第5話【2年生最後の期末テスト編】 ──“恋と焦りと、ちょっとの奇跡”



冬休みが終わり、三学期が始まって数週間。

雪こそ積もらないけれど、肌を刺すような寒風が校庭を吹き抜ける。


そんな中、陸上部の3人とマネージャー3人に、

避けようのない“運命のイベント”が迫っていた。


ー期末テスト―


2年最後の、内申に直結する大勝負。


例年より範囲は広く、先生のやる気は妙にみなぎり、

提出物のチェックも厳格そのもの。


陸上部としても、新学年になると本格的に関東大会を狙う学年。

もちろん留年なんてできない。


だから、6人の焦りが校内に満ちていた。


◆放課後の教室──テスト5日前


夕日が差し込み始める教室。

黒板には数学Ⅱの因数分解と数列の問題がびっしりと残されている。


陸上部は練習後、3人のマネージャーが持ってきた大量の参考書とプリントに囲まれていた。


優太「……なあ、楓。俺たち陸上部じゃなかったっけ?ここ、なんで予備校みたいになってるんだ?」


楓「うるさい。ほら、次この問題。三項間の漸化式。さっき教えたでしょ」


優太「いや、覚えてるけど……あの……俺、走る専門じゃなかったっけ?」


楓「走るのは得意でも、逃げるのはダメ」


楓はため息ひとつ。

でもその目は、彼氏を心配する優しい光に満ちていた。


明「愛……オレもう限界。てか、この英語長文さ、マラソンよりキツくね?」


愛「明くんは“think”と“thing”の読み間違えをまず直した方がいいと思うの……」


明「そこから!?」


愛はクスッと笑いながらも、ノートにびっしりとポイントを書き込んでいく。


輝「百合さん……助けてください。物理の波、終わりが見えません」


百合「あのね、輝くん。波ってね、心で感じるものじゃないよ?式で覚えるの」


輝「俺は心で理解したかったんですけど……」


百合「高校物理に心の余裕はないの。はい、次。ドップラー効果」


輝は叫びながらも、百合の丁寧な指導に必死で食らいついていた。


6人で集まった机の上には、プリントの山、付箋、蛍光ペン。

いつもの馬鹿話は鳴りを潜め、

代わりにページをめくる音が支配していた。


でも、時折交わされる掛け合いは、

やっぱりどこか“いつもの6人”だった。


◆テスト3日前──図書室での自習


図書室は期末前の生徒でぎゅうぎゅう。

静かな空間なのに、焦りの気配が充満している。


6人は角の自習席を占領し、黙々と問題を解き続ける。


優太「楓……眠気が……」


楓「……はい、早押しクイズ。三角関数の加法定理!」


優太「ちょ、待っ……えっと……サインAコサインB+コサインAサインB!」


楓「……今の声、図書室で出していい音量じゃないよね?」


周囲の生徒がこちらを見る。


優太「すみませんでした……!」


楓は肩を震わせて笑いをこらえた。


---


明「愛、これ……“主語と動詞の一致”ってやつ、どこまで気にすりゃいいの?」


愛「全部、だよ?」


明「ぜ、全部……?」


愛は優しく微笑み、明のノートに丸をつけていく。


---


輝「百合さん。絶対値の不等式って、なんでこんなにややこしいんです?」


百合「“距離”だと思えば楽だよ。数直線で距離を考えると……」


百合の説明は不思議と分かりやすく、輝は何度も頷いた。


---


勉強の合間、6人は菓子禁止の図書室でガムをこっそり噛む。

集中しすぎると、誰かが黙って手を握って励ます。

疲れると、目だけで笑い合う。


恋人であり、仲間でもある6人の距離は、

今さらだけどやっぱり特別だった。


---


◆テスト前日──帰り道


夕暮れの帰り道。

川沿いの冷たい空気が、テスト前らしい緊張感を運んでくる。


---


優太「うわ……明日か……」


楓「大丈夫。優太は絶対できるよ」


楓は小さく手を握った。


---


明「愛。俺、全部覚えたと思う。……気のせいかもしれんけど」


愛「えらいよ。それだけ頑張ったなら、明くんの点数は絶対伸びる」


明は頬を赤くしながら髪をかいた。


---


輝「百合さん、俺……今回は本気で自己ベスト狙います」


百合「うん。輝くんならいける。自信持って」


2人はほんの少しだけ距離を縮めた。


---


明日はいよいよ勝負。

6人はそれぞれの家に帰っていき、

最後の追い込みに入った。


---


◆◆【期末テスト当日】◆◆


教室に漂う独特の緊張感。

プリントが配られ、鉛筆を握る手が震える。


始業のチャイム。


先生「……では始め!」


一斉にページをめくる音。


---


◆数学


優太(……うわ、同じ問題昨日楓に教わったやつ!)


解ける! 書ける!

優太の手は止まらなかった。


輝(百合さんのおかげで分かる……!これは数直線で……)


目が輝くほど、理解の手ごたえがあった。


明(愛が言ってたパターンのやつ……!)


昨日の愛の解説が脳内で再生される。


◆英語・国語・理科…


苦手科目も、それぞれの恋人の“声”が脳裏に蘇る。


「ここ間違えやすいよ」「ここはパターンで覚えるの」


まるで6人で一緒に戦っているようだった。


◆◆テスト最終日◆◆


全科目が終わった瞬間、生徒たちは一斉にどっと疲れを吐き出した。


6人も昇降口に集まり、雪がふわりと落ちてくる外へ。


優太「終わったーーーー!楓、俺生きて帰ってこれた!」


楓「うん。よく頑張った」


明「愛〜!俺、英語長文、ちょっと分かったかもしれん!」


愛「ほんと? すごいよ、明くん!」


輝「百合さん。数学……なんか、解けました」


百合「ふふ。頑張った成果だね」


この3日間、勉強地獄だったけど、

6人で乗り越えたからこそ、胸に残ったものがあった。


“ああ、俺たち……ちゃんと支え合えてるんだな”


そんな実感だった。


◆◆数日後──答案返却◆◆


朝から教室はざわざわしている。

先生が答案の束を持って現れた。


◆数学返却


先生「優太、よく頑張ったな。前回より18点アップだぞ」


優太「マジっすか!?」


楓が小さくガッツポーズする。


先生「輝、お前も成長したな。……今回、学年平均越えてるぞ」


輝「うおおお……百合さん……!」


百合は目を細めて微笑んだ。


先生「明……お前……英語……奇跡か?」


明「先生、俺もそう思ってます」


愛「明くん、やったね!」


結果は全体的に良好。

6人の努力がしっかり形になっていた。


◆◆放課後──屋上にて(軽い打ち上げ)


冬の冷気が心地よい。

6人は自動販売機で買った温かい飲み物を手に、丸くなって座った。


楓「みんな、本当にお疲れさま。今回のテスト……少し大人になれた気がする」


優太「楓がいてくれたからだよ。ありがとうな」


愛「明くんも、すごく頑張ってたよ」


明「いや……愛が支えてくれたから。ほんと、ありがとう」


百合「輝くんは、本当に成長したと思う」


輝「百合さんの教え方がうまいからですよ。俺、次も頑張ります」


冬の空は澄んでいて、どこまでも青い。


6人で笑い合いながら、

「一緒に支え合って乗り越える」

そんな関係になっていたことを実感する。


◆◆エピローグ──帰り道、手をつないで◆◆


学年末の空は夕焼けで染まり、

6人の影は長く伸びた。


手をつなぐカップル。

隣で話す声。

冗談を言って笑い合う空気。


期末テストという試練を乗り越え、

6人の絆はまた一歩進んだ。


それぞれの心の中で響いていた言葉は同じ。


“次の春も、みんなで一緒に歩いていきたい”


そして――

三年生へ。


新しい季節への不安と期待を胸に、

6人は同じ道を歩いていった。

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