転生したら"親が”スライムだった

景華

第1話 目覚めたら、柔らかい世界



 ――暗闇の底から浮き上がるように、意識がゆっくり戻ってきた。


 最初に感じたのは、今までに体験したことの無いような感触と、温度だった。

 ぬんめりして、ほんのりとあったかくて、まるで春の陽だまりみたいな優しさを感じた。


 次に気づいたのは、僕の身体を包み込む柔らかい感触。

 押し返せばぷにゅりとへこみ、離せばゆっくり戻る。


 ……ベッド?

 いや、違う……。


 まぶたを開くと、不思議な世界が広がっていた。


 視界が青い。

 それもただの色じゃない。水の中から外を覗いたみたいに、光が揺らぎ、ゆっくりと波紋を描いている。


 僕は手を伸ばした。

 手は小さく、ふにゃふにゃで、指を動かすだけでも苦労する。

 目の前の空気をかくと、ゆらりと青い膜が揺れた。


 え……これ、どう見ても……水の中……だよね?


 だけど呼吸は苦しくない。息を吸うと、ほんのり甘い空気が肺に入ってくる。

 ふんわりと水に沈んでるのに息ができるなんて、普通じゃない。


 ――僕の頭はそこでようやく、自分の身体がおかしいことに気づいた。


 慌てて両腕を見て、僕は言葉を失う。

 腕が、太くて短くて、まるで赤ちゃんみたい。

 なんていうか、そう、ボンレスハム?


 身体を起こそうとしても全然力が入らない。

 首もすわってなくて、ぐにゃりと倒れてしまう。


 ……赤ちゃん!?

 僕、まさか赤ちゃんになってるーーーーっ!?


 声を出そうとしても「あー、う……」みたいな間抜けな音しか出ない。

 本格的に混乱していた、その時――。


「ぷるん」

 柔らかい音と共に、青い球体がふわりと近づいてきた。


 半透明で、光を内側から灯している。

 ぷるん、と跳ねれば光が波のように広がって、周囲を淡く照らす。


 ――スライム。


 スライム!? いや、スライムだよね、これ!?


 ファンタジーゲームに出てくる、あのすんごく弱いモンスター!!

 雑魚の代名詞!!


 だけど目の前にいるスライムは、どこか神秘的な美しさがあった。

 透き通った青、優しく揺れる光。


 スライムは僕に近づくと、そっと身体の一部を伸ばして、僕の頬に触れた。

 ぴと……と、それがくっついて、そっと撫でる。

 びっくりするほど温かくて優しくて、僕は驚きに目を見開いた。


「ぷるる……」

 まるであやすみたいに、小さな振動と光を送ってくる。


 僕が泣きかけているのを察したのか、スライムは身体で僕の背中を支え、ゆっくりと揺らした。

 まるで母親が揺らして子どもをあやすかのように。


 え……。もしかして……これ、抱っこしてるつもり?

 スライムは声こそ発しないが、明らかに僕を心配している雰囲気だった。


 身体をぷるんと揺らしながら、僕を包み込むように膜を広げてくれる。

 柔らかい、暖かい、心地いい。


 そうか……ここは水の中じゃない。

 スライムの体内――正確には、スライムの作る“保護膜”の中だ。


 涙が一滴、勝手にこぼれた。


 自分の意思じゃない。

 赤ん坊の身体が勝手に反応したのか、それとも――僕自身が、安心したのか。


「ぷるっ」

 スライムはその涙を吸い取るように、そっと体を寄せてきた。

 光が優しく変わる。水色。あたたかい色。


 その光が、心にしみてくる。


 ……ああ、これは……・。

 言葉にならないけど、わかる。


 このスライムは僕を“守ろうとしている”。

 まるで、親のように。

 視界がぼやけるほど涙が出てきて、僕は小さく声をあげた。


「あ……あぁ……」

「ぷる、ぷるるる」

 スライムは細かく震えて優しく包む。


 まるで「大丈夫」と言うように。

 どうしようもなく、安心する。


 前世の記憶が何だったかなんて思い出せない。

 ただ、胸の奥にぽっかり穴が空いていたような気がする。

 もしかしたら、前世の僕は、誰にも守られずに終わったのかもしれない。


 スライムは、僕の小さな手をぺたりと包み込んだ。

 青い光がゆっくりと脈打って、まるで心臓の鼓動みたいにリズムを刻む。


 僕はその温かさに浸りながら、ゆっくりと目を閉じた。


 二度目の人生。

 転生したら、親がスライムだったみたいだ。


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転生したら"親が”スライムだった 景華 @kagehana126

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