第7話 忘却していた約束
たった一人の作戦会議を終えた、その翌日。
「よし! ブログ更新完了!」
これでまず、ロサンゼルスという大海原に一本の竿を垂らすことができた。後は可能性を信じるしかない。
ちなみに、今回ブログで公開した企画の内容はこんな感じだ。
『キャンペーン期間内にレッスンを受けてくれた方限定で、修行を終えてからの帰国後に一時間の無料レッスンをプレゼントします』
と、いうものだ。
この企画が上手くいく可能性は高い。確信していると言ってもいい。だがしかし、竿を垂らした大海原はあまりにも大きい。当然ながら、一名も依頼をしてこない可能性だってあるにはある。
だから保険として、今の内にできる限りの手を打っておきたいのが実のところだ。できれば、後数本程。
「他の手か……。とにかく今は思考を止めたらアウトだな。考えよう」
そう、アウトだ。思考に思考を重ね、どんどん可能性を追求しておいた方がいい。可能性を高めていった方がいい。
まあ、レッスンのない時間帯を使って、寝ずにアルバイトをするという選択も無きにしも非ず。
しかし、今から動き始めたとしても、バイト代が出るのは一ヶ月後くらいだろう。それに、普通のアルバイトで賄え切れるとは考えにくい。
やはり、ここは特殊な方法を練るしかない、というのが俺が出した結論だ。
が、そんな簡単に思い付けていたら苦労はしないわけで。
「ダメだ。頭が疲れてきた」
思考は止めない。絶対に止めない。つもりではあったけれど……。やっぱり少し休んだ方がいいのかなもしれない。いや、それはダメだ。一度決めたことを覆すのは、俺のプライドが許さない。
我ながら思う。
俺の性格、本当にクソ面倒くせー!!
* * *
無理やりではあったけれど、考えに考え抜いたお陰でひとつの案を思い付くことができた。いや、少し違うか。思い付いたのではなく、思い出したと言うのが正しい。
実は、俺にはちょっとしたスキルがある。それが何かと問われるならば、動画編集だ。
最初は単なる趣味で始めたのだが、しかし、趣味というのはなかなか馬鹿にできないもので。趣味だからこそ、楽しみながら作業に熱中し、知らず知らずの内に本気になり、様々な編集方法を試したりするようになる。その結果、俺はそこそこ高いスキルを身に付けてしまった。趣味が高じて、ということだ。
それからというもの、ちょくちょくDVD制作の撮影と合わせて、動画編集を依頼されることがあった。そして、つい一週間程前に、知り合いである
「危ねえー。思い出さなかったらものすごい失礼を働くとこだった……」
本当に良かった。もしも完全に失念してその依頼をスッポかしたりでもしていたら、俺に対する武田さんからの信頼はガタ落ちしていたはず。
一度失った信頼を取り戻すのには長い時間がかかるし、そもそも、元の形に戻らない可能性だってある。
そんなわけで、冷や汗ダラダラな俺である。
「でも、そういえば……」
武田コーチが言っていた。『今すぐにはできないかもしれない』、と。それが気になるし、妙に引っかかる。その先延ばしの理由が金銭的な理由なのか、はたまた別の理由なのか。それが分からないからだ。
ちなみに。映像制作で得られる金額の相場は、大体三十万円くらい。なので、もしも先延ばしの理由が金銭面の問題だと仮定するなら、俺はこの仕事に対して十万円という金額を提示しようと思う。はっきり言って、破格だ。でも、そうすればすんなりと正式に受注が取れるかもしれない。と、俺は考えた。
「もしかしたらこれ、イケるんじゃないのか?」
通常であれば、映像制作にかかる日数は、ピンキリではあるものの、大体一週間はかかる。しかし、今回はそこまで時間をかけるわけにはいかない。だが、死ぬ気になれば、この依頼を一日で終えられる。かなり過酷な作業になるだろうけれど。
しかし、これでもう一本竿を垂らすことができる。まだ口約束だし、本決まりではないにしろ。
「うっし! とりあえず光明は見えてきた!」
光明とはいっても、まだロウソクの火程度のものだ。しかし、賭ける価値はある。いや、賭ける価値しかない。
俺は全てを実現させてやる!
『第7話 忘却していた約束』
終わり
ダメ男、アメリカに行く 〜海外で有名なボイストレーナーを俺は倒す〜 十色 @midorinooka_new
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