第25幕・視線の先の現実

「こちらからだ…行くぞ。」

爆発音と共にプロミネンスが紫色の炎を纏い、僕に向かって急接近する。


「…勇者様ッ!!!」

9万職員さんが咄嗟に水色の障壁を張り、

プロミネンスを受け止める。


「…障壁魔法か…やるな…!」

プロミネンスは障壁を蹴り、飛び上がると、僕達の背後へと着地した。


9万職員さんに感謝の言葉を述べる間すらなく、前方から、僕と9万職員の顔の横をエネルギー弾がすり抜けた。


「お前の相手は…この儂だ…!」

老爺の姿のモンスターが9万職員さんを睨みつけた、その瞬間。



「うわっ!?」

「熱っ…!!!」


突如として、僕と9万職員さんの間に炎の壁が現れた。


「…勇者様ッ!大丈夫ですか!?」

炎の奥から声がする。


…僕と9万職員さんは、完全に分断されてしまった。


・ ・ ・


危うく燃えかけた背中を擦りつつ、顔を上げる。

そこには、右手を突き出して直立するプロミネンスが居る。


「…これで…確実にお前を始末できる…。」

プロミネンスが僕の目をジッと睨みつける。


「…あの魔導士の相手はアビスが担うと言っていたが…好都合だ。

この戦いに水を差す者は誰も居ない。

…もうお前は、誰の助けも得られない。」


僕はプロミネンスが話し終わるとほぼ同時に、勇者の剣を発射した。


「コレで…どうだ…!」

刃は空を切りながら、辺りの光を反射し、紫に輝きながら、プロミネンスの顔面目掛けて距離を縮めていく。


そして刃は、プロミネンスの顔面に突き刺さり――


「……は?」


 ――発射から数秒経っても、プロミネンスは怯みすらしていない。


高速の一撃に対して平然とする奴を相手に、僕は困惑を隠せずに居た。


「…小細工は終わりか?」


そう言い放つプロミネンスの右手には、高速で発射したはずの刃が握られていた。

掴まれた刃は、黒い煙と共に融け出している。


「…いや、まだだッ!剣身を再装填して…」

「いいや――」



「――終わりだ。」


鍔のボタンに手をかける僕に向かって、巨大な炎の波が迫り来る。


視界に映っていた家々が、次々と炎の中に消えていく。


…眩しい光を目の当たりにして、僕は確信してしまった。あの炎を回避する術が無いことを…そして、次に炎に呑まれるのは――



「ッぁぁあああぁあああ!!! 熱ッ…熱っつあぁぁああぁあああ!!!」


僕は醜い悲鳴を上げ、その場でのたうち回る。


(駄目だ…こんなの…!!!

前に戦ったモンスター達とはレベルが違うッ… 勝てるはずがッ…!!!)



「…お前は…勇者ではない」


…全身を無数の針で貫かれたかのような、強烈な痛みが襲う中、プロミネンスの声が聞こえた。


指を鳴らすような音と共に、僕に纏わりついていた炎が消える。

…しかし、僕に動ける程の体力は残っていなかった。


「…あれ程挑発しておきながら、結局は口先だけで、俺に一撃も当てずにこの有様…。

偽の魔王も、倒したのはお前の力では無いのだろう。」


焼け焦げて倒れ込む僕を見下しながら、プロミネンスは続ける。


「お前は弱過ぎる。

2人の仲間が居なければ、お前はとうに死んでいた。大概察しがつく事だ。」


僕は力を振り絞り、顔を上げ、プロミネンスを睨み返す――


 ――そんな僕の頭を踏みつけながら、奴は続けた。


「諦めろ」

「……ッ…」

「お前に我々は倒せない。…人類はもうじき滅ぶ。

端からお前は、魔王討伐など身の丈に合わない真似など止め、滅び行く運命を受け入れ…

…仄暗い洞窟の奥にでも逃げ、息を潜めて生涯を終えるのがお似合いだ…。」


…プロミネンスは僕の元から歩き出し、通り過ぎて行く。


「お前は精々、"蛮勇"といった所だ」


振り向きざまにそう言い残し、プロミネンスは炎の壁の奥へと消えていった。


「…勇者…ではない……蛮勇……。」

…僕にはその後ろ姿を、ただ眺める事しか出来なかった。


To Be Continued

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