幕間No.3 DESTROY
「ゲーセンだあぁぁぁあぁぁあ!!!」
自動ドアの稼働音と共に、9万職員さんが声を上げた。
・ ・ ・
時は今朝…というか3時間前に遡る…。
「今日から9万が休暇に入るとの事だが…。
生憎私は家の掃除をしなくてはならないんだ。そこでヨシヒコ君、9万の監視…じゃなくて、休暇に付き合ってやってくれ。」
コードレス掃除機を片手に、部屋着のリカブさんが言った。
「なんだろう…鳥肌が…。」
「勇者様!私映画館行きたいです!」
「…どんな映画ですか?」
「"妖怪ポケットドラえモンスターハンターズスペシャライズドグレイシャーサウナゴールドフィッシュキャッチャーズストーリー"です!」
「…僕のツッコミも休暇に入りますね…。」
「ああそうだ、2人共。」
リカブさんがポケットから何かを取り出す。
そこには、"クレーンゲーム5回無料券"と書いてある。
「映画館併設のゲームセンターで使えるのだが…期限が今日まででな。
代わりに使ってくれて構わないぞ。」
「へぇ…ありがとうございます、リカブさん」
「何で外出する予定が無いのにポケットに入れっぱなしになってるんですか?
…コレはッ…洗濯してないッ…!?」
「野暮なツッコミは要りませんから…!
行きましょう9万職員さん!」
戦慄する9万職員さんを引き摺りながら家を出た。
「車に気をつけるんだぞ〜!」
(9万が)車(の運転をしないように)気をつけるんだぞ〜!
…リカブさんの目はそう語っていた。
・ ・ ・
「あっ!"ケンロク"の縫いぐるみですよ!」
9万職員さんがクレーンゲームの台に駆け寄りながら言った。
「コレ、何のキャラですか?」
「"ニスル・イヌジ"と言って、いわば噛ませ犬のモブキャラです!」
「何でそんなキャラがグッズ化してるんですか…。」
「ちなみに主人公のグッズ化はしてません!」
「優先順位ィ…。」
「勇者様!コレに無料券使いましょう!」
「コレに!?まあ良いですけど…。
…すみませーん!店員さーん!」
駆けつけた店員に無料券を提示する。
…こうして、僕らの戦いが始まった。
・ ・ ・
「むむ…むぅ………むむむむむむ…」
9万職員さんが台と睨み合う。
ミリ単位でクレーンを操作しているようだ。
「ここだッ!!!」
アームがゆっくりと降ろされる。
それは希望を掴むため、
運命を決し、願いを手にするために。
…アームが持ち上がる。
縫いぐるみの頭部をガッチリと掴んだまま。
ドサッ
アームが不自然に縫いぐるみを手放した。
縫いぐるみは元あった場所へと転がり落ちる。
「あっ…アレェ…?」
「確率機ですね…コレ…。」
「かっ…代わりに取って下さい勇者様〜っ!」
涙目で9万職員さんが訴えかけてきた。
「いや無理ですよ!
自慢じゃないですが、僕はクレーンゲームが壊滅的に下手くそなんですよ!」
「でも私のモチベは粉々なんです…。
どうか代わりに…。」
1回のミスでここまで…と思いつつも、レバーを手にした。
…アームを操作し、降下ボタンを押す。
しかし、アームは縫いぐるみの横をすり抜けていく。
「…壊滅的に下手くそですね」
「事実ですけど…!もうちょいオブラートに…」
2度目の挑戦。再びレバーを握りしめる。
…その時、レバーに対して妙な違和感を覚えた。
スルッ
「え?」
持ち上げた右手には、アーム操作のためのレバーがあった。
「…レバー……取れちゃったんですけど…。」
「本当に"壊滅的"ですねぇ…」
「コレ…店員さん呼んだ方が…」
「駄目です!下手したら弁償する羽目になるかも知れないですし!このまま続けましょう!」
「このまま!?」
・ ・ ・
レバーは見なかった事にして挿し直し…
3度目の挑戦が始まった。
チャリンガッシャァァァアン!!!
アームが降下すると同時に、
台に入っていたコインケースの鍵が外れ、床一面にコインが流れ出した。
「…拾っちゃダメですよ、9万職員さん。」
大量のコインに目を輝かせる9万職員を見てそう言った。
再びアームが縫いぐるみを掴みあげた。
そして、遂に……
ガシャンッ!
「アームが外れちゃったんですけど!?」
「勇者様って破壊神か何かだったりします?」
「自分でもそんな気がしてきましたよ…。
それより…コレじゃ取りようが無いですし、店員さんに…」
「嫌ですッ!!!弁償だけは嫌なんですッ!!!」
「…一体、弁償に何のトラウマが…。」
酷く怯える9万職員さんを横目に、
物理的に景品を取る事が不可能な4度目に挑戦する。
虚しいラストチャンスを終わらせるため、
降下ボタンを叩きつけた。
ミシッ
「………?何の音だ……?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
突如床に亀裂が入る。
窓ガラスは粉々に砕け散り、足場は轟音と共に激しく揺れ始めた。
ガッシャァァァァァアァァァアァァアン!!!
こうして…とある昼下がり、
映画館併設のゲームセンターは粉々に崩れ落ちたのであった…。
・ ・ ・
掃除機を充電コードと接続しリカブが呟く。
「あのゲーセン、"設備の老朽化が激しかった"からな…。今日で閉業してしまうそうだな…。
だが、閉業前に無料券を使ってくれる人が居て良かったものだ。
掃除も終わったし、そろそろ夕飯を…。」
「ただいまで〜す!」
玄関から声が響く。
「おお9万、おかえり。
その手に持っているのは…ゲーセンの景品か?」
「ハイ!瓦礫を掘り起こしたら見つかったんですよ〜!」
「瓦礫…?よく分からないが、映画は楽しかったか?」
「アッ」
「…た…ただいま…」
「おかえりヨシヒコ君。
…何だか、今朝と比べて随分と老けたな…。」
「お帰りなさい!勇者様!
無事救助されたみたいで良かったです!」
「ゲーセンなんて……二度と行く物かッ…!」
縫いぐるみ片手に上機嫌な9万の横で、
トラウマが増え続けるヨシヒコであった…。
END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます