第4話 陽炎

 「ハハッ。ほらやっぱりそうだ!才能があるんだ!」

 待ちきれない生徒は息巻く。興奮したように。

 「お前らとは違う!特別なんだ!やった!勝ち組だ」

 初老の教師は哀れんだ表情を向けつつ説明を続ける。

 「物質化に必要なものは、何を、どこで、いつ、どうするかだ。指定のなかったものは、その時の使用者の精神状態で変化する。」

 火柱を眺めながら、教師は続ける。周囲には焦げた匂いが立ちこめる。

 「精神状態は物質化に大きく関係しているらしいが、詳細はわからないことが多い。AIは進化したが人の精神性は神格視され続け、研究が進んでいないのが現状だ。」

 「わかっていることは、高揚しているほど強く、不安な時ほど弱くなる。物質化は魂を削っているとも言われている。昔のカメラの魂を撮られるなんて新しい技術に神秘のような話がついたのか、真偽は分からん。」

 待ちきれない生徒は嬉々として自分の炎を眺めている。どこか焦点が定まっていない目で尋ねる。

 「で、火どうやって消すの?」 

 初老の教師は待ちきれない生徒の方を向いて説明を続けた。

 「君の言う長ったらしい指定をしないと、どうなるか。さっきも説明したように精神状態がそのまま物質化に反映される。君は高揚していたね。だから大きな火柱が出た。しかも才能もある。天をつかんばかりの火は久々に見た。」

 待ちきれない生徒の言動は支離滅裂になってきた。

 「助けてくれよ。俺は才能があるんだ!ハハッみんな俺に傅くんだ!大人も誰も彼も!」

 生徒たちは薄々勘づき出す。さっきから臭う肉の焼ける香り。待ちきれない生徒が自分の火で自分を焼いている。

 正義感の強い生徒が叫ぶ。

 「はやく助けてやれよ!教師だろ!」

 一人の意見に引っ張られたその他大勢が尻馬に乗る。

 「そうだ!そうだ!」

 教師は眉間にしわを寄せて静かに、現実を告げる。

 「…物質化で人間社会が豊かになったのには理由がある。物質化したものは基本的には消えずに残るからだ。消すのにも相反する程度の力がいる。範囲指定させずに発火させた時点で、高温で焼けていて既に手遅れだ。」

 教師は続ける。生徒は皆青ざめた様子だ。待ちきれない生徒は焦点の定まらない目で教師にすがる目をしている。

 「…お前らは幾つだ?いい年にもなって火は危険なものだという分別もないのか?この先の授業は自己責任と話も聞いていただろう。私が命を削って救助する義務はない。」 

 生徒たちは皆ハッとして、壮年の教師の話を思い出す。 

 「自分の火の不始末は自分でつけろ。火が消えるか分からんが、コードで消すよう命令してみろ。私より力があれば消せる。」

 藁にもすがる思いで待ちきれない生徒は叫ぶ。

 【Code 火よ消えろ Enter】

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