第3話


『舞台を変えて学校に、いえいえ”学園”生活に、移りたいかと思います』

『転生前の学校とシステム自体は大差無い、とはいえまったく異世界の、学園生活これ如何に?』


『そこそこ高貴で有名な、由緒正しき学園に、通えていたのがワタクシです』

『当然そこには家柄も、影響したのは確かでしょう』

『しかし我が家は”講釈家”。”俗物”と見られる事も多くあり、時には後々”講釈”の、”ネタ”にされると恐れられ、時には下世話の商人と、蔑む者もおりました』

『実はワタクシ、17年。友人などはおりません』


『とはいえワタクシ、めげません!! なぜなら、そもそもワタクシは、前世はいわゆる小市民』


『それが今では上流階級、居られるだけで夢舞台! 居られるだけでファンタジー!』


『気付けば妙な二つ名を、授けられたりしてました!』



  ◆  ◆  ◆



 ワタクシは、教室内の自分にあてがわれた席に座り、窓の外を眺めていた。

 別に物思いに耽っているわけでは無い。


 校庭で行われている魔法実習に目を奪われていたのだ。


 「あー、やっぱ異世界すごっ」……と。



「キャローズさん。ちょっとよろしいかしら?」


 突然声を掛けられ、呆けていたワタクシは間抜け面のまま声の方へと振り向いた。

 そこには、クラスメイトで級長のカボットさんが立っていた。


 先日、無断で名前を借用させていただいたのが彼女。

 商用目的ではないので問題は無いだろう。


 ワタクシと目が合うと、彼女はやや怯むような表情を浮かべた。


「こ、この用紙に、明日までに署名をお願いしますわ!」


 表情とは裏腹に、気丈に振舞おうとする彼女。

 生まれが非常に良いことに加え、級長という立場的にも、ワタクシ如きを恐れるわけにはいかないのだろう。


 ワタクシはそれを理解し、心の中で深く溜息を吐いた。

 何故、その程度の内容で怯えられなくてはいけないのか?

 

 ワタクシは小さく頷き、用紙を受け取る。


「お願いしますわ」


 と言うと、彼女は足早にワタクシから距離を置いた。



 余談だが、講釈家とはそういうものらしい――


 公演の話を聞く時は、それらの話を楽しむだけで良いが、日常生活の中で接すると、その全てをネタにされ、語り草にされるとされているようだ。


 とんだ言いがかりだとは思う。

 とはいえあながち間違ってもいない。

 オリジナルの話を作る材料は、やはり身近な人達なのだ……。


 それを理解しているからこそ、私も無理に距離を縮めようとは思わない。

 警戒されながら、他人と付き合うのは気が引ける。


 「まー、しゃーない」と、開き直っているだけだが……。

 ついでに、それ以外の理由もあって軽率に会話が出来ないのだ。


 その為、友人など居ない。

 お父様はそのあたりも見透かしたうえで、先日の採点を下したんだろうなぁ。

 

 家柄のお陰で虐められる事が無いのは唯一の救いか?



  ◆  ◆  ◆



『そんなボッチ生活を、送り続けるワタクシに、付いた異名は無言の講釈家!!』

『よく考えると……ポンコツです』

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