第四話 星が降るなら

落ちていく星にも勝るスピードでほうきを進めていく。これほど速く飛んだのは生まれて初めてだった。コウモリ達が羽ばたく音が背後から聞こえる。この速度でも追いつかれてしまうならこれしかない。

「   」

私を中心にして天の川に水滴が落ちたような波紋が広がり、波に触れたコウモリから凪いでいく。私が使える拘束魔法の効力はたかが数秒。

「 」

コウモリの群れに向けた杖の先に光球ができ、反動と共に放たれた。布切れのようになったそれは鳴き声を上げる間も無く星と墜落し、爆散していく。攻撃魔法は魔力消費が多い。頭がぼんやりしてほうきに乗り続けるのも困難になる。

そんな状態だからか脳の表面じゃない内部に意識が向いた。昔、先生と一緒に森に魔物を狩に行った記憶が脳の奥で何か言う。先生、どうして、


「鳥は射ただけで火が消えるの?」

先生は先ほど射抜いた怪鳥の毛を毟りながら言った。

「魔力は生きてる間しか使えないんだ。死んだら、その時は、」


その時、初めて気がついた。背後から聞こえるのはコウモリの羽音じゃない。物体が真っ直ぐに風を切る音。その音は不気味なほどに生命の羽ばたきを感じさせなかった。

視界がスローモーションになる。肉の焦げる匂いがする。目の前に広がるのは静かな森、星降る夜。そうか、焦げてるのはコウモリじゃなくて、私のほうか。

「星が降るなら、願いくらい、叶えてくれても、」

世界は強く閃いていた。


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