代役合コン出席と、その後の経過について

舞夢

第1話 嫌々ながらの合コン参加

「なあ、田中、頼むよ」

合コンへの参加を急に頼んで来たのは、ゼミの悪友杉田。

ただ、当てにしていた別の参加者が「急の風邪で」と断られてしまった、その「代役」に過ぎない。


「乗り気はしない」と断った。

(そもそも、合コンなどに出るガラではない)

(俺は自他ともに認める口下手だ)

(初対面の女性と、センスの高い話をするなど、管轄外と自認している)


それでも杉田の誘いに負けた。

(しつこかったし、杉田も合コンをしたくて、必死だった)

(参加費は杉田負担なので、飯代も浮いた)


二つ条件をつけた。

「ほとんど話をしない」(口下手のボロを出したくない)

「一次会で完全帰宅する」(ゼミのレポートが途中だから)


杉田は、簡単にOKを出した。

「田中は人数要員だから」

(だったら他の暇な男にしろ!と思ったが、座っているだけだ、と諦めた)

(それと食事代を浮かしたかった)



合コン場所は、杉田が予約した新宿高層ビル内の高級レストラン。

(そういえば杉田は金持ちだ、俺のような町中華一筋とは違う)

お相手女性グループは、杉田の知り合いの同じ大学の女子大生四人。


杉田から始まって、それぞれに自己紹介をした。

(俺は、面倒なので、名前だけ)

(早く帰りたいが、本音)

(とにかく、他の人にしゃべらせて、花を持たせようと思った)


ただし、お相手の女性たちから、いろいろ話を聞かれた。(定番の範疇になるが)

「ご趣味は?」「好きな音楽は?」「休日は何をしているの?」


だから興味を持たれないように答えた。

「読書です」

「クラシックとジャズを聴きます」

「休日は散歩と図書館に行くくらいです」

(この三点セットは、かなり古風で地味なので、予想通りの反応が来た)


「へえ・・・なんか・・・上品ですねえ」

「すごくマトモ感です」

「大人って感じ」

「田中さんはシックな・・・いい感じです」

(大きなお世話、単に金が無いから遊べないだけだ)


俺からは、(当然)目の前のお相手に、話しかけない。

可愛らしくて、大人しい女の子が一人いた。

でも、俺は代役なので、話しかける理由がない。

目の前に展開する話題は、定番の、「アニメ」「ファッション」「グルメ」「旅行」「映画」。

でも、面倒なので、頷いているだけにした。


だから合コン終了とともに、(お約束通りに)直帰した。

「二次会はいかが?」も言われたが、会釈だけして、駅までの道を急いだ。


調布のアパートに着いた頃、杉田からメッセージが届いた。

「今、二次会」

「女の子の一人が、田中にすごく興味あるらしいぞ」

「どうする?」


即答した。

「どうもこうもない」

「俺はデートするセンスもなければ、金もない」

「今はとにかく、ゼミのレポートを優先する」

「それが済んだら寝る、代役以上を期待するな」

杉田からメッセージが、また届いた。

「善処する」

俺は、そもそも興味が無いので、返信しなかった。

その後の展開など、ありえないと思っていたから、懸命にゼミのレポートに取り組んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る