第2話  軌道上の出会い

地球時間で一週間後。

僕たち家族は、国際宇宙ステーション(ISS)の近くにいた。

マザーシップの窓から見える地球は、二十年前と変わらず美しい。

そして、その周回軌道上を回るISS。

「あれが、地球人の宇宙基地か」

父が感心したように言った。

「小さいけれど、よく作ったものだ」

その時、通信が入った。

『モッパ星船舶へ。こちらプレアデス星団キッチュ星監視艇シリウス3』

画面に映ったのは、ブロンド色の髪、水色の瞳を持つ宇宙人。

『お久しぶりです。私はアリエル。キッチュ星の地球監視官です』

「地球に、何が起きているんですか?」

父が訊いた。

『我々が危惧していた事態です。ブレンダン星のレプティリアンが、地球への侵入を本格化しています』

僕の背筋が凍った。

レプティリアン——爬虫類型進化を遂げた冷酷な種族。感情が希薄で、支配欲が強い。

『確認できているだけで、主要国の政権中枢に47名。実数はその倍以上でしょう』

「野口さんは……」

『おそらく、気づいていた。グリーン・ハーモニーの活動が全国に広がり、日本人の和の心を目覚めさせていた。レプティリアンにとって、最も危険な存在でした』

「殺されたんですか」

『断定はできません。しかし……』

アリエルは言葉を濁した。

『野口晴夫の孫、野口健太が今、ISSにいます。彼に会うべきです。緑の心を持つ者同士、通じ合えるはずです』

「どうやって?」

『我々が協力します。船外活動中に、接触を』


翌日。

ISS日本実験棟「きぼう」から、一人の宇宙飛行士が船外活動に出た。

野口健太——32歳。祖父に似た誠実な目をしている。

彼は太陽電池パネルのメンテナンス作業をしていた。

『健太、そろそろ戻ってこい』

管制室からの声。

『了解。あと五分で……』

その時、彼の目の前に、半透明の小型船が現れた。

『……なんだ、これは』

健太は息を呑んだ。

船の窓から、三つの異なる存在が手を振っている。

緑色の半透明な肌を持つ家族——モッパ星人。

そして、ブロンド髪の美しい女性——キッチュ星人。

テレパシーが流れ込んできた。

《健太さん。驚かせてごめんなさい。私はモッパ。あなたの祖父、野口晴夫さんの友人です》

健太は一瞬、混乱した。

でも、不思議と恐怖はなかった。

むしろ、懐かしさすら感じた。

《祖父が……言っていた。緑色の宇宙人と、友達になったって》

《信じていたんですね》

《ええ。祖父は嘘をつかない人でした》

《あなたに、伝えたいことがあります。でも、今は時間がない》

《富士山の麓、グリーン・ハーモニー本部で、2週間後に会えませんか》

健太は頷いた。

《わかりました。ちょうど1週間後に私を含め乗員4名が入れ替えになる予定です。必ず行きます》

小型船は音もなく消えた。

『健太、何をぼーっとしている?』

管制室の声。

『……あ、すみません。地球が、あまりに美しくて』

健太は嘘をついた。

でも、彼の心は高鳴っていた。

祖父が見た世界。

それが、今、自分の前に現れた。


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