第34話 真実 (3)
薬師寺が二人を殺害した?
そんな事あるはずがない。昨日から彼とはずっと行動を共にしていた。
久保田殺しはともかく黒岩を殺害する時間は無いはずだ。
「成瀬さん、あなたが言ったんですよ。私達に黒岩先生を殺せないと!」
「すみません、あれは嘘でした。正しくは私と清水さん、只野さんには不可能でした。ですが、あなたは違う。あなたと我々が会ったのは十四時過ぎだ。午前中に何をしていたのかまでは知りません」
「午前中は図書館で調べ物をしていたんですよ」
「いや、あなたは昨日の午前中、黒岩先生を殺害し、古賀みどりさんをどこかに埋葬したんです。その後、黒岩先生の車で図書館までやってきた。それから我々と合流したんです」
状況的には薬師寺にも犯行は可能かもしれない。
だが、一つ問題がある。
「黒岩さんの家に行くには車がないと無理じゃない?でも行きは?この島で車を調達するなんて…」
「黒岩先生の車に同乗したんだ。恐らく黒岩先生はシーズウィルスが広がっている事を確認しに何度も街へ来ているはずだ。昨日、その視察の時に、薬師寺さんを拾ったんだろう」
「じゃあ、二人は元々知り合いだったって事?」
清水の問いかけに成瀬は力強く頷いた。
「薬師寺さんは昨日、もしくはもっと前から黒岩先生の研究内容を知っていたはずだ。その時、殺意を抱いた」
薬師寺は成瀬を睨みつける。彼の中で少しずつ余裕が無くなってきてるように感じた。
「ちなみに中村さんに犯行は難しいと思います。黒岩先生はともかく、久保田さんを殺すには彼が一人である事、居場所を把握していないと難しい。黒岩先生を探す際に家中探し回りましたし、中村さんが館内に潜伏していたとは考えにくいんです」
久保田が一人になったのは偶然といえば偶然だ。
ずっと全員で行動していれば、彼を殺す事はできない。
偶然生まれるであろうチャンスを中村が家の外で窺っていたとは考えられない。
「そこまで言うなら何か証拠はあるんですか?」
「薬師寺さん、ノートはお持ちですか?」
「え?」
「ノートですよ。フィールドワークに出ているあなたが持っていないはずがないですよね?」
そういえば薬師寺の持ち物の中にボールペンはあったが、それを記すノートやメモ帳の類はなかった。
「それは…」
「身体検査で見つからなかったところをみると、どこかに隠したか捨てたんでしょうね」
「ノートが無い事が何か関係があるの?」
「関係あるさ。薬師寺さんは午前中にコトを済ました後、黒岩先生の車に乗って図書館に行った。調べ物をしていたのも本当でしょう。ここは電子機器の持ち込みは不可能だから、調べた事はノートにメモを取る必要があります。そして、その時に気付いたんじゃないですか?
顔をしかめる薬師寺に対し、成瀬は生徒に教えるように優しい声色で話を続けた。
「古賀みどりさんは液体カプセルの中にいました。そんな彼女を運び出した時、メモ帳が濡れてしまったんですよね。一度濡れた紙は乾いたところで元通りにはならない。濡れていた事は一目で分かります。だから、あなたは怪しまれないように荷物検査の時に出さなかったんです」
「ノートはどこかで落としたんですよ。まさかそれだけで私が犯人だと言うんですか?」
ノートだけでは薬師寺を犯人と断定する事はできないだろう。
だが、成瀬にはまだ余裕があるようにみえた。
「薬師寺さん、あなたは自分の失言に気付いていないんですね」
薬師寺の顔は強張っていた。彼の額には汗が浮かんでいる。
「あなたは『蚊はご遺体の血を吸うものなんでしょうか?』と言いましたが、普通、黒岩先生が生きている間にゾンビ化したと思いませんか?私達は散々生きたままゾンビ化した人を見たんですから」
「それは…」
「それはあなたがゾンビ化していない黒岩先生を殺害したからこそ出た言葉だったんですよ」
とどめを刺すように告げる成瀬。
言い訳を探そうとする薬師寺を見ると、彼が犯人だと感じるようになる。
「た、ただの言葉の綾じゃないですか。私がやったという証拠にはならないはずだ」
「証拠はあります」
「どんな証拠があるっていうんですか?」
「ここにはありません」
「ほら、やっぱりないんじゃないですか」
優勢になったと感じたのか、にやりと笑みを浮かべる。
「古賀みどりさん」
成瀬は表情を変えずに呟いた。
「黒岩邸の近くを調べればすぐ分かるはずです。古賀みどりさんの遺体が埋葬されているでしょう。ちゃんと調べてもらえれば、あなたが埋めた痕跡も出てくると思います。どうしてもというなら、これからあの場所に戻って探しましょうか?もしかしたら、すぐ分かるような痕跡が見つかるかもしれない。それほど深くは掘っていないでしょうし、それほど掘り起こすのに時間はかからないはずだ」
そう言うと成瀬は立ち上がる。
本当に古賀みどりを探しに行くつもりだろうか?
すると、只野も立ち上がった。彼も成瀬の案に乗ったのだろう。
薬師寺は何かに抗うように拳を握りしめていた。
清水も立ち上がり、彼らの後を追った。
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