3話
俺石ノ上結弦は俺の体に憑依した偽結弦こと赤城純平の行動を見守っていた。
昔からあいつはとにかく短気で舐められるのが嫌いな性格だった。
ラノベ主人公あるまじき性格で、寧ろ昭和時代の少年漫画向けの性格だ。
予想通りあいつは暴力で解決してしまった。
『あのクズが……』
だが、おかげで一つ目の事件は案外解決できるかもしれない。
一つ目の事件は親友でもあるあいつが関わっているから。
春雲さんと直接関係ある事件ではないが、一つ目の事件をきっかけに俺は大好きな春雲さんの前でいじめの首謀者に仕立て上げられたのだ。
そのことによっていつも放課後の図書室で仲良く図書委員の仕事をしながら会話をしていたけど、事件のせいで距離が遠ざかっていた。
目があっても春雲さんはすぐに視線を逸らすし、何度説明しようとしても遮られて結局何も言えなかった。
あの事件さえなければ、俺は春雲さんとの溝が深まることがなかった。
俺がもっと強ければ舐められることもなかった。
金さえあれば、体格に恵まれていれば……、もしかしたら純平が俺の体に憑依したのだってそれが理由なのかもしれない。
純平がそれに気づくかどうかは分からないが。
***
教室に戻ると眉を吊り上げ頬を膨らませながら華音が俺の方へと駆けつける。
「石ノ上君、遅いよ!早くしないと遅刻になるんだから急いで!」
「わっ……分かったよ、ありがとな……」
予鈴のチャイムが鳴り響き、俺はすぐさま席に着く。
華音は隣の席だし、よく話しかけられるから男子の視線が冷たい。
マジでこいつら半殺しにしてやろうかな。
そうすればあいつらも俺に冷たい視線を向けることなく、華音との関係だって壊れることも防げるだろう。
授業が始まり、俺はすぐさま教科書を取り出そうと引き出しの中を確認するが忘れてしまった。
(やべぇ、終わった……)
俺は純平だった頃から基本寝てるかサボるかの二択だったから教科書なんか殆ど開いたことないからその癖が抜けきっていなかった。
「よかったら一緒に教科書見ない?」
華音が小声で教科書を開きながら見せてくれた。
「あぁ、悪いな……お言葉に甘えて見させてもらうよ」
机を華音の方へと近づけ俺は華音の教科書を見る。
距離が近づいてから気づいたが華音からはいい匂いがした。
それに胸だって女子高生とは思えないくらいに大きく、艶やかな黒髪に宝石のような瞳。
誰にでも優しく接するさりげなさも持ち合わせている。
結弦の奴がベタ惚れする気持ちだって分かるし、嫌われた時のショックも相当でかいのも頷ける。
だからこそ俺は二人の関係を壊れないように事件を防ぐしかない。
授業の内容は頭に入ってこないけど、それでも華音は時々小声で俺に授業内容を解釈して俺に説明する。
華音は人に説明するのが上手いのか勉強しない俺でも理解できていた。
一応魂は成人しているから高校生よりも柔軟な思考になっているのは当たり前か。
午前の授業は終わり昼休みだ。
結弦の母親が眠い目を擦りながら作ってくれた弁当をバッグから取り出す。
弁当を食おうとすると華音が「もしよかったら一緒に弁当食べてもいいかな?」と笑みを浮かべる。
「いいよ」
華音の表情は子供のように明るくなり、俺の手を取る。
俺は華音の柔らかい手を握っている。
そのまま廊下へと連れられ、下駄箱で靴を履き替えて中庭へと向かった。
中庭の木陰の中で俺は華音と弁当を食べていた。
華音の弁当の中身を覗くと思ったより普通だった。
「春雲さんは金持ちだからてっきり高級食材がびっしり詰まってると思ってたけど違うのね」
「うん、実はこれ全部私が作ってるんだぁ〜」
容姿端麗なだけでなく料理までできるってほぼチートだな。
「一つ食べてみる?」
「食べてみたいなぁ〜」
華音は卵焼きを箸で掴み俺の口へと運ぶ。
「はい、あーん」
「あーん」
卵焼きを口に入れると砂糖の甘みと卵本来の持ち味が口の中に広がる。
華音の腕前がいいのか食材がいいのか分からないが美味い。
「どうかな?あんまり自信はないけど、お口に合ってたかな?」
華音は不安そうに俺に問う。
「美味いな決まってるじゃあないか!この飯を食える旦那は幸せだと思うぜ?」
やべぇ本音が出てしまった。
俺にはタルトという心に決めた女性がいるってのに。
浮気をするつもりはないぞ。
「ほんとに?嬉しいなぁ〜高校になってからは少しずつお手伝いさんに料理教えてもらってたからお世辞でも褒めてもらえて嬉しいよ」
こんなに純真無垢な清楚なお嬢様がどうしたら結弦を嫌いになるんだ?普通は事実確認だってするだろうに。
俺が覚えてる範囲ではモブ達の嘘の証拠を見せつけられたとは言えど疑いをかけるものじゃないのかな?
色々考えさせられるな。
もしかしたら、本来の歴史では結弦の悪いイメージをずっとあいつらは華音に吹き込んでた可能性がでかいな。
普段学校サボってたことを今でも後悔しているよ。
これから起こる事件がきっかけで華音との関係が壊れる可能性があるとして、そこからモブの宇治ってオタク野郎が洗脳を施すのは確定だろう。
そう考えれば辻褄が合うし、よく考えれば誰だって思いつく作戦だ。
甘くみるなよ、モブ達の妨害工作さえなければ俺と結弦は世界をも征服できる天才クリエイターになる予定だった男だからな。
見ていろよ結弦、必ずお前と華音が幸せに結ばれる未来を作ってやるからよ。
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