破局
たった二ヶ月なのに、お互い飽きつつあった。わかってはいたけど、少しこたえた。破局の理由は判然としている。Nは、大学生活の最初の不安に抗するものを僕に求めただけで、僕は彼女に好奇心の対象と現実逃避と暇つぶしを求めただけだった。時が経って、お互いが必要なくなった。
*
具体的な終わりは晩春に来た。
その日は鶏肉のソテーを作ることになっていた。夜サークルから帰ってきた時、Nは機嫌が悪かった。生理の最中ということもあった。
Nの気に障らないように、肉に片栗粉をまぶして、フライパンに油を引いた。にんじんと玉ねぎを大振りに切って先に炒めた。その後に、鶏肉を入れた。蓋をした。彼女の指示通りの時間を測り始めた。長すぎるのでは、と思ったけれど、それを機嫌の悪いNに伝える気力はなかった。
実際、出来上がったものたちを見てみると、随分と焦げていた。火力のせいだったか、時間のせいだったかはわからない。とにかく、片面が黒々とした炭になっていた。
*
どうにもならない思いが溢れてきた。Nと対話をしていたなら、このようなことはなかっただろう。
対話というのは、今までの生活の中で、やろうと思えばできたことだった。
顔色を伺って、何も言わなかったことが、より悪い結果を生んだ。Nとの関係はここまでのものでしかなかった。そしてこれからもこのままだろうと感じた。
そう思うと至極面倒なこの先が想像された。そしてそれを乗り越えたいとも思わなかった。Kの時と同じ別離の感覚が芽生えた。
*
半分本音、半分建前で、「予備校に行くよ」と告げて、彼女の家から去ることにした。
彼女ではなく、勉強という夢想に逃避先を選んだ。脱皮しても、僕はまだ幼年のままだった。
*
Nの家を発つ日、明るい外へと向けてドアを開けた時、彼女がなんと言っていたかを覚えていない。覚えておくべきことだったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます