カウント
茶村 鈴香
カウント
今日 何回
あなたを想ったか
今日 何回
心の中であなたを呼んだか
どうしてる?
元気でいる?
伝える手段はない
あなたのところからは
本当に地球が碧く見えるの?
夜空なんて見ない
帰ってきて
抱きしめてくれるまで
夜空なんて見ない
“船”を探したって無駄だもの
天体というものを
全部嫌いになる
太陽が輝かねば
月が満ち欠けせねば
やっていけない事が悔しい
おかげで雨の日以外
外には出たくない
あなたの夢が
叶った瞬間から
私の絶望は
静かに始まった
インタビューに答えて
笑顔で手を振って
地表を離れる“船”に乗る
あなたのいないこの惑星に
意味なんてない
こんなにも
待つ一年は長すぎるとは
予想出来なかった
いつだって
不具合や事故の報せを
覚悟しながら
平気を装えたのは三ヶ月まで
半年経って
心が壊れそうになる
声が聞きたい
あなたの手のひらを
触って確かめたい
いつも使ってたシャンプーの
香りに包まれたい
私はもうカレンダーを見ない
明るくなったら起きて
パソコンで入力のバイトして
猫をかまって
教材ビデオ見ながらヨガ
カタログ見て宅配の食料
雨の日には傘を差して散歩する
あなたの妻だから
こんなにゆったり生活出来る
待っている代償
それだけが私の価値
一緒に行きたかったと
いくら泣いたって
連れてはいけない能力の差
あと何ヶ月
あと何日
繰り返して
無心で繰り返してたら
チャイムが一回
ドアが開いて
少しだけふらふらしながら
あなたが帰ってくる
機嫌良く迎えてあげたい
でも言ってしまいそう
「ずっと待ってたんだから」
シャンプーの代わりに
あなたからは
宇宙の匂いがするだろうか
ウラシマ何とやらで
あなたに比べて
私は少し老けてるだろうか
帰ったらやっぱり和食かな
いつも言い争った出汁巻は
その日は甘くしてあげる
数えてないから
わからなくなった
あと何ヶ月
あと何日
このままじゃせっかくの
おかえりが言えない
出汁巻が作れない
明日はお日様に当たって
明日は夕焼けと月を見て
「無事に帰してください」と
お願いすることにしよう
何回も
何回でも
甘い出汁巻はすぐ焦げる
火加減のコツ思い出して
失敗しないよう
おさらいしよう
何回も
何回でも
カウント 茶村 鈴香 @perumi
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