第2話
「くくく、よくぞ参られた、異国の人よ。
……戦いがしたいのなら、我が相手をしよう。
……この首がほしいのなら、差し出そう。
我の首で満足してくれ。
民には、彼らには手を出さないでくれ」
国境付近に立派な角をつけたみすぼらしい人が頭を下げてきた。
その姿は、勝者の王ではなく、
すでに処刑台に立っている罪人のようだった。
魔王を名乗ってるけど、影武者かな?
「勇者ではないのか?
我の首を取りに来たのでは、ないのか?」
本物、みたいですね。
私は、勇者と呼ばれてはいます……だけど、ただ、話をしに来ただけです。
食料がないんでしょう?
人も、魔族も。
どうして?
「どうして、か。
土地の魔力が枯れておるからだ。
それで、作物が育たん。
土を耕し、種を植えても、緑は失われ続けている。
生み出される、魔素の影響ではないかと睨んではいるが、
魔素はどうして生み出されているのか、分からない」
では、魔王様は人の領域には、魔素が存在しないというのをご存知でしょうか?
「あ、ああ。
魔素が生み出されるのは、我ら魔族の領域だけのようだ。
それゆえ、人族の領域を手に入れれば、食糧難は解決すると、思っていた。
だが、それは夢幻だった。
最初こそ、人が逃げる際に魔素をばらまいていると思っていたが、国境の状況を知り、お互いが理解しえないことが起こっていることは理解できているつもりだ。
だが、同時に、我が討伐されても仕方がない事象を起こしたことも、十分に理解している」
目を閉じ、眉を下げた魔王様を見て、魔素とよばれる存在が原因と結論を立てている。
だが、魔国ではどういった形で作物を育てていましたか?
「魔素がない時代の話か?
それなら、土を掘り返して畝と呼ばれる……こういったものを魔力で作る。
そして、指で種を第一関節程度まで埋めるだけだが……」
芋の種……。そうですか。
では、ミラ。人の水田ってどう作っていますか?
「え、ええ、確か、溝を掘って水を張って、種を植える感じ、でしょうか?」
うん、まあミラは詳しくは知らないのね。
でも、多分稲作農業と一緒と考えれる。
なら、二人とも、肥料ってご存知でしょうか?
「「肥料?」」
うん、土地の栄養を回復させるため植物に巻くんだよ。
学校で習った曖昧な知識で申し訳ないけど、土には栄養ってのがあって、それを使って成長してるの。
だから、それを補うためのーーお薬かな?
「えっと?
成長するためのモノが足りないの?」
そうなるね。だから、それを促してあげる必要があるの。
えっと、確か……落ち葉とか生ごみとかを使って発酵させるやつだね。
めっちゃ臭いやつ。
「……ザイーム!」
「ここに」
魔王様の叫びと共に、私の後ろから声が聞こえた!
フードをかぶっていて、大きな鎌を持ってる。死神を彷彿とされる人だった。
「聞いていたのだろう?
そういったモノを見たことはあるか?」
「いえ、臭いモノは魔力で焼却処分しますので……。
しかし、臭いモノを食物に巻くなど、人の世迷い事では?」
「世迷い事?
そうであってもよいではないか。
今まで、してきたすべてで失敗し続けている。
また一つ失敗が増えてもよい。
そも、違う意見、判断は貴重だ。すべてが成功などありえぬ。
それで成功すれば、民が飢えずに済む。それで試すには充分だ」
「……御意。
手隙のモノに、そのハタケとヒリョウの原料を集めさせます」
でも、すぐには難しいかもしれません。
どうしても成長には時間がかかります。
「そうか、勇者は異界のモノだったな。
我の魔法は時間空間魔法と呼ばれていてな。
そうだな、例えばこの鉄の鎧などに魔力を込めれば、このようになる」
うわっ。鉄が青く錆びた。
年季が入った感じで、木材が腐り始めてる……。
え、でもこれで植物を成長させられれば……。
「試したさ。そして何個かは成功できた。
だが、魔素が濃くなればなるほど、繰り返せば繰り返すほど。
成功率は低くなっていた」
……だから魔素が原因と。
となれば、魔素も根本的にナニカが分かれば、解決するはず。
「だが、なぜ勇者はそこまでしてくれる。
魔王を謀ったと、報復を受ける可能性、考えなかったわけではあるまい?」
だって、みんなを餓えさせたくないんでしょ?
「しかり。
そのためなら、この老骨の命は惜しくはない」
それって人もそうなの。
人も少ない食料を分けて生きてるらしいから。
飢えて、苦しんで、いい考えなんて浮かばないじゃない?
「……そうか。
なら、成功すれば食料で賠償でもするか。
その際、この首が必要なら言うがいい、人の姫よ」
「お断りよ。そう思うなら、一刻もはやく食料を賠償してください」
そうだよ。そうして。
……どうして、あなたはその首を賭けたがるのよ。
「ははは……もはや、それぐらいしかできんのよ。
……民を飢えさせ、人の領域を侵犯した。
父上にも、我が子にも、顔向けできん」
「……それなら、私もお父様に顔向けできませんわ。
戦争を始めるべきだと進言したのは、私ですから……
魔族に奪われた食料地帯を取り戻そうって」
「くくく、それは間違いではない。
民のためにしたのだ。誇れ。
そして、我らが力を合わせよう。
……人も魔族も、飢えては思考が鈍るのだろう?」
「ええ、力を合わせて、乗り切りましょう。
お父様も、難色を示すことはないでしょう」
ほんと、この世界の王族たちは、覚悟が決まりすぎてます。
分かりました。
私も、微力を尽くしましょう。
……思い出すのは授業……理科とかそういうのだけど、理系の友達がいってなかったかな。
証明が大事って。
なら、まずは事実確認、か。
ねえ、ミラ。
魔素って人には害悪って研究されてるんだよね?
「うん。
魔素が体に作用して、腐っちゃうって言われてるけど……」
マナというものが濁り、魔素というものに変換されちゃうんだっけ。
じゃあ、マナってなに?
「え? えーっと、空気中に漂う、魔力の塊?
魔法とか使うときに、媒介にしてるから、深く考えたことなかったけど」
「……マナは植物が生み出してくれるものだ。
我が知る限りだと、植物に光を当てればマナはわずかながら生み出せる」
……光合成? 酸素と考えるには飛躍すぎかな?
ミラ、腐るって具体的にはどうなるの?
「文字通りかな。
最初は口から爛れて、少しずつ溶けるの。
こう、どろどろーって、そして骨になって、骨もなくなるの」
……具体的とは言っても、怖いね。
じゃあ、魔王様。
魔族の場合は、溶けたりはしないの?
「魔素で、か?
……そのような話は聞かぬな。
ただ、魔素が濃いと魔力の少ない物質は爛れるとは聞くが……」
「なに? 人は魔力が少ないから爛れるって?」
「……そうは言っておらん。
具体例で言えば、魔力のない銅などの装備がそうであろう?」
……なるほどね。
臭いモノとか燃やす以外に、魔力で何をしてます?
「魔力で行うことか?
数えきれんな。
燃やすも、水も、すべてを魔法で行っている」
「え、そんなに?」
じゃあ、ミラ。人はどうなの?
「うーん、一部の魔法使いが土壁とか?
基本的に戦いの技術かな。
飲み水に使えるけど、そういった繊細な魔法は人には使いにくいし」
使用頻度は魔族が圧倒的か。
魔王様、人から奪った土地は最初は魔素は濃かったですか?
「……いや、なかったな。
わずかながら、読めてきたぞ勇者よ。
魔素は、マナが魔力によって変化したと考えておるのか?」
おそらく。
少し、頭が痛くなりそうだし、話を整理しよう。
まとめると、
・ マナは植物が生み出す
・ 魔素が害悪物質で、うまくいかない原因とされる
・ 魔素は魔法を使う頻度の高い魔領で発生している
・ 魔素が濃いと人や魔力の少ない物質は腐る
・ 少なからず、腐る現象は魔素で起こっている
・ 魔族は生活で魔法を頻発して使っていて、人間は違う
・ 人間の所有領では、魔素は発生しづらい
これでミラは思うところとか、ないかな?
「……ないと思う。
魔王はどう?」
「ない。
なるほど、まとめてみれば見るほど、魔素の恐ろしさが浮き彫りになる」
証明完了……になるかな。
じゃあ、仮定が正しいなら、
魔素は、魔力とマナが結びついてなってないかな?
違いが分かれば、魔素を分解できませんか?
「……なるほどね。
じゃあさっと集めてくるよ。
風の魔法は得意だから」
大きい袋を二つ握りしめて、ミラは足早に国境を戻っていく。
風に乗って、飛んでいく姿はちょっとうらやましい……。
「……ご用意できました。魔王様」
「ごくろうザイーム。
では、時間を進める。
世界の理を望む魔力の階よ……」
魔力が目に見えて波打つ。
ぐらぐらと視界が揺れる。
意識を保つには厳しいとも思えるほどのズレ。
陽炎のように揺らめいて、集められた袋に入れた落ち葉はドロドロに溶けている。
「……魔素による変化は?」
「いえ、魔素は……発生しておりません」
魔王がザイームに訪ねて、あごに手を当てながら答えた。
なら、発酵は終わってるね。
これを薄く植物の根本に撒きます。
多すぎると、なんていうのかな。引っ張られちゃって腐っちゃうので、
表面ぐらいで十分です。
「……なぜ、そのようなことを?
魔王様の魔力でわざわざ??
植物を魔王様が成長させればよろしいのでは?」
「それで、失敗してきておる。
魔力の作用で魔素は生み出されると仮説が立てられた。
……細かくは、そこの地面に書いてまとめてある。閲覧しておけ」
目を一切植物から逸らさず、魔王は指を地面に差す。
さきほどまとめた箇条書き……。
少し、恥ずかしいんだけど。
「御意。
……魔素にこれほどの?」
「ああ、ゆえ使用魔力は最小に努めた。
ごく少量の魔力を漏らさぬよう細心の注意を払ったが、それがよかったやも知れぬ」
結びつくって考えれば、最良の考え方かもしれない。
余った魔力が、マナと結びついて魔素になってるかもしれないもの。
「魔王様、小娘……いえ、勇者殿の仮説に矛盾点は一つも、ありません。
あるのかもしれませんが、私ごときでは理解の欄外に思えます」
「然り、我もだ。
ゆえ、全力で我らはこの案を行おう。
失敗であっても、咎めることは決して許さぬ」
「御意。そも、これが間違っているとは思えませぬ故」
これから成長を見守り、実験を続けたい。
ミラが戻ったら、魔素がどうして生まれるのか、そこの究明を行うのがいいかと。
「ええ、お願いします勇者殿。
このザイーム、魔王様と共に、全力で行うこと、このカマに誓いましょう」
「もちろん、我はこの国のすべての民に誓おう。
力を貸してくれ勇者殿」
ええ、これで問題が解決したら、しっかり仲直りしてくださいね?
死んじゃったらダメですからね?
「もちろんだ、この身はすべて民のために尽くそう」
……ほんとに、わかってるのかな?
この魔王様は……。
誰も彼も、戦いなどしたくはない eternalsnow @523516
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