第3話 師匠は3歳

 僕は完璧な笑顔を作り、一言言った。


「友達になりません?」


「へ?」


 我ながら癖の強い対処法だとは思うけど、やっぱり他の感情を引き出すのが手取り早いと思ったんだ。


「神に願う、かの生命に天使なる癒しを与えたまえ」


 緑色の光が少女を包み、だんだんと少女の体についた傷が癒えていく。


 ちなみに、治癒魔術はまた少し原理が違うので、効力の指定とかはない。


「治癒魔術はまだ、あまり慣れてないんだけど」

「どうです?」


 出来るだけ優しく、出来るだけ笑顔の爽やかな声で少女に話しかける。


 ていうかこのへたくそな敬語、逆効果な気がしてきた。

 やめよ。


「…んっ」


「うわーん!」 

 

 少女はなぜか急に膝をついてわんわん泣き始めた。


「え? こ、怖くないよ〜」


 そして少女は絞り出すような、それでも大きな声で言った。


「ありがぁとぉ……」


 ありがとう? ドユコト。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 その後、泣いている少女をとりあえず家にあげ、身の上話を聞いた。


 少女の名前はミリア・アルラスト。

 どうやら少女は、いわゆるホームレスらしい。さらに親もいなくて、なんで今生きてるのかが不思議なくらいだ。

 もし病気とかにかかれば、すぐに死んでしまっていただろうし。

 それにしても、ここら辺がスラムなのはわかってたけど、実際に話を聞いてみるとひどい話だ。

 何よりこの子はまだ5歳だしね。

 

「あ、あの、さっきから、その、なんで変顔してるの…?」


 へ、変顔?

 これ変顔じゃなくて笑顔なんだけど……。


「ぐすんっ」

「ひどいわ、笑顔を変顔だなんて……」

 

 僕は乙女っぽくそんなことを言うと、ミリアは戸惑い始めてしまった。

 さすがにこのノリはレベルが高すぎたか。

 こういう意味不明なノリを友達にやって、何人失ってきたか……。


「ま、まあいいや、とりあえず、お風呂入ったら?」


「い、いいの!」


 ミリアはぐいと顔をこちらに近づけてきた。


「あ、うん」


 ミリアはすごく嬉しそうで、小刻みに体を横に揺らしていた。

 そんなお風呂入りたかったんだ。

 まあ乙女心ってやつか。

 汚いのが嫌なのだろう。


「じゃあ行こ!」


 あれ、なんか一緒に入る流れになってない?

 相手は5歳児とは言っても、今の僕にとっては2歳しか差はない。

 風魔法の練習の時、土をかぶったから僕も洗い流したいんだけど、一緒に入るのはよくないよね。


「じゃあ先入っていいよ」


「一緒に入らないの?」


「それが普通だよ」


 これも教育の一環だ。


 ミリアは少し不満げな顔をしながらも風呂場へ向かった。


「どうしたものか…」


 これは一体どうしたらいいのだろう。

 母さんに言って家に住ましてもらおうかな? 

 いや無理だな。

 ホームレスと友達になったから一緒に住みたいなんて言えば、頭がおかしくなったと思われそうだ。

 だからと言ってせっかくできた友達を見捨てるのは良くないし。何より、ここでヒロインキャラを逃すのはさすがに惜しい。

 となると……思いつかん!!

 もういいや、めんどくさいし。なるようになるだろう。


「で、出たよ〜」


 か弱い声が聞こえたので向かって木のドア越しに話しかける。


「とりあえず今はそこにある僕の服を着といてね」

「僕、少し大きいサイズの服を着るから、多分着れなくはないよ」

「後で買い出しに行こ」


「なんで、どうして私にそこまでしてくれるの?」


「友達だからかな」


 よし、これは惚れられたな。

 ミリアの中で僕は友達だからというだけで助けてくれる優しい人、というイメージだろう。

 まあ実際そうなんだけどもね。


「あ、着替えた?」


「うん、サイズが少し小さいけど着れた」


「それじゃ、これからどうする?」


 そう、結局はやっぱりこれからどうするか考えなきゃならない。

 どうすればいいのだろう、こんなか弱い女の子をこんなスラムみたいな場所に放っておくのは心が痛い。


 僕が考えていると、それを見かねたのかミリアが言った。


「もう、大丈夫だよ」

「これ以上迷惑はかけられない」


「別に迷惑はかかってないからいいよ」


「でも……」


 なんか納得してない様子だな。

 まあそれはそうだろう。

 助けられれば助けられるほど、その人に何か返したいと思ってしまう。

 何か返せないのならばせめて迷惑をかけたくないと思う。

 そして僕は思うのだ、誰かに迷惑をかけたくないと言う気持ちは、なんとなく良いように思えてしまうだろうが、確実なる不快感であると。


「それならさ弟子にならない?」

「僕ね、結構教えるのうまいんだよね」


「弟子?」


「僕もそんな詳しく知ってる訳じゃないんだけど、でもここで生き抜くのなら覚えておいて損はないと思うんだ」

「何も知らない状態で本だけ見て魔術をするのは、めっちゃ危険らしいけど僕とやれば安全に覚えられるのだよ」


 まあこれはうわべだけの話で、本当はとにかく自慢できる人が欲しいだけなんだけど。

 だってすごい魔術とか使っても、自慢できないと悲しいじゃん!


「そ、そんな、いいの?」


 少し困ったような顔をしながらも、表情から、興味があることが伝わってくる。


 まだ少し弟子とかは早いような気もするけど、まあ楽しそうだしいいよね。


「僕ね、人に教えることで覚えていくタイプなんだよね」

「知識が深まるからさ」

「それに2人でやったほうが楽しいし」

 

 ミリアは少し考えて。


「わ、わかった。お願いします、師匠」


 お、結構ノリがいいね。

 そういうの嫌いじゃないよ。

 

*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 僕たちは庭に移動し、魔術を教える準備を整えた。


「どんな魔術を使ってみたい?」


「ええっと……」


「例えば水魔術とかがあるよ」

「魔術で出した水はとっても綺麗だからいいんじゃない?」


「そ、そうなの?」


「うん」

「じゃあまずは水魔術を教えてあげるよ」


「僕が手本見せるから見といて」


「ウォーターボール」


 持ってきておいたガラスのコップの中に、手のひらから出した水を入れる。


「どう?」


「す、すごい!」


 ミリアは目を輝かせ、珍しく食い気味だった。


「わ、私もやる」

「ウォーターボール」


 すると、ミリアの手から球体状の水が、ぐるぐると渦巻きながら形成され、落ちた。


「おおー、出来るじゃん。さすがーー」


「バタンっ!」


 僕が頭を撫で撫ですると、ミリアは前に思いっきり倒れた。

 

「え?」


 気絶するほど嫌だったのか……。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 僕に撫で撫でされたのが、嫌すぎて倒れたのかと思っていたら、どうやら魔力切れだったようだ。


 あれだけで!?


「ごめんなさい。私才能ないのかも……」


 ミリアは声を絞り出して僕に謝っているが、一番辛いのは僕じゃなく自分だろう。


「ね、ねえ、知ってた? 魔力っていうのは使えば使うほど増えるんだよ!」


 確証は無い。

 僕が初めて使った時、魔力切れに陥らなかったことを考えると、生まれた瞬間に魔力総量は決まっている。

 という説の方が確実に可能性は高い。


「ほんと…?」


「う、うん」


 これでもしミリアの魔力が増えなかったら、夜逃げするしかないな。

 気まずいのは何よりも嫌いなんだ。


「安心してよ」

「絶対にミリアは魔術を使えるよ、絶対だ」


 僕がそう言うとミリアは完全に安心しきった顔になる。

 確証もないのに絶対なんて言うことを言ってしまった。

 以前の僕ならこんな事は絶対に言わなかっただろう。

 僕も異世界に来てからかなり変わったな。











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