第3話  富士の麓の真実

2週間後。

富士山の麓、グリーン・ハーモニー本部。

かつては小さなコミュニティだった場所が、今では広大な敷地を持つ環境教育センターに成長していた。

全国三百カ所のネットワークの中心地。

野口晴夫が二十年かけて育てた、自然と一体となり自給自足を目指した和の心の拠点。

日が暮れた頃、敷地の奥の森に、四人の人影が現れた。

野口健太。

そして、彼を出迎えたのは——

アメリカ人宇宙飛行士、ジェームズ・ロビンソン機長(45歳)。

イギリス人宇宙飛行士、トーマス・ケリー(38歳)。

ロシア人宇宙工学技師、ナターシャ・トーマス(34歳)。

ISSでともに働く仲間たちだ。

「どうしたんだみんな、来てくれたのか?」

健太は驚いた。

「当然だろう」

ロビンソンが笑った。

「君が『宇宙で不思議なものを見た』と言った時、俺たちも見たんだ。あの半透明の船を」

「管制室には報告しなかった」

ケリーが付け加えた。

「なぜか、秘密にしておくべきだと感じたんだ」

「私も」

トーマスが頷いた。

「あれは、公表すべきではない。直感的にそう思った」

その時、森の奥から微かな光が漏れた。

四人は顔を見合わせ、声もなく歩き出した。


開けた場所に出ると、四人は息を呑んだ。

月光に照らされた草原。

そこに、二機のUFOが静かに着陸していた。

一機は銀色に輝くアダムスキー型の機体。もう一機は半透明で、淡い緑色の光を放っている。

「あれが……UFO」

健太の声が震えた。

静寂の中、銀色のUFOの扉が音もなく開いた。

まず現れたのは、ブロンドの髪と水色の瞳を持つ女性。彼女の背後には、背の高い男性が立っていた。二人とも白い光沢のあるスーツを着ている。

女性が一歩前に出て、優雅な動作で頭を下げた。


「お待たせしました。私はアリエル。プレアデス星団キッチュ星からの監視官です」

その声は、直接頭の中に響いた。テレパシーだ。

「そして、こちらは操縦士のヨハンソン」

背の高い男性——ヨハンソンが会釈した。銀色の髪、青い瞳。まるで北欧の神話から抜け出したような姿だ。

「初めまして、地球の宇宙飛行士の皆さん。私たちは長い間、あなた方の星を見守ってきました」

その言葉が終わる前に、半透明のUFOの扉が開いた。

中から出てきたのは——人間の姿をした二人。

いや、違う。

四人の目の前で、二人は何かを脱ぎ始めた。

人間の皮膚のように見えたものが、コスチュームのように剥がれ落ちていく。

「失礼します。この姿の方が楽なもので」

そう言いながら、コスチュームを完全に脱ぎ捨てた二人の姿に、四人は言葉を失った。

半透明の淡い緑色の肌。

全身に走る、葉脈のような血管。

大きく膨らんだ頭部。

植物のような、それでいて確かに知性を感じさせる存在。

「私はパッパ。そしてこちらは妻のマッマです」

男性——パッパが穏やかな笑顔を見せた。

「モッパ星から参りました。植物から進化した種族です」

「そして、私たちの息子、モッパと弟のピッパも」

二人の子どもたちも、UFOから降りてきた。

「野口健太さん」

モッパが前に出た。

「あなたの祖父、野口晴夫さんは、私の大切な友人でした」

健太の目に涙が浮かんだ。

「祖父が……本当に、あなたたちと……」

「ええ」

モッパは優しく頷いた。

「二十年前、私たちは出会いました。そして、宇宙へ旅をしました」

ロビンソン、ケリー、トーマスの三人は、まだ現実を受け入れきれない様子だった。

でも、不思議と恐怖はなかった。

むしろ、懐かしさすら感じた。

アリエルが四人に歩み寄った。

「驚かせてしまい、申し訳ありません」

彼女は優雅に手を差し出した。

「でも、あなた方は選ばれた方々です。緑の心を持つ、特別な地球人」

ヨハンソンも静かに頭を下げた。

「私たちは敵ではありません。むしろ、古くからの友人です」

パッパとマッマも、それぞれ四人に近づいた。

「初めまして」

パッパがロビンソンに手を差し出した。

地球人と宇宙人の手が、握手のために触れ合った。

温かい。

生命の温もりがある。

「これは……夢じゃないんだな」

ロビンソンが呟いた。

「夢ではありません」

マッマが微笑んだ。

「そして、お茶を淹れる準備もしてあります。地球のお茶は、私たちも大好きなんです」

「さあ、座りましょう」

アリエルが草原の中央を指差した。

そこには、いつの間にか円形に並べられた椅子と、中央の焚き火。

「長い話になります」

モッパが言った。

「地球の危機について。そして、あなた方の使命について」

四人の宇宙飛行士は、ゆっくりと歩き出した。

人類史上、最も重要な出会いの夜が、今、始まろうとしていた。


焚き火を囲んで、六人の宇宙人と四人の地球人が座った。

月が昇り、富士山のシルエットが浮かび上がる。

「ようこそ」

アリエルが口を開いた。

「ようこそ、真実の世界へ」

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2025年12月25日 09:00
2025年12月26日 09:00
2025年12月27日 09:00

普通の宇宙人シリーズ 2025年編 @tomoegawa198906

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