第4話 (第一次)捕獲成功に到るまでの経緯について①

鈴木裕美です。

実は「杉田さん情報」の前から、田中さん(音楽も、人柄も)を知っていました。

田中さんを最初に見たのは、9月の後半、下北沢のレトロなジャズバーでした。

女声コーラスグループの練習場所から近くて、練習の後に、「たまにはジャズでも」と、全員(4人、私と恭子、佐保、奈美)で入りました。


ステージには、田中さんがいました。

でも、耳に飛び込んで来たのは、ジャズではなく「バッハのGマイナー:Luo Ni」でした。

シンセサイザーを駆使して、実に荘厳なパイプオルガンの音色を作って、その上に、独特のメランコリックなメロディが流れます。


恭子の目が、いきなり潤みました。

「マジ?でも、沁みる、泣けるかも」

佐保の目は、ステージの田中さんに釘付け。

「どうしよう、ドキドキが止まらない」

奈美は感動して、胸を抑えています。

「あの人、天使様?すごいオーラを感じる」

その時の私ですか?

「あの人が、ステージから降りたら、とにかく名前を聞く、私の名前も言う」

「とにかく、どんな手を使っても、お近づきになりたい」

(一目惚れ?否定はしません)(実は、恭子と佐保、奈美が邪魔でした)


演奏は、バッハから、ジャズに変わりました。

打って変わって、お洒落で軽めです。

バカラックの「Close to you」で懐メロですが、いい感じ。

客席から手拍子が自然発生、スイング感がたまらない。


恭子

「なんか・・・よく見ると美少年、ツンツンしたくなる」(うるさい、見るな!)

佐保

「お持ち帰りしたい、愛でて撫でたい」(あなたには、もったいない!)

奈美

「肌がきれい、ヌメヌメしている、なめたくなる」(お前はサキュバス?接近禁止だ!)


私は、モタモタするのが嫌いなので、ジャズバーのマスターに、直接聞きました。

マスター

「個人情報もあるから、言える範囲でいいかな?」(う・・・まあ、しょうがないか)

「演奏している子?田中君」(メモは欠かさない)

「古い知り合いの息子さん」(ふむふむ)

「毎週金曜日に弾いてもらっている」(毎週金曜日の予約決定だ)

「どんなジャンルでも、面白く弾くから、人気あるよ」

(確かに、そそられる)(音楽も本人も)


音楽はボサノヴァに変わりました。

でもキーボードではなく、ギター一本でジョビンの「wave」を弾きます。


恭子が唇をなめた。

「いい感じだ・・・ヨダレが出て来た、欲しい」(却下します)

佐保の目が光った。

「浜辺でキスしたい」(こいつも淫乱系?)

奈美は、顏が赤い。

「キスだけでは、もの足りないかも」(こら!柱に縛りつけるぞ!)


この淫乱3人女に、何か文句を言って差し上げようと思ったら、また音楽が変わった。

これには、マジで腰が抜けました。

あのベートーヴェンの6番交響曲「田園」です。

シンセで作ったオーケストラの上に田中さんが、例のメロディを弾きます。


恭子の目がキラキラ。

「わ!田園って、こんなに面白い曲だったの?」

佐保は、うっとり。

「小鳥の声?サラサラとした小川の音?も入れてある、いいなー・・・これ」

奈美は、身体を揺らして聞いている。

「音楽がスイングしている、センスのすごい高さを感じる」


・・・私は、聴き惚れて、声も出せなかった。

とにかく、声を出すのが、もったいなかった。


演奏が終わった。(すごい拍手だ)

でも、田中さんは、お辞儀をしただけ(コメントなし)すぐに楽屋に下がってしまった。

そして、「とにかく名前を聞く、私の名前も言う」「どんな手を使っても、お近づきになりたい」作戦を決行しようとしたのですが・・・


※(第一次)捕獲成功に到るまでの経緯について②に続く

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