誰も彼も、戦いなどしたくはない
eternalsnow
第1話
「おお、勇者よ! よくぞ参られた」
壮言豊かというには、あまりにもみすぼらしい。
マンションの一室かと見紛うぐらいの、大きさの玉座で、髭もじゃな王様が語り掛けてきた。
だが、その目には強い失望が浮かんでいたのを覚えている。
「ワシら、アルバート王国を救ってはくれないか?」
突然の言葉で、理解の外だった。
今日は高校デビューでしっかり化粧をして挑んだのに、スタバで友達とだべる予定だったというのに。
突然の光に包まれ、私はこんな場所に呼び出された。
一番最初に浮かんだのは恐怖だった。
元の世界には戻れない。
そんな創作の話の恐怖と同時に、悲しそうに笑う彼氏の顔がよぎる。
シュウは寂しがり屋さんだから……。
「すまぬ、勇者として呼ばれたモノは、神々の加護を得るという。
その力に、もはや縋るしかないのだ。
……この通りだ。王国を、いや、世界を……救ってくれ」
玉座に座りながら、頭を下げた髭もじゃ。
周りのざわめきから、王様が頭を下げるというのはどういうことかを、嫌と思うほど思い知る。
これは遠回しの脅しなのだろう。
すぐには決断できないだろうと、城下町を散策することになった。
隣には、ティアラをつけた少女。
名前はミラというらしい。
「勇者様にとっては、理解のしがたい、恨みがましいことかもしれません。
あなたの平穏を我らが奪ったのですから」
言葉からにじみ出るのは、憂いであった。
怒りの感情は、徐々に失っていく。
旅人として話をして、心配と涙を流された。
身なりから、遠くからの人で、故郷を魔族に追われたのだと思われた。
「大丈夫。生きていればきっといつかなんとかなるよ」
そんな異世界のおばちゃんの言葉が頭に響いた。
「……魔族の宣戦布告から、3年。
もはや人類の生存圏は、元の7割を消失しています。
故郷を追われ、スラムも生まれ、もはや人は少ない食料を分け合って生きています」
口から血の味がした気分だった。
そんなの、私には関係ない。
そう叫び散らせるほど、私は子供じゃなかった。
「すまぬ。勇者よ。よくぞ、よくぞ決断してくれた」
次の日、私は言葉を出した。
仕方がないというより、申し訳なかった。
こんなの時、彼氏ならどうしただろう。
喚き散らした? 寄り添った? 私を守ろうとしただろうか?
多分、私を守ろうと一人で抱え込んじゃう気がする。
……シュウは優しい人で、ぐいぐい行っちゃう人だもの。
でも、これが間違っているとは私には思えなかった。
話をしよう。
まずはそれからだよね。
「もう一度名乗りましょう。勇者様、
私はミラ。ミラ・アルバート。
賢者として、あなたを守り、あなたを導き、
あなたと共に、戦います」
ティアラをかぶっていて、なんとなくそうだろうとは思っていた。
この国のお姫様だったらしい。
「お姫様……と呼ばれてもうれしくはありません。
昨日のように、気軽にミラと呼んでください」
なら、あなたも私のことは、あだ名のアイって呼んでください。
……お姫様に敬語を使わせるとか、無理だから。
妥協で、私も敬語をはずすことになった。
数日、出陣の儀という名前の、パレードを終えた後、
私は勇者として、魔王討伐に出発した。
魔王国への国境に近づくにつれ、
骨のようにやつれている人が増えていく。
「……ここまで、深刻になっていたとは」
ミラの呟くような言葉に、私たちの認識が甘いことを強く意識した。
乞食する気力もなく、動かない。
もはや、死んでいるも同然な状態だった。
「ありがとう、勇者様」
この国では珍しい黒い長い髪が特徴的な少女が、笑顔で応えた。
つられて笑顔で、頭を撫でた。
腰より少し高いぐらいの、小さな少女だった。
……こんな小さな子が飢えるぐらいには、食料はないんだ。
国境を抜けた。
明確にぐっと空気が重くなった。
ミラが言うに、
魔族の国には、マナというものが濁り、魔素というものに変換されるのだという。
曰く、ある程度の力がない存在は、腐るとか。
「え、なに。アイ?? なんで怒ってるの?」
そりゃ怒るでしょ。
そんな大事なことは最初から言って!
勇者だから大丈夫ってあなたたちが勝手に思っていても、言うのと言わないじゃ違うじゃない。
もし、腐り堕ちたら化けて出るだけじゃ済まさないからね!!
正直、魔族の領地に入って、戦闘があるのかとビクビクしていました。
でも、こっちでも国境付近には、青白い……は、魔族の種族の特性らしいけど、骨のような飢えたしゃべることの気力のない乞食のような人たちがうなだれている。
……人間圏内の7割喪失な状態なら、実質勝ち国のはずなのに。
狂気でも、謳歌でもない。
人も魔族も、どこも飢えて、苦しんでいる。
「ひ、人!? 襲いに来たの!?」
そんな言葉をかけられ、つい違うと言葉をかけて、食料を分けてしまった。
ミラも肩をすくませながら、水の魔法で魔族の女の子に水をあげている。
何があったのか、どうしたのかを聞けば、言葉は共通に返ってくる。
「……魔王様が言っていたのは、豊かな土地を求めて戦っても、変わらなかったみたい。
どこも土地の魔力が乏しくて、作物が、育たないって」
……魔力は分からない、でも魔族の領域でも人の領域でも、食料がない。
そういえば、ここまでで、畑というのを見たことがなかった。
「ハタケ? ハタケ男爵なんてよく知ってるねアイ」
違うよ。そんな人知らないし、畑。作物を作るための土壌を作ることを言うの。
「あー水田のこと?
魔法の綺麗な水に漬けたら、稲はできるけど……?」
うん、まあ分かった。後で詳しく話そうか。
今は、ちょっと魔王様と話がしてみたくなったから。
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