第43幕・コールコール
『しばらく旅に出ます』
『数日で戻る予定でいますが、仮に一週間を過ぎても帰ってこなかった場合、私は死んだと思ってください』
『繰り返しにはなりますが、私を探しに出るような事は決してしないでください』
――書き置きには、そう綴られていた。
「どうしましょう…ひとまず警察に連絡…いや、今この状況で来てくれるか――」
看護婦さんはかなり気が動転している様子だ。
「…いえ、大丈夫です。後は僕の方で何とかします。」
僕は平静を保ちつつ、そう言った。
――リカブさんは、僕を信用してくれた。
魔王(偽)との戦いの時も…リカブさんは僕の作戦に身を預けてくれた。
異世界に来たばかりの僕を助けてくれた。面倒を見てくれた。
…だから、僕もリカブさんを信じる。
無事に戻ってくる事を信じ、待ち続ける…それが、僕に出来る最大の恩返しなのだから。
でも――
「…居なくなる前に、一言ぐらい声をかけて欲しかったな…。」
・ ・ ・
『――ヨシヒコ君。』
『出発前に、君に渡しておく物がある。』
『私の家の合鍵だ。』
『この戦いで…私が無事で済むとは限らない。万が一の時の為に、持っておいてくれ。』
・ ・ ・
鍵の開いた玄関の扉を開く。
「…ただいま。」
僕は無意識にそう呟いた。
誰からも返事は無い。
バタリと音を立てて、玄関の扉が閉まる。
その余韻が消えた後、薄暗い玄関に残るのは静寂のみだった。
「リカブさん…あの時、"この家の物は好きに使って良い"とも言ってたな…。とりあえず電気を――」
僕は独り言を呟きながら、電気のスイッチに手を伸ばした。
パチンという音と共に、スイッチは押し込まれる。しかし――
「あれ…電気が点かない…?」
僕は首を傾げながら、何度も電気のスイッチを押した。
だが、明かりが灯る事は無かった。
(ゲッ…停電してる…!)
…もうじき日が沈む。そうすれば、家の中は暗闇によって埋め尽くされてしまうだろう。
(落ち着け…リカブさんは"1階のクローゼットに災害時に備えた物資がまとめてある"とも言っていた筈…まだ明かりがある内に探そう…。)
・ ・ ・
マワリは、夜道を歩いていた。
街灯の光も、人々の生活の中の明かりも無い、月明かりだけが照らす瓦礫の街を、曇った瞳で眺めながら。
…マワリはポケットから、携帯電話を取り出し、開く。
そのまま慎重に、番号を入力し始めた。
コール音が夜空に響き出す。
何度も、何度も繰り返し、鳴り響く。
『――只今、電話に出る事が出来ま』
続けて鳴った自動音声…それが全てを告げ終わるのを待たず、マワリは通話を切った。
マワリは再び、先程よりも素早く番号を入力した。
コール音が再度鳴り始める。
『――只今、電話に』
自動音声を察知したマワリは、間髪入れずに通話を切る。
そのまま、苛立ちを表情に浮かべ、番号を打つ。
コール音。
『――只今』
通話を切る。
番号を打つ。
コール音。
『――た』
通話を切る。
番号を打つ。
コール音。
自動音声。
通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を切る。番号を打つ。コール音。自動音声。通話を
『……忙しい私に何度も何度も電話を下さりどうも。…何の用?』
――数百回ものコール音の後、初めて自動音声ではない声が鳴った。
マワリは、僅かに微笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、"アミノ"。」
To Be Continued
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