にそう告げられても俺は悲しいとは思わなかった。


「泣かないのか?」


これが普通の反応だ。

親族が死んで悲しまない家族はいない。


でも我が家は普通とは少し違った。父親は仕事で家には帰ってこない。母と2人暮らしの生活だった。


逆に父親が家に帰ってきた時がイレギュラーだった。


母が亡くなった後の葬式にも現れなかったあの男をまるで赤の他人のように感じていた。


「まったく接点がなかったから…」


「そうか…」


フードの男は察したようにそれ以上深掘りして聞いてくることはなかった


「もうひとつ…。俺がこの街に来た理由がある。」

「俺は今、未来の信徒の反逆者として動いている。」

「裏切った理由は…まぁこんな子供に話してもわからないか…」

「まぁいい。俺は反逆者としてアスランが持ち出した本を奴等よりも先に回収する必要がある。」


淡々と話し続けるフードの男の話を大人しく聞いていると本という単語が流れた瞬間、俺には思い当たる本が一冊あった


「持ち出した本って…これ?」


カバンの中から鍵が付けられた1冊の本を取り出すとフードの男は目を見開いてその本にがっついてきた


「それだ!」

「今すぐにそれを渡せ!」


これまでの冷静な様子から打って変わって必死な様子がフードの隙間から覗く顔から見てとれた


「いいけど…その本の内容ってなんなの?」


純粋な疑問にフードの男はただ「知らない」と返した


もちろん俺は仰天した。中身も知らない本のためにこんな危険なところまできたのだから


「だが…」


しかし目の前の男はさらに態度を変えて希望に満ちるような興奮した声色で話し始めた


「アスランは組織を裏切ってまでしてこの本を盗んだ、そして未来の信徒の幹部はたかが1冊の本のためだけに1つの街をこんなにしてまでこの本に執着している!」

「理由はそれだけで十分だ!」

「奴らにとってこの本は危険を冒してでも取り返さなければならないものなんだ!」


この男とその未来の信徒という名の組織に何があったのかはわからない…ただ、彼が持つ執念は尋常なものではないと理解した


「そこまで言うなら…はい…」


特に思い入れもない、内容は気になる一方だったがここまで欲しいと言われれば圧倒されて大人しく渡す気にもなった


「ありがとう…」


彼はフードを深く被って差し出された本を受け取り懐の中へと入れた


「礼だ。この街で暴れてるあの馬鹿を捕まえてきてやるよ」


外套で隠れてはいるが、彼の体格はかなり良いほうだということが身長差もあるからか明確に思えた


しかしあの馬鹿、つまりあのイカレた男を捕まえるということはあの爆発の魔法をどうにかしなければならない。

その対策をただの筋肉だけでどうにかできるとは思わない。彼は魔法が使えるのだろうか?


そんな疑問が頭によぎったがこの騒動を解決してくれるならありがたいに越したことはなかった


ドォーーーン!!


近くから聞こえた爆発音と地響きが近くにあの男がきていることを感づかせた


轟音の方向を見ると建物の向こう側から黒煙が昇っているのが目に見えた


「お前はここから離れて他の大人がいる安全な所は避難しろ。俺はアイツを捕まえる。」


俺は会釈を返して促されるままにその場から反対側に走り去った


はっきり言ってあの痛みはトラウマだった

できればもう2度とあの男に遭遇したくない


しばらく走っても後ろから鳴り止まない爆音が心臓の鼓動を速めたが自然とそれは走った疲れに変わった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ラウルーレンスが離れた現場ではフードの男は約束を完遂するため、爆発の起きたであろう路地に着いた


そこに着くと鼻につくのは硝煙の香り。


道の傍らには爆死した人の残骸が無惨に転がっており、その路地の先、夕焼けに照らされた灰色髪の男が目の前で跪く男に尋問していた


「お前も知らないのカァ?アスランの家。」


「し、知らない、!だから、たすけ…」


助けを求める彼の頭を鷲掴みにした彼は最期の抵抗を意にも介さずにその頭を爆発した


辺りに撒きちる赤い血が彼に跳ね、頬から流れるその血を舐めとった


フードの男は彼の正体をあの時見て誰だか分かっていた


「カトル・二ロベ…」


彼の名前を呼ぶとカトルはこっちに顔を向け、フードの男を見て目を丸くした


「誰かと思ったラ…その声…」


彼は笑みを浮かべる顔を手で隠して静かに笑った


「裏切り者が目の前にいるダなんテ!」


「お前が探してるのはコレだろう?」


笑う彼にフードの男は懐から鍵の付いた本を取り出して見せた


「俺を爆発したらこの本まで燃え尽きるぞ?」


その脅し文句にカトルはいつものようにそんなの関係ないと言いたかった、が。ベリアンの呪縛がそれを許してくれなかった


カトルは目に見えて笑みが消え、歯軋りをし始めた


「猛獣とまで言われるお前がそんな顔するなんてな」

「見ていて俺はとても気持ちいいぜ?」


本をヒラヒラと振って彼を煽るとカトルは頭に血が上り始めた


「ゾーク、っ!」


ギラつく彼の目はフードの男を殺さんばかりの迫力があった、その威圧感はもちろんゾークと呼ばれた男。ルーブク・ゾークにも届いた。


「冷静さを失ったな?」


"雁字搦めの岩盤タイドアベロック"


ルーブクの足元から伸びた岩盤が彼の脚に絡みつき、それはすぐに全身にまわった


「約束だからな…戦闘不能にしてお前を衛兵に突き出す。」


汗のひとつもかかずに目の前の岩盤に埋まった獣に近づいていくと岩盤のわずかな隙間から光が飛び出した


"爆破エスプロジオーネ"


「な、!」


次の瞬間、岩盤は内側から爆発し飛び散った破片がルーブクの頭に直撃し激しく後方に吹き飛ばされた

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