第6話 なにその能力
そこには、落ち着いた表情でこちらを見返すヴァレンシアがいた。
……いや、正確には“見返している”はずなのに、やっぱり視線が合っていない。
「前にも言っただろ。
能力が“視える”やつを紹介するって」
メルヴァンの声に、颯真は思わず首を傾げる。
「え? 能力って翻訳だけじゃないの?」
その問いに、ヴァレンシアが静かに答えた。
「私の能力は、視る、聞く、話すに特化したものなの」
「……そうだったのか」
颯真は、なんとなく気恥ずかしくなって視線を逸らす。
フェアレンがくすっと笑った。
「ボウズ、いい能力だといいな」
前方からドラヴィンの声が飛んでくる。
「シアの鑑定は確かだぞ」
「なんでも見えちまうんだから、恐ろしいよな」
俺は一度、深呼吸した。
そして意を決して、ヴァレンシアを見る。
「……ヴァレンシアさん、お願いします」
すると彼女は、ほんの一瞬だけ目をつぶり――
すぐに、
「そんなに畏まらなくていいよ」
そして、静かに言う。
「シアでいい」
「……シア、さん」
「うん。それでいい」
(このやりとり学校でもやった事あるんだよな〜)
ちょっと情けない
シアは、少しだけ身を乗り出してくる。
「じゃあ、簡単に見るね。
力を抜いて、私の目を見て」
言われるまま、姿勢を正し、彼女の瞳を見つめた。
その瞬間――
シアの瞳が、淡く光った。
馬車の揺れも、周囲の音も、遠のいていく。
背筋が、ぞくりと粟立つ。
(っ……なにこれ)
見透かされている。
いや、これは――読まれている感覚だ。
ページをめくられるように。
行間まで覗かれるように。
俺という存在が、本として読まれていく。
(……俺って、どんな本なんだ?)
冒険譚?
それとも、誰も読まない分厚い専門書?
――いや、待て。
(まさか……)
嫌な想像が脳裏をよぎる。
(……俺の中身、エロ本とかじゃないよな!?)
異世界で初鑑定がそれだったら、最悪すぎる。
そんなくだらないことを考えているうちに、
シアの瞳の光が、ゆっくりと消えた。
彼女は、小さく息を吐く。
……その顔。
どう見ても、冷や汗マークが浮かんでるやつだ。
(え、なんで!?)
能力見ただけだよな?
ほんとにヤバいやつじゃないよな!?
まあ強いやつならいいけれど
重たい沈黙が、馬車の中に落ちる。
メルヴァンとフェアレンが、少しそわそわしながら聞いた。
「どうだ? やっぱり聞く系の能力か?」
シアはしばらく黙ったまま、俺を見つめていた。
そして、静かに言う。
「……違う」
空気が、ぴんと張り詰める。
「聞く能力じゃない」
「は? じゃあ何だよ」
メルヴァンが声を上げる。
シアは一度視線を伏せ、言葉を選ぶようにしてから続けた。
「能力名は――
《フォースインヴォーク》。
不安定型、能力強度-4。
他者の力を借りるタイプね」
「……ト、トレモア?」
(てっきり普通に安定型かと思ってた)
思わず鸚鵡返しになる。
フェアレンが肩をすくめた。
「なんだ、普通じゃねぇか」
「え?」
(普通?)
「その年ならそんなもんだろ。
俺も十五の頃は-3だったし」
シアも頷く。
「この世界じゃ、不安定の方が多いわ。
特にあなたくらいの年齢なら、-1〜-6は“普通”」
「安定型なんて、成人してから出るかどうか」
ドラヴィンが笑う。
「じゃあ……」
颯真は戸惑いながら聞いた。
「俺の能力って、珍しくも何ともない……?」
「ええ」
シアははっきり頷く。
「能力自体は、ごく一般的」
少しだけ、肩の力が抜けた。
(なんだ……反応からして何かあると思った。
期待して損したは)
だが、その直後。
「ただし――」
(!?)
シアの声に、視線が集まる。
「ひとつだけ、説明がつかない点がある」
「……メルヴァンか」
フェアレンが低く言う。
「ええ」
「《フォースインヴォーク》は“引き寄せる”能力。
でも、意思を持った存在と会話できるほどの接続は、普通起きない」
メルヴァンが鼻を鳴らす。
「つまり?」
「つまり――」
シアはそうまをまっすぐ見た。
「あなたがメルヴァンの声を聞けるのは、
能力の範疇を超えている」
嫌な沈黙が落ちる。
(……なんか、不安ではあるけど….?)
その空気を破るように、フェアレンが咳払いした。
「まあ、そんなこと、考えても仕方ねぇだろ」
「たまたまだろ、魂の波長が会えば見えたりするって聞いたことがある。
多分そんな感じだろ」
(そんなもんなのかな?)
ーーしばし沈黙が走る
「そうだ」
「お前、この世界で何かやりたいことあるのか?」
フェアレンによる唐突な質問だった。
「やりたいこと……?」
頭が、真っ白になる。
(俺、何になりたいんだ?)
強くなりたい?
冒険したい?
英雄になりたい?
まあ散々妄想してきたことだ
だが
……どれも、遠い。
やってみたいこと止まり
だって俺には、何もない。
ーーまた沈黙が走りだそうとしていた
その瞬間。
「――伏せろ!!」
フェンドリードの叫びが、空気を切り裂いた。
考えるより先に、身を低くする。
ドガッ!!
轟音。衝撃。
馬の悲鳴。
天井が吹き飛び、木片が雨のように降り注ぐ。
「何事だ!」
フェアレンはすでに弓を構えていた。
「空だ! 上に!」
フェンドリードが剣を抜き放つ。
恐る恐る、顔を上げる。
空を覆う巨大な影。灰褐色の体
分厚い鱗、広げられた翼。
黄金色の瞳が、こちらを射抜く。
「……ドラゴン……」
生き物としての“格”が違う。
羽ばたく風圧で吹き飛びそうになる
「トロッサを狙ってきやがった!」
「ボウズはは馬車の陰にいろ!」
指示通りに動く
心臓が、壊れそうなほど鳴る。
確かに今日はロクでもある始まりだった
ただ
ーーロクのロクは不吉の6
あくまでも不幸のロク
そのとき、メルヴァンが低く笑った。
「……見てろよ」
「え?」
「あいつらの戦いを」
ドラゴンが、息を吸い込む。
ーーグゴオオオォン!
赤い光が、喉の奥で脈打った。
「来るぞ!」
――灼熱の咆哮が、空を裂いた。
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