第44幕・一筋の光

「久しぶりだな、アミノ…俺だ。」


『…詐欺とセールスの電話だけは受け付けないって決めてるのよ。消えて頂戴。』

電話口から返ってきたのは、女性の冷ややかな声だった。


「オレオレ詐欺じゃない!俺だ!マワリだ!」

マワリは携帯電話を強く握りながら叫んだ。



『マワリ…?貴方、サンダ・オ・マワリなの…?』

先程まで冷徹を極めていた声は、どこか柔らかさを帯びる。


「如何にも。サンダ・オ・マワリだ。」

微かに笑みを浮かべつつ、マワリは返答した。



『マワリ…連絡が無いから、てっきり死んだのかと思ったわ…。久しぶりね。』

"アミノ"と呼ばれた女性の声からは、僅かに安堵が滲み出していた。

マワリは目元を弛ませながら呟く。

「ああ…死に損なったさ、運良くな…。」


『ニュースで見たわ。メガバイト村は大変な被害だそうね。』

「…ああ。インフラも被害を受け、電気とガスは止まってしまった。家庭によっては断水も起こっているそうだ。」

マワリは一転して沈んだ声で答える。


『…それで、貴方が私に電話してきたのは生存報告だけが理由じゃないんでしょう?』

「ああ…本題に入るが――」


マワリは一呼吸置いて、足元に目を落とす。そして間も無く前を向いて、再び話し出した。


「――"ペプシ"を連れてメガバイト村に来てくれ。メガバイト村を…いや、サーバリアン王国を壊滅の危機から救う為、"魔王軍対策本部"に力を貸して欲しい。」


『…………』

アミノは沈黙した。

マワリは無言の間が示す意味を悟れず、もどかしさを感じていた。


「魔王軍がサーバリアン王国を制圧するのは時間の問題…。このままではモンスター共による侵攻に歯止めが効かなくなる…!

だが、"レイダース"の力を以てすれば――」

『"レイダース"ね…。貴方はその名を捨てたがっているのだと認識していたのだけど――?』

アミノはマワリの言葉を遮るように呟いた。


「……俺に対する苦言があるのなら後で幾らでも聞いてやる。だから今ここで、答えを示してくれ。」

マワリは不機嫌そうな声色で話を戻す。


『マワリ…私の記憶が正しければ、貴方には話していた筈よ。今の私は魔術学会に所属している…とね。

"魔術学会は一切の紛争介入を行わない"という規定があるのよ。』

「NOならさっさとNOと言ってくれないか…?相変わらず回りくどい奴だ…。」

眉間に皺を寄せながら、マワリは話す。


『仮に私がNOと言ったら、貴方は納得するのかしら?』

「良いから…YESかNOで答えろ…!」


『その前に、私の質問に答えて頂戴。貴方の鬼電に出てあげた私への礼としてね。』


マワリは今にも携帯電話を握り潰してしまいそうな程、苛立ちの浮かんだ表情のまま答える。

「…答えはNOだ!納得しない!これで満足か!?」


『ええ。約束通り、私も答えを言うわね。

"YES"よ。貴方達に協力するわ。』

アミノは少し弾んだ声色で答えた。


「…断られる流れだと思っていた。"紛争介入をしない"んじゃなかったのか?」

『それは"魔術学会"の意向であって、私の意向ではないわ。

魔王軍…今はサーバリアン王国を主な活動地点としているようだけど…野放しにしておけば間違いなく世界全体の脅威になる…。放っておく手は無いもの。』


「…その決定に感謝するぞ、アミノ。」

『気にしないで頂戴…全ての人類の為よ。学会に休職届けを出したらすぐに向かうわ。じゃあね。』


「…待て、俺への苦言は良いのか?」

マワリはアミノを引き留めるかのように言う。


『電話代が勿体無いのよ。貴方への文句なら、直接会った時に全部言わせて貰うから…徹夜の覚悟位はしておいて頂戴。』

「徹…!?」

アミノが吐き捨てるようにそう答えたのを最後に、通話は途切れた。



「余計な事は…言うものじゃなかったな…。」

その顔に薄らと絶望を浮かべながら、マワリはそう呟いた。


携帯電話の画面から漏れ出る光は、街の暗闇の中でも一際目立っていた。



To Be Continued

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