第5話

鈴の音が聞こえた。


 あの子がうちに顔を見せに来るようになったのは、うちの人が亡くなって間もない頃だったよ。

 寂しくてねぇ……縁側でぼんやり座っていたら、ふいに声をかけてくれたの。


 おばあちゃん、大丈夫?って。優しい声だったねぇ。


 それからというもの、いつも帰りにちょっと寄ってくれるのが当たり前みたいになってね。話し相手になってくれたり、散歩についてきてくれたり。

 ほんの短い時間でも、あの子が来るだけで家ん中がぱっと明るくなるようだったよ。


 でもね、少し前からだったかねぇ……あの子の様子が変わってきたのは。


 前は元気いっぱいで、ただいまー!って入ってきたのに、最近じゃ声も小さくてね。

 縁側に座るとすぐに、ちょっと休んでもいい?って、目を閉じてしまうようになったんだよ。あんなに落ち着きなく動き回ってた子が、だよ。


 この前なんて、日に当たるのも気にせず、ぽかぽかの座布団に背を預けたまま、すぅすぅ寝息を立ててしまってねぇ。

 疲れてたら寝るもんだ、そう思おうとしたけれど……胸の奥がひやりとしたのを覚えてる。


「大丈夫なのかい?」って聞いたら、

なんともないよって感じに、弱い笑顔を見せてさ。

 その笑顔に、ほんの少し影が差していたのが気になったのよ。


「無理しないで帰りな」って言うたびに、

おばあちゃんが一人で寂しくないかな。なんて顔で見てくるんだもの。

 ほんと、優しい子だったよ。


 でもね、その優しさの奥に、なにか隠していたんじゃないかって……今になって思うのよ。もっと早く気づいていれば、なにかできたんじゃないかってね。


 あの子、あんなに眠そうにして……あれは、ただの疲れなんかじゃなかったんだねぇ。


 もう会うことができないなんて。

 ……こんな日が来るなんて、思いもしなかったよ。

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