Rの化身
刹那
第1話 悪魔の笑う場所【2026年4月4日(土)】
「もう金輪際、
諭すように告げる母。桜色の空を振り仰ぐ。
「はぁい」陽気な返事をしてお菓子を頬張る子どもたち。
もうこのやり取りを何度繰り返してきたことだろう。
平和な世の中となった今だからこそ言えることかもしれない。
夫や息子、娘とともに和やかな雰囲気が流れていく。
ここは東京都台東区にある上野公園。春になれば全国のニュースで桜の開花を知らせる日本の桜の中心地。
今日は四月最初の土曜日。
昨日までの雨は見事に止み、雲ひとつなく晴れ渡っている。まさにお花見日和だ。
見上げなくともソメイソシノが美しくしな垂れ、桃色の風にほのかに揺れ心を和ませる。
空を覆い尽くさんばかりの可憐な花びらたち。
多くの花見客の心を魅了している。
私たち家族四人でこの地を訪れるのは初めてだ。
春の花々を愛でるために。
そして、この地の戦没者に祈りを捧げるためにここへ来た。
「絶対に一人で行動しないでね? いい?」
母は念を押す。
「わかってるよ、俺たちもういい大人だよ」
我が息子と娘はスマートフォンをいじりながら二人でふざけ合いながら写真を撮っている。
仲のいいこと。母は微笑みながらそう心の中でつぶやく。
ふと一陣の風が吹き荒れる。
すぐに髪を押える娘。前髪を乱され「もう」と可愛らしく唸って笑顔の花を咲かせる。
この瞬間がいつまでも続けばいいのにと、思えてならない。
そう、この瞬間まで――
風で流れてきた一枚のチラシ。
人気予言者Vtuber【あいは】のビラだった。
一目見ればイヤでも分かる
思えば、この
一体何人の尊い命が奪われたことだろう。
人生が無情にも狂わされていく不条理。
また、どこかで誰かの人生が破滅の道へと進むのだろう。
薄紅色に変えゆく桜の花が春風の音へと告げるように。
息子はそのビラを手に取り、無意識の言葉を慕わせ風にのせた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
――花は真実。嘘偽りに咲くのなら、
それは
我が予言に芽生える花があれば、
あなたはそれを真実として
咲かせるであろう。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「ラヴィーズ最終章――予言花より――」娘はぽつりと
「詳しいな」父はふっと不敵な笑みを浮かべる。
息子は再びビラの漆黒の面を
「やめなさい。またそのフレーズなんか
母の顔色が曇っていく。周りをしきりに気にしている。
息子は思う。
無理もない。この言葉の主に一番苦しめられたのは目の前の父と母なんだから。
「これ、お気に入りでさ。ふとした時に口ずさみたくなるんだよ」
「誰が近くで聞いているか分からないよ。もう、やめときなって」
娘は
「ふっはっはっはっは……」父は少し大きく笑うと
――その座標――【 北緯35度42分44秒 東経139度46分11秒 】
息子は父親のまなざしの先へと特別な思いを
この場所には、誰にも知られていない都市伝説が今もなお存在することを。
しかし、誰も知らない秘密の鼓動が、こうして鳴りを潜めていることなど知る由もなかった。
母のため息の音が周りの音よりはっきり聞こえる。
あの日以来、【
息子は過去に閉じ込めた忌まわしき記憶をこの大地に眠らせて、ふと空を見上げた。
ドローンの黒いハエが公園上空を旋回・飛行している。
握りつぶされたモノクロの残骸に
「俺は一生忘れないよ。俺たちの人生を狂わせたあの悪魔を……」
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