第24幕・大破壊の幕開け
「逃げて下さい!こっちです!」
「着いてきて下さい!この先に無限回廊があります!出来る限り遠くに逃げて!!!」
2人揃って声を張り上げ、村の人々を誘導する。
「――うわああぁぁあぁぁああっ!!!」
爆発音と共に、悲鳴が響いてくる。
「…勇者様、あっちを助けに行きましょう!」
「村の人々をお願いします!皆さんっ!」
僕は振り返りながら、その場から走り出した。
「ああ、俺たちに任せろ!」
名前も知らない傭兵達が声を張り上げて言った。
・ ・ ・
煙に包まれ、炎を上げる住宅街の中を走り抜ける。
既に日は昇っているというのに、火災が空を赤黒く染め上げている…。
「…恐らく、モンスターの集団は既に村に侵入している…。
そして、間も無く接触する事でしょう。」
9万職員さんは、真っ赤な街道の先を見つめながら言った。
…今、僕の視界に映っているのは、脚が竦みそうな程に恐ろしい光景だ。
でも――
「…勇者様ッ!前です!」
「…!?」
咄嗟に身を左に躱す。
顔の真横を熱を帯びた光の球が通り過ぎていった。
…間違いない。コレは…僕に対する、明確な殺意を持った"攻撃"だ。
――この瞬間僕は、もう後戻りが出来ないという事を直感した。
「仕留め損なったか…。だが良い。
正面から打ち砕いてやるぞ…!勇者ッ!」
半壊した建物の陰から、モンスターが姿を表し、こちらを睨みつけて言った。
「…どうやら、我々の情報は魔王軍に筒抜けのようですね…。」
「ッ……!」
頬に冷や汗が伝う中、勇者の剣(偽)を握りしめる。
「死ねえっ!勇者共!」
モンスターがこちらに向けて迫り来る。
僕は歯を食いしばって、モンスターと目を合わせた。
「勇者様ッ!その剣の持ち手のボタンを押して下さい!」
9万職員さんがそう叫ぶ。
「えっ?ボタン?」
9万職員さんの言葉に戸惑いつつも、持ち手に見つけたボタンを押した、その時――
――バシュゥゥンッ!
「ぐぉっはぁッ!?」
「…えっ?」
突如、刃が高速で飛び出した。僕の理解をすっかり置き去りにして、飛び出した。
刃が飛んだ先を見ると、さっきのモンスターが倒れている。
…モンスターの腹部には、刃が突き刺さっていた。それはそれとして頭が追いつかない。
「…良かった!ちゃんと動作しましたね!」
「ちゃんと動作しましたね!じゃないですよ!何ですかコレ!?100均のパーティグッズにも付いてませんよこんな機能!」
笑顔を浮かべて上機嫌な9万職員さんに、僕はまくし立てるように言った。
「まあまあ、機能は多い方が良いですから。あ、あと鍔のボタンを押してみて下さい。」
僕は言われるがままにボタンを押す。
すると金属が擦れるような音と共に――
「新しく刃が生えてきたんだけど!?
マジでどうなってるんですかこの剣!」
「凄いですよね?これなら、どれだけ刃を発射しても無くなりませんよ!」
「確かに凄いですけど――」
「居たぞ!勇者一行だ!」
…僕達が話している間も、敵は待ってくれはしない。物陰から次々とモンスターが現れる…。
前方からも、そして背後からも、瓦礫を掻き分けて走る音が聞こえる。
「…囲まれた…!?」
「…まさか、これ程の数のモンスターが村の中に侵入していたとは…。」
そう呟くと、9万職員さんは何かを考えるような表情を見せた後、続けた。
「勇者様、伏せていて下さい。」
「……?」
多少困惑しつつも、地に身を伏せる。
「"ランページ・ボルト"!!!」
9万職員さんがそう唱えた瞬間、青白い光が一帯を埋め尽くした。
地に顔を伏せていようがお構い無しに、激しい光が目を刺した。
モンスターの断末魔と思しき声も、轟音によって掻き消されていく――
「イッタ…耳痛ァ……」
顔を上げると、半壊状態だった住宅街は黒焦げになっていた。
建物の金属部分は帯電しており、未だに青白い光を放っている。
「…すみません勇者様…。耳も塞いで貰った方が良かったですね…。」
「え?今なんか言いましたか?」
「髪の毛…。静電気で凄い事になってますよ…。」
「え?髪の毛が何て……ンなんじゃこりゃぁぁあ!?」
「…とにかく、敵は一掃出来ました。村の中央に向かいましょう!」
「はい。…それにしても凄いですね…9万職員さん、こんな強い魔法が使えたなんて…。」
頭髪を両手で整えながら、そう答えた。
「いやぁ…褒めても何も出ませんよ?」
笑みを浮かべ、9万職員さんは言った。
「………ッ!?」
突如、9万職員さんの表情が険しく変わる。
「…気を付けて下さい、勇者様。"何か"が…来ますッ…!」
「……!」
(戦闘経験が無い僕にすら分かる…。何処かから流れて来るような…この身を締め付けられるような不快感は…。)
9万職員さんの目線を先を辿ると、そこは街道の遥か奥だった。
炎が燻るような、弾けるような音が聞こえてくる。
突如、炭のように焼け焦げていた建物が、再び炎に包まれる。
しかしその炎は、自然エネルギーなどとは程遠いような、不気味で、紫を帯びた光を放っている。
その炎は、僕達の元へ近寄るかのように、素早く住宅街全体に延焼していく。
「うわっ!?」
気づいた時には、炎は僕達の背後へと回り込んでいた。
炎は石畳がヒビ割れる音と共に燃え広がり、僕達の背後に壁を形成した。
前方に見える2つの人影。
少しずつこちらに迫り来る彼等の背後にもまた、炎の壁が形成されていた。
「…不味いです…どうやら、私達の退路は塞がれたようですね…。」
見えたのは、老爺と青年。
しかし、その雰囲気は人間の物ではなく、
先程のモンスターとも一際異なる物だった。
「…ホッホッホッ…。襲撃が始まればいずれ遭遇できるとは思っていましたが…。
…随分と派手に動いてくれたお陰で、"無事に"見付ける事が出来ましたのぉ…。」
老爺の姿をしたモンスターが口にする。
「…概ね作戦通りだ。続けるぞ。」
青年のモンスターが答えた。
「勇者様……奴等、只者では無さそうです…。」
9万職員さんが深刻な口調で呟く。
今の僕は、2体のモンスターから目が離せずにいた。
全身から冷や汗が吹き出す中、固唾を呑み、剣を握る。
「…プロミネンス殿、勇者の相手は任せましたぞ…。儂は"あの女"に用がありましての…。」
「…事情、か…。まあ、良いだろう…。」
…青年のモンスター…プロミネンスがこちらに歩み寄る。
「お前が…"勇者"のヨシヒコだな…?」
重く低い声で、プロミネンスはこちらに問いかける。
「ッ……そうだ!
僕がヨシヒコだ!ぉ……お前と戦う覚悟なら既に済んでいる!かかって来いッ!!!」
僕は震える声で叫ぶ。実際の所、覚悟も何も済んでいない。
ただ、"やるしかない"という思いだけが僕を突き動かしていた。
「…始めるぞ。」
プロミネンスは、ただ冷淡に告げた。
To be continued
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