第3話 女性コーラスグループだと?
それでも、目の前の美少女鈴木裕美には、悪意を感じない。
だから、用向きを具体的に聞くことにした。
(もちろん、やんわりと、お断りする前提だ)
「あの、ピアノを弾くって、どういう場所で?」
「ジャンルもあると思うのですが」
鈴木裕美が、すがるような顔になった。
(おい!美少女!その顔は、心臓に負担がかかる!)
「私、女性コーラスグループをしていまして」
「あの・・・クリスマスの日に」
「横浜の教会なんです」
(その目も、キラキラしている、俺には似合わん)
野暮だとは思ったが、聞いてみた。
「今まで、ピアニストはいなかったのですか?」
鈴木裕美は、すがる顏のままだ。
「あの・・・いたことは、いました」
「でも、その彼女、最近怪我をして、指を骨折」
納得した。
「杉田から、俺のピアノ情報を聞いて」
「俺は、その女性ピアニストの代役ですか?」
鈴木裕美は、深く頷いた。
「はい、いきなりで、申し訳ありません」
「本当に困っている時に、杉田さんから、田中さんのピアノのことを、お聞きしまして」
「失礼かなと思いましたが、いかがでしょうか」
いろいろなことが、頭の中を駆け巡った。
「女性コーラスグループの中に、この俺が?」
「なぜ、俺?」
「俺は、女性グループ特有の、フレグランスの混じり合った空間は、苦手だ」
「すぐに頭痛発生して、酷い時は吐く」
「そもそも、女性とマトモな会話が成立しないのに?」
「だから、好き嫌いの感情が、発生する兆しなど何もなかったけれど」
そうかといって、目の前の鈴木裕美は、(演技かもしれないが)じっと、俺を見て来る。
(とにかく可愛いので、心臓に良くない)
口下手な俺は、断れなかった。
「わかりました、一時的な代役として、伴奏するだけなら」
「急な話なので、上手にできるかどうかは、保証しかねますが」
(鈴木裕美は、ホッとした顔)(顏も、すごく可愛く輝いた)
俺は、(全く)似合わないことを引き受けた負い目もあって、条件をつけた。
「当然で、言うべきではないと思いますが」
「練習と本番だけの、お付き合いでお願いします」
(つまり、演奏後のお付き合いは、無し、ということ)
ところが、意外だった。
鈴木裕美が、その可愛い顔で、プッと笑った。
「まあ、田中さん、ウブなんですね」
(俺は、心臓が破れそうだった)
「そんなところです」(返す言葉が、陳腐だ)
鈴木裕美が、俺の指を、スッと撫でた。
「この指、いい感じです」
「細くて長くて、きれい」
(手玉に取られてる?)
(俺の指は、おもちゃではない)
「わかりました、田中さん、善処します」
(その含み笑いは何?でも、聞けない)
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