第2話

『転生したのはキャローズ家』

『代々、伝記や異聞など、語る事を生業に、そこそこ名家でありました』

『そんな我が家の家業の事を、世の人々はこう呼びます。……”講釈家”』


『なんと数奇なことでしょう……』

『”公爵”を望んだはずの私です。”講釈家"など知りません!』


『……ですが図太いワタクシは。気付いた頃には慣れていて、特になんとも思わない、そんな強さがありました!!』

『それもその筈、ワタクシは転生したので赤子に戻り、以前の記憶は曖昧でした』

『なので今は忘れましょう。過去の事など無用の長物!!』


『ではでは我が家の家業とは、どんな仕事? と、問われれば、エンタメ系? と答えましょう』

『人々が、楽しく、可笑しく、爽快に、時には、涙し、考える、そんな噺を語るのです』


『古典噺もさることながら、モダンとされるオリジナル。そんな話も語ります』

『更にはそれに必要な、家系スキル? もあるのかも!?』

『それは、おいおい語りましょう。……なになに? どうにも気になると?』

『では、少しだけ明かしましょう』


『……転生前? の私には、不足していた"スキル"……かも?』



  ◆  ◆  ◆



「ソンナ。今日の学園での出来事を話しなさい」


 夕食の準備が整い、食卓に座ったワタクシに、父、クローデッドは問う。


 ……これは日課だ。


「えーっと、そうですね……。友人のカボットさんとお花を摘みに行きました。ですが、直前にカボットさんは他の生徒に呼び止められ、ワタクシ一人が先に到着しました」

「個室に入ったワタクシでしたが、驚くことに巻紙(トイレットペーパー)が無いことに気付きました」

「ですが、まだまだ事の前、焦る時ではありません」

「当然、隣の個室へ移動しました」

「後に、ワタクシが先程入った巻紙の無い個室へ入る物音が聞こえました。ただ、すぐに移動する気配がありませんでした」

「ワタクシは用を済ませ、外に出ましたが、隣の個室は閉まったまま」

「遅れて来たカボットさんが、難局に直面しているのではないか? と、考えて、助け舟を出すつもりで、ワタクシは別の個室から拝借した巻紙を、上部の隙間から投げて差し上げたのです」

「小さく、驚いた? 様な声が個室の中から聞こえましたが、私は歓喜の言葉と受け取りました」

「良い事をしたと満足していたワタクシの……その隣の扉が開きました」

「するとっ! そこから姿を現したのがカボットさんでした」

「では、今しがた、ワタクシが紙を投げ入れた個室に入っていたのは誰か? という疑問はありましたが、困っていた事に違いないだろうと思い、静かにその場を後にしました」


 お父様は静かに目を閉じて聞いていた。


「終わりかな?」

「ええ……」


 お父様は軽く頷き、そして――


「うん。31点かな?」

「……そうですか」


 その採点に納得しながら、やや落胆した様子で私は答えた。


「後学の為、詳細を教えていただいてもよろしいですか?」


 そして、続けて質問した。



「いい心掛けだ。今はまだ、話の出来よりも大事な事がある。それに、話を創れとも言っていないしね」


 お父様は頷いた。


「有難うございます」


 私は頭を下げた。


「1つ目の減点、12点。カボットさんが、巻紙を投げ入れた個室に居たと誤認するだけの理由が殆ど無い」


 おっしゃる通りだ。

 後から来た、という点以外に、カボットさんに結び付く事実は存在しない。


「2つ目の減点、45点。オチが無い。その場所に”誰”が居て、”どうなったのか”という説明がない」


 これまた頷くしかない。

 まぁ、事実を語れというルールではあるので仕方のない部分ではある。


「3つ目の減点、3点。いままでカボットさんという友達の名前を聞いた事が無い。……本当にその子は友達なのかな?」


 あー、なんか、この減点が一番効くかも……。

 お父様はそこら辺もお見通しかぁ。


「最後、4つ目の減点、9点。少なくとも、食事の前にする話では無かったかな?」


 ふむ……。ごもっとも……。


「有難うございました」


 ワタクシは頭を下げた。


「じゃ、夕食にしようか」


 お父様は、笑顔で言った。



 ちなみに食事は、30点以下では採れないルールとなっている。

 で、30点以下と言われた事は殆ど無い……。

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