第2話 大教室で声をかけられたのだが。

午前10時からの授業だった。(しかも、眠れる大教室だ)

寝ていると、何かが触れた。

でも、夜中三時が効いた。

まぶたは、鉛のように、重い。

やさしい、フレグランス?

そんな香りを感知したが、そんな程度で目は開かない。

「女の子かな」とまでは思った。

でも、俺には、どうでもいい。

「他に席がなかったに過ぎない」と思うし、ひたすら夢の世界の住民と化した。

しかし、まさに「講義念仏」とは、よく言ったものだ。

実によく眠った。(子守歌以上の眠り薬だ)


それでも、周囲がザワザワとし始めた(おそらく講義終了)頃に、目を開けた。

締めの「大あくび」をして、席を立とうとした時だった。


「田中さん?」


隣の女の子(フレグランス発生元)から、声をかけられた。

実に可愛い子だ、上品だ、俺には似合わない。

でも、誰なのか、何故、俺の名前を知っているのか、全くわからない。


「え・・・あ?」(ここでも、俺は女子との会話のセンスがない)


「昨晩・・・お会いした、鈴木裕美です」

可愛い女の子は、にこにこ笑っている。


「はあ・・・昨晩」

(そういえば、合コンで目の前の席に座っていたような)

(でも、俺は、名前を覚えていなかった)


「ところで、この後、お時間あります?」

(じっと見て来た)

(心臓によくない)


「ああ・・・お昼食べて、次は三時まで何もないですよ」

(単に、事務的に、予定を述べただけ)

(どこかに、何かに誘われるとか、そんなオコガマシイことは、考えていない)


鈴木裕美は、にこにこしている。

(うん、天使のように、可愛い)

(俺のような無粋男には、高嶺の花だ)


鈴木裕美が、可愛い唇を開いた。

「じゃあ、お差し支えなければ」

(おい!苦手分野に直行か?)


「はい、どのような」

(聞くべきか、迷った)(腰も、実は引けている)


鈴木裕美が、少し頭を下げた。

「詳しくは、お食事を食べながら」

「お願いしたいことが、ありまして」


「はあ・・・」

(これが、逆ナンパ?と思うが、期待しない)

(対女性で、不器用極まる俺だから、用向きだけを聞こうと思った)


校門を並んで出て、「こじゃれた」ビストロに入った。

(一食二千円程度、財布が、また軽くなる)


鈴木裕美が、あっさりと「オムピラフ」を頼んだので、(もたつくのも恥ずかしいので)「カツサンド」にした。


鈴木裕美の話が始まった。

「それでね、田中さん」

「ピアノを弾いて欲しいんです」


「え?」


「杉田さんから、聞きました」

鈴木裕美は、にこにこしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る