第28話 研究 (2)
一番右にあるカプセルの中の人間。
その姿に見覚えがあった。いや、見間違えるはずがない。
一条望美。
ずっと探していた親友がそこにいた。
彼女と過ごした記憶が次々と蘇る。
初めて会ったあの日。
どうしてこんなところに。
大学の屋上にあるベンチに座って、暗くなるまで喋っていた。
生きてる?死んでる?
教科書にいたずら書きをして笑いを堪えていたら、教師に怒られた。文句を言ったら、笑って返された。気付いたら、お互い笑い合っていた。
きっとまた会える。
誕生日プレゼント、楽しみにしててね。そう言ってくれたじゃない。
どこにいるの。
会いたい。
死んでる。
「ハァ…ハァ…」
呼吸が次第に荒くなる。
息をしているのに苦しい。
立っていられず、その場で膝をつく。
「落ち着け!ゆっくり息を吸うんだ!」
成瀬の声が遠くに聞こえる。
私も死ぬんだ。
あの子の所に行くんだ。
視界がぼやけてくる。身体中が熱い。心臓の音が大きい。
意識が
成瀬は近くにあった紙袋を清水の口元にあてる。
少しずつ呼吸ができるようになってきた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう…」
「椅子に座って休んだ方が良い」
「うん」
清水は成瀬に支えてもらいながら、近くにあったパイプ椅子に腰掛けた。
まだ頭がボーっとしている。
ちょうど角度的にカプセルの中にいる人間の姿は見えなかった。
成瀬が配慮してくれたのかもしれない。
それでもまた発作が出そうな気がして、そちらを見ないように目を逸らした。
成瀬は薬師寺と只野に向き直る。
「久保田さんに関しても明らかに刺殺です。そして、犯人は私達の中にいる可能性が高いです」
「そんなわけないじゃないですか。どうして久保田さんを殺す必要があるんですか?」
薬師寺が反論する。
只野は何を考えているのか黙ったままだ。
「この現場を見るまでは黒岩先生が久保田さんを殺害したのかと思いましたが、その黒岩先生もこの状態でした。死後硬直から見ても、黒岩先生が殺害されたのは二十四時間から三十六時間です」
「それは確かですか?」
只野がようやく口を開く。
「はい、身体の硬直が硬さがとれ、緩くなっていたので」
身体の硬さで、死んだ時間がわかるものなのか。
成瀬の言葉を信じるなら、ゾンビが街に
こんな自体を引き起こしたにも関わらず、その様子を確認できずに死んだのだ。皮肉なものである。
「つまり、久保田さんに関しては、私達の中に犯人がいるという事になります」
薬師寺と只野は見合う。
成瀬は彼らのうちに犯人がいると考えているらしい。
当然、どちらも自分だと名乗り出なかった。
清水は成瀬と共に行動していたので、彼が一人になった時間は無かった。
だが、薬師寺と只野はワクチンを探していた時は一人だったはずだ。その時であれば、久保田を殺害に出向く事ができる。
だが、成瀬と清水は久保田の行動を追うために、すぐ二階に上がった。その間を縫って黒岩の私室に入ったのだろうか。
そうであるなら、久保田を殺害するつもりで部屋を訪れた事になる。
昨日であったばかりの薬師寺と只野にそこまでの殺意があるとは思えなかった。
「そうは言っても、ここで犯人探しをするつもりはありません。今は少しでも時間が惜しい。黒岩先生が亡くなっているのは想定外でしたが、ここにワクチンがあるはずです。手分けして探しましょう」
成瀬はこれ以上余計なことをするなよ、と釘を差したかったようだ。
清水が立ち上がると、成瀬は心配そうに近寄ってきた。
「大丈夫か?無理しなくてもいいぞ」
「大丈夫。だいぶ落ち着いてきたし」
事情を考慮し、清水はカプセルが見えない入口の部屋を探す事になった。薬師寺も同じ場所を担当する。
一人で探すには広すぎるので、薬師寺も探してくれるのは助かった。
成瀬と只野は黒岩の遺体のある部屋を探すようだ。
そのままにしておくと、どうしても視界に入るので、久保田の遺体をブルーシートで覆った。
その時、久保田に刺さるナイフの柄が引っかかった。どこかで見覚えがあった気がしたのだ。
なかなか思い出せないので、諦めてワクチンを探し始める。
今はこちらの方が重要だ。
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