第6話 別れと出会い

「どこへ行くんだい、お嬢さん?」


 なんてね!

 ちょっときもいかもしれないけど、これは決まったね。 


「師匠!!」


 ミリアの顔は涙でぐちゃぐちゃで、相当怖かったんだろう。

 まあ、自分でおつかいに行きたいって言い出したんだし、自業自得だよね。


「なんですか、君は」


 後はこの、いかにも悪そうな奴らをかっこよく倒して退散するだけだ。


「お前が誰だよっ」


 今まで毎日練習してきた風魔法を、気づかれないよう細く伸ばしてそいつらに近く付け、一気に魔力を込めて爆発させた。


「なに!?」


 そのままきれいにミリア以外の奴らを飛ばした。


「よっと」

「大丈夫?」


 別に自分で歩けるであろうミリアをお姫様様抱っこしつつ、安否を確認しておいた。

 

「う、うん……」


 やっぱりこういう連れ去りはお姫様抱っこに限るね。

 ミリアもめっちゃ顔赤くしてるし、効果は抜群のようだ。

 まあでも正直に言うと……。

 めちゃくちゃ重い!!

 いや、仕方ないだろう。

 だってミリアは2歳年上だし、体も僕より大きいし、身長が伸びなくなるって聞くから筋トレもしてないし。

 腕、腕捥げるよぅ。


「ね、ねえ、なんか顔色悪いけど大丈夫?」


「う、うん、全然、全然余裕。1ミリも重くないし、マジで発泡スチロール持ってるみたいだわ」


「……別に重さのこと聞いてないんだけど」


 ミリアの顔はどんどん曇ってゆき……。


「ぐはっ!」


 最終的にはパンチで怒りが表現された。


 ぐ、グーで行くか?

 ふ、普通ビンタじゃない…?


 全く、ワイルドに育っちまったね。

 僕は殴られた頬を片手で抑えつつ、ミリアと歩いて目的地へ向かう。

 そう、別に適当に逃げていたわけではないのだ。

 こういう時のために見つけておいた大人気自殺スポット。

 崖だ!


「な、なにここ…」


「ここで奴らを落とすんだ」

「作戦もだいぶ前から立ててある」


「よ、用意周到だね……」


 ミリアは明らかに少し引いているようだが問題は無い。

 僕が今まで何度このような状況妄想してきたか。


「ここら辺だ!」


 お、早速お出ましか。


 僕はミリヤの口を押さえつつ、茂みに隠れた。


「ふん、少しみくびりすぎましたか」


「ここにいるのはわかっていますよ」


「君たち、もしかしたら崖の下かも知れません」

「覗いておきなさい」


 男は下っ端のような奴らにそう指示すると、腰を下ろした。


 ふふふ、引っかかったな。

 全員、皆殺しじゃー!


「ウィンドゲイル!」


 これは強風をかける範囲攻撃の魔術だ。

 

「ぐ、うわぁ!」


 するとまんまと男たちが風に乗せられ、落ちていった。

 何人か残ってるけど、まあそいつらは別の方法で倒せば良いか。


「師匠!!」


 そんなミリアの叫びを聞き、振り返ると。


「っ!?」


「全く、ここらの人たちはアホしかいないのですか」


 僕の首にはナイフが突きつけられていた。

 

 まさか、こいつ仲間をおとりにして……。


「や、やめてぇ!!」


 ミリアが僕に代わってそんなことを叫ぶが、意味は無い。


 や、やばい、しくじった。少し甘く見すぎて過ぎてた。

 そうだ、そうだった。

 ここはゲームの世界でもアニメの世界でもない。

 現実だ。


「ほらこちらへついてきなさい」


 そのまま僕は崖の方へ案内された。


「このナイフ、高いのですよ」


 男は特にためらうことなく、無表情で、崖から僕を落とした。

 その時、その瞬間は、スローモーションのように僕の目に映った。


 か、風魔法で上に。


 だめだ。

 ……発動しない。

 結局、いざと言う時は使えないのかよ…。

 まさか、こんなところで……。


「師匠っ!!」


 その時、急に体が前に押し出され、いつの間にか陸地へ戻っていた。


「へ?」


 すぐに振り返ると、優しく微笑んだミリアがいた。

 そんなミリアの手を取ろうと手を伸ばす。

 だが、ミリアはすぐに視界から消えた

 落ちたのだ。

 ……僕を、庇って。


「ほんと、優秀な弟子を持つと困るね……」

 

*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆* 


 その少年は笑っていた。

 悠遠隅独は笑っていた。


「あいつぅ!」

「売り物が死ぬよった!」


 男は唇を噛み、悔しそうな表情をした。

 

「ふざけよって」

「もういい、ついでだ」

「こいつを捕まえておけ!」


 男は少年を指差すと不機嫌そうに歩き出した。


「待てよ」


「あ?」


「うわっ!!」

 

 男が振り返ると少年が顔を極限まで近づけていた。

 そしてそのまま、魔獣のように男の首を噛みちぎった。


「うわぁぁああ!!」

「化け物ぉ!!」


 男は叫ぶだけ叫ぶと、そのまま永遠の眠りについた。


「まずい血だ」


「あ、あいつ、人間を噛みちぎりやがった……」


 少年はすぐに下っぱな奴らのほうに、鋭い眼球を向けた。


「魔術で殺しちゃあ! つまらねえよなぁ!!」


 それはまさに悪魔で、その少年の、5歳の少年の言葉に、何人もの大人が身をすくませた。


「一旦、一旦退散だぁ!」


「1番美味かったやつはぁ!! 僕権限で天国へのチケットプレゼントだぁ!!」

「んひひひひ」


 少年は綺麗に高笑いし、魔獣のような走り方で逃げる男たちを追いかけ、噛みちぎっていった。


 ーー少年は何人ものしかばねの上に立っていた。


 周りはもう暗く、体は返り血と自分の血まみれで、その顔は狂気に染まっていた。


「ミリア……」


 ミリア、その言葉を少年は小さくつぶやくと、ゆっくり足を引きずりながら歩いていった。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 ーー3年後。


「はっ! はっ!」


 その素振りをする少年は、8才にしては筋肉質で風格があった。

 少年は座ってひと息ついたかと思うと、目を瞑り集中しだす。

 すると少年の近くの草がざわつき初め、ゆっくり少年は宙に浮いた。

 そのまま浮いた少年の周りをぐるぐるとたくさんの風が渦巻き始めた。


「よし、成功」

「にしても最近筋肉ついてきたな」


 自分の腕を触ってそんなことをつぶやく。


「それじゃ、これで最後のトレーニングも終わりだな」


 そう言って家に入ると体を洗い着替えた。

 そのまま鞘を持ち、リュックを背負って玄関へ向かう。


「……本当に行くのね」


 その女性は寂しそうな目で少年を見てそう言った。


「いつでも帰ってきなさい」


「行ってきます」


 少年は噛み締めるようにゆっくりそう言った。


「行ってらっしゃい」


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 いやぁ、ついに僕の冒険が始まってしまったね。

 この日のため、どれだけ努力してきたことか……。

 さすがにそこら辺の魔獣に負けるとかはないはずだ。

 母さんに勉強を手伝ってもらったりして、この世界のことも知ることができんたんだ。

 今いる場所はミムルシア王国の田舎だ。

 だから僕はとりあえず王都を目指す。

 本当は徒歩で行きたいとこだけど、さすがに遠すぎるから馬車をとっている。

 まあそれでも2週間位はかかる。


「おっと、ここから先は魔物が出るんだったな」

「警戒して進まなきゃ」


 僕は8年住んだ町を出て、森へ入り、できるだけ足音を立てないように進んだ。

 整備はされていないが、一応通るルートはわかるぐらいの道だ。

 僕は、天才的な反射神経とか、気配を感じたりなんてできないので、移動中はバリアを張ることにした。

 バリアといっても風魔法を自分の周りで回して、通れないようにするってやつだ。

 なんだ風かと、舐めてはいけない。

 なんにせこのバリアはーー


「おっと」


 その時、犬型の魔物が突っ込んできた。

 が、僕に当たる直前で細切れになった。


 そう、このバリアはめちゃ強い。

 守るだけでなく、攻撃にもなるのだ。

 僕はそのまま森を通り抜け、馬車に乗ることに成功した。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


「よっと」


 僕は慎重に馬車から降りた。

 馬車の乗り心地は、車という最高の乗り物に慣れている、僕から言わせてもらうと最悪だった。

 そしてなによりめっちゃ酔った。

 3日間くらい乗っていたけど、酔いには慣れなかった。


「この生活を後1週間以上続けるのか」


 せめて話し相手が欲しいところだ。

 まあいくら求めたところで、話し相手はできない。

 行動あるのみだ。


「て言っても話しかけるのは難易度高いな」

 

 そこで、僕はここら辺で1番危険だと言われている森へ向かうことした。


 なぜ森へ来たかって?

 もちろん、森が出会いの場だからだ。

 襲われているヒロインを主人公が助けてそこから関係が作られていく。

 普通のことだ。

 と、そんなことを考えているうちに魔物が集まってきちゃったね。

 オークが僕を囲むように1、2、3、4、5体いるな。


「ウィンドヘミスフィア」


 僕を中心として、小さな風で作られた半球がだんだん大きくなって広がっていき、そのまま周りのオークとついでに木を切り刻んた。


「やっぱこれ強いな」


 その時、後ろからどすどすと音が聞こえてきた。

 魔物の出現率えぐいなここ。

 それに木とかツタだらけでめっちゃ戦いにくいし。

 

 そんなことを考えながらも、振り返って見てみると、そこにはいわゆるワイバーンがいた……。


「え?」


 ワイバーンなんてのがこんなとこにいるんだ。

 その個体は緑色で、おそらく植物に属する感じだろう。

 ていうか飛んで登場しろよ。

 

 どうしたものか。

 まあでも、上級魔術とかを駆使すれば、問題なく倒せるだろう。

 それではとりあえずお手並み拝見といこうか。


「グワァァア!」


 そのワイバーンは大きく咆哮すると、口から何かを放つことなく、こちらへ勢いよく向かってきた。

 いや、さっきからいろいろと思ったんと違う。


 そしてそのまま僕へ腕を振り下ろした。

 これくらいなら普通に剣で受けれそうだな。

 と、思ったら急にワイバーンが横へ吹っ飛んでいった。


「え?」


 すると、横から全身武装された兵士の、部隊を連れた少女が現れた。


「危なかったわね、怪我はないかしら?」


 その少女は金髪で、特徴的な髪型をしていた。


「って、よく見たら子供じゃない!」

「なんであなたのような少年がこんなところに?」


 お前もガキだろ。

 12歳位かな、登場ヒロインがガキしかいないな。

 ていうかこいつ、僕の獲物の奪ってきてんじゃねーよ。


「あ、ありがとうごさいます」


 そんなことを思いつつも、一応助けられたので感謝を伝えておく。


「それじゃ、僕はこれで」


 僕はそう言って去ろうとすると、なぜか少女は戸惑い始め、僕を引き留めた。


「え? ま、待ちなさい!」

「あなたは今、この私に命を救われたのよ?」


「はい、だからありがとうと」


 すると、少女は信じられないと言うような顔をして僕を睨んだ。

 周りの兵士も顔を見合わせていた。

 そんなに感謝されたいのか、こいつ?

 どっかの偉い貴族なのだろうか。


「私よ? あの、私よ?」


 いやどの私だよ。

 まじなんなんだこのガキ。


「すいませんが、存じ上げてございません」


 少女は固まった。

 そのまま下を向き、体を震わせ始めた。

 なんかまずいこと言ったかな。

 すると突然顔を上げ、ぐいと僕に近づき言った。


「私は、ミムルシア王国第一王女」

「ミルル・ミムルシアよ!」


 へ?

 まままま、まさか。

 こ、これ、王女様じゃね!?


「ま、まじすか……」


「まさかあなた、本気で知らなかったの?」


 僕がゆっくり頷くと、王女様はため息をついた。


「私を知らない人がいたなんて……」


「そ、それで、僕はどうなるんですか」

「もしかして、公開処刑…?」


「流石にそんなことはしないわよ」

「それにしてもあなたはなんでこんなところに?」


「人より少し早いかもしれないですが、独り立ちです」


「独り立ちにはまだ早いんじゃないかしら?」

「実際死にかけていたわけだし」


 その王女さんは偉そうに僕に言う。 

 勝手に死にかけてたことにしないでほしい。


「そうですね」

「でも、もう来てしまったものは仕方がないので、頑張ってみようと思います」


「うーん、カルト、城の部屋は確か有り余ってるのよね?」


 王女様が後ろのカルトという兵にそう言うと、カルトは顔色を変える。


「まさか…!」

「いけません、初めて会ったものを城に向かい入れるなど!」


 カルトは前へ出て、王女と口論を始めた。


「私も適当に選んでいるわけじゃないわ」

「この歳でこの体、それにこんな危険な森で一切動揺せず、1人でいるのよ?」


「ですが…!」


 カルトは王女様のそんな言葉を聞いても、納得はできないようだった。

 にしても、この王女様なかなか良い目を持っているね。

 ていうかこのカルトとか言うやつ王女様に反発してるけど大丈夫?

 こういう時代の王女様って大体、ちょっと反発したらすぐ処刑、みたいな感じじゃないの?


「別に僕は1人でも生きていけるよ」


「彼もそう言っていることですし、ここは……」


  王女様はバッと振り返ると、カルトに強い瞳を向け言った。


「いいえ、絶対これは我が城へ持って帰るわ!」


 へぇ、僕を物扱いね。


「なんか知らんすけど、さっさとしてくださいよ」


「なんかあんただんだん、失礼になってきてないかしら?」


 話はこのまま停滞するかと思われたが、カルトはこんな状況に慣れているのか、落ち着いてさらなる解決案を提示し始めた。


「わかりました、城へ連れて行かれるのは承諾しましょう」

「ですが、その少年のお世話は自分でやってください」


 ああ、つまりこういうことだ。

 子猫を拾ってお母さんに言ったら、自分で世話できるならいいわよ、と言われた感じだ。


 王女様とカルトは互いに睨み合う。

 

「はぁー、わかったわよ」

「世話くらいするわ」


 先に視線を逸らしたのは王女様だった。


「ほら、来なさい」

「今日からあなたは我が王国の騎士見習いよ」


 それにしても、こいつら当たり前のように僕を抜いて話を進めるな。


「よろしくお願いします」


 まあでも、面白そうだしいいか。

 それにこれで衣食住に困らないでよさそうだ。

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この転生に意味はない 飯間紳助 @Kesunsi_Maii

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