エピローグ「最強への道、二人で」
シルヴァリア魔法学園を卒業してから数年の月日が流れた。
ユキナリ・アステールは、今やエルミナ王国でその名を知らぬ者はいない若き宮廷魔術師となっていた。
かつて「出来損ない」と呼ばれた少年はもうどこにもいない。そこにいるのは自信に満ちた精悍な顔つきの青年だ。
彼の傍らにはいつも一冊の黒い魔導書があった。
「ユキナリ、次の任務よ。北の国境で魔物の異常発生が確認されたわ。あなたの力が必要なの」
執務室を訪れたのは同じく宮廷魔術師として活躍するセレスティア・フォン・ヴァイスだった。彼女は数年の時を経てさらに美しさと威厳を増していた。
「わかりました。すぐに向かいます」
ユキナリが頷くとセレスティアは少し寂しそうな顔をした。
「……また、すぐに行ってしまうのね。たまにはゆっくりお茶でもしたいものだわ」
「すみません。でも僕を必要としてくれる人がいるので」
ユキナリが微笑むと、セレスティアは「そうね。それがあなただもの」と小さく笑い返した。二人は今や互いを認め合う最高のライバルであり、良き同僚だった。
セレスティアが部屋を出ていくとユキナリは魔導書に話しかけた。
「さて、カイ。仕事の時間です」
すると魔導書から半透明のカイの姿が現れた。彼はユキナリと出会った頃と何も変わらない。
『やっとか。退屈で死ぬところだったぜ。それにしても、あのお嬢様も諦めが悪いな。まだお前に気があるらしい』
カイは腕を組んでふてくされたように言った。
「やきもちですか?」
ユキナリがからかうとカイはカッとなったように反論する。
『違うと言ってるだろ! 俺はただ、主の周りに変な虫がつくのを警戒している忠実な従者なだけだ!』
「はいはい」
このやり取りもすっかり日常になった。主従関係という言葉で始まった二人の絆は、今では何物にも代えがたい「相棒」という形に落ち着いていた。
ユキナリは旅の支度をしながらふと昔のことを思い出す。
「カイと出会った頃は、僕、本当に何もできませんでしたね」
『ああ、全くだ。魔力だけは無駄にあるただの出来損ないだったな』
「ひどい言い草ですね。でもカイがいてくれたから僕はここまで来れました」
感謝を込めて言うとカイはそっぽを向いてしまった。
『……別に。俺は俺が自由になるためにお前を利用しただけだ』
照れ隠しなのはもう分かっている。ユキナリはくすりと笑った。
カイの魂を完全に解放するにはまだ膨大な魔力が必要だ。だが二人はもうそれを急いではいなかった。カイがこの魔導書からいなくなってしまうことをユキナリが望んでいなかったし、カイ自身もユキナリの傍を離れる気はないようだった。
準備を終えユキナリは転移魔法陣の上に立つ。
「行きますよ、カイ」
『おう。さっさと片付けて美味い飯でも食いに行くぞ』
「いいですね。何が食べたいですか?」
『そうだな……。たまには俺のいた世界の料理ってやつを、お前の魔法で再現してみるか?』
「面白そうだ。やってみましょう」
そんな軽口を叩き合いながらユキナリは魔法を発動させる。光が彼を包み込み、一瞬でその姿が執務室から消えた。
目的地は魔物が蔓延る危険な国境地帯。
だがユキナリに恐れはなかった。
最強の相棒がいつも隣にいてくれるのだから。
無属性の魔術師と異世界の魂。
二人が歩む最強への道はまだ終わらない。世界のどこかで助けを求める声がある限り彼らの旅は続いていく。
それはかつて落ちこぼれだった少年がたった一人の相棒と出会って始まった壮大な物語。
そしてこれからも紡がれていく二人の未来の始まりだった。
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~ 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi
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