第2話 先輩は5歳児

「グッドモーニング」


 僕は起きてすぐに思いっきり上半身を上げ、自分に挨拶する。


 やっぱり異世界の朝はいいね。機械だらけの日本と違って植物がたくさんあって、空気もおいしい。

 まぁちょっと今日は寝坊しちゃったんだけど。

 ここら辺はいい意味で何もない。

 土地が有り余っているからか、道に家を建てたりしている人はいないし、もちろん機械もない。

 それに僕の家の周りは、あまり家が立っていないし、なぜか人通りも少ない。


 まあいいや今日も魔術の特訓頑張るか。

 かなり飽き性な僕だが、魔術の特訓だけはまるで飽きない。

 これさえできればこの世の全てがどうでもいい。

 せっかくだし、今日は僕の特訓ルーティーンを教える。まずはーー


「とりゃ!」


 まずは大きめの石にパンチする。

 これをやると理由は知らないけど拳が固くなるんだ。

 そしてその次に、道で一回魔術をぶっぱなす。

 これをやると何と言うか、スッキリする。脳が一気に覚めて、頭が回りだす。


「ウォーターボール」


 サッカーボールほどの大きさの水の塊が、ぐるぐる巻きながら空気中から現れ、飛んでいった。

 そのまま魔術が放たれた衝撃で、後ろに体が吹っ飛んだ。


「おっと!」


「えぐい速度にできちゃったな……」


 これなら少なくとも300メートル位は飛んでしまっただろう。

 人に当たらないことを願おう。


 そしてその次に集中して、風を起こす魔法の練習をする。

 いつもはまだ、母さんが出かけていないので大胆なことはできない。

 だから繊細な技術が必要な小さな風を起こし、自由にそれを空中で扱えるようにする。

 途中で風が変な方向へ飛んでいってしまったり、自分を襲ったりする。


 だけど、これは結構楽しい。

 なんて言うか、魔法を使っている感というものがすごく感じられる。

 くるくる回って、風の精霊のようなそれっぽい動きをしながら、魔法使いこなしていく。

 自分の周りを八の字のように棒状の風を回らせたりする。

 最近じゃ、一気にたくさんの棒状の風を操ったりする。

 まあいつもどっか変なところに飛んでいってしまうんだけども。


「カサッ」


 ん? 

 今明らかにそこの茂みが揺れたな。


「誰かいるの?」


 なんとなく質問してみるとビクッと茂みが揺れる。


 ここは日本みたいな安全な場所とは違って、異世界で田舎だ。

 ポリスメンもいなければ、治安も安定していないし「殺人」と言うものが、ちゃんと手段の1つとして存在している。

 まだまだこの世界のことを僕は全然知らない。

 今まで聞いてきた情報が全て間違っている、なんて言うこともあり得なくはないかもしれないし、一応警戒しておこう。


「ぎょ…」


「っ!?」


 ぎょ? 

 なんだそれは。何が伝えたいんだ。しかも女だな。つまり少女。


 少女は謝罪と同時に茂みから勢い良く顔を出す。


「ぎょ、ぎょめんなしゃいっ!」


 これは多分、謝罪かな?

 にしても綺麗な女の子だ。綺麗な青紫色の髪にまさかの赤い瞳。

 こんな見た目の人、日本では早々見る機会はないだろう。

 こういうのアニメだと何とも思ってこなかったけど、実際会ってみるとすごく違和感を感じる。

 髪の毛はロングではなく、ショート。あまり整ってはいない。

 しかも顔や腕に傷がある。


 僕が気になってジロジロ顔をガン見していると、少女はか弱い声を出す。


「あ、あの」


 少女は恥ずかしそうにしながらも、その感情を上回るように恐怖が身体全体を支配しているようだった。

 何か言いたげな様子ではあるが、体が震え声が出ないようだ。

 僕そんな脅かしたかな? 

 顔が怖いのか?


「どうしたのお嬢ちゃん?」


「っ!」


 少女は体をびくっと振るわせた。


 「どうしたのお嬢ちゃん?」は流石にちょっときもかったか。

 あれ、ていうかよく考えたら多分これ僕の方が年下かな。

 相手は少なくとも5歳くらいには見えるし、僕が確か今3歳だから……年上じゃん。


 今度から言葉遣いに気をつけます、先輩。


「どうしたんですか?」


「こ、殺さないでぇ!」


 おいおいやめろやめろ、誰か見てたらどうすんだよ。

 

 僕は少し引きずりながらも、無理矢理笑顔を作り少女を落ち着かせる。


「あ、あれ、どうしたのかな?」


 あ、敬語忘れてた。

 まあいいや、めんどくさいし。


「僕は怖い人じゃないよ」


 手をパーにしてひらひらさせ、何も武器を持っていないことを証明する。


「ただ、ちょっと見てただけなんです!」

「食べ物を盗もうとかそういうのじゃないんです!」


 なんにせよ、別に何もする気はないんだけど。

 嘘をついてるようには見えないし、ほんとにただちょっと見てたんだろうな。

 こんな小さな子供が僕を騙すほどの嘘をつけるとは思えないし。


「別に大丈夫だと思います、見ての通り子供ですよ」

「身長差的にも殴り合ったら多分僕が負けますよ」


 先輩は僕が何を言おうと、ずっと警戒している様子だ。

 ただただ怯えて何も言ってこない。

 これじゃ進展がないぞ。


「魔法……」


 ああ、そういうことか。

 確かにずっと見てたなら、僕が魔法使っているとこも見てたわけだ。

 だから僕が自分より強者であることを認識し、それに怯えているのか。

 まあ殺人も珍しくない世界だからね。


「そういうことでしたか」


「お手!」

 

 僕は少女に近づき、手を伸ばした。


「お手……?」


 あまり理解はしていないようだが、恐る恐る僕の手のひらに大きな手のひらをちょこんと置いた。

 僕はそのまま先輩の手を握って自分のほうに引き寄せた。


「ひゃ!」


 そのまま両手で先輩のぷよぷよほっぺをつかんで横に伸ばして戻して横に伸ばして戻して遊んでみた。


「ふえ?」


 そのまま先輩の恐怖に怯える表情はだんだんと困ったような表情へと変化していった。


「友達になりません?」


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 いつも通りの生活。

 お腹が空いては食べれそうな生き物や植物を探して食べて、何もすることなく座って時が経つのを待つ。

 そうやって今まで生きてきた。

 お母さんやお父さんは私が4歳の頃に殺されて、それまでも裕福な家庭ではなかったけど、いつも幸せだった。

 でも今はいわば「ただ生きている」だけ。


「うはは! さすが兄貴でっせぇ!」


 心臓が飛び跳ねる。

 とっさに、家と家の間の路地に身を潜める。


「あの3人は……」


 3人は私に気づかず、ワイワイ話しながら横を通り過ぎて行く。


「どうせ死ぬなら…」


 自分でもなぜそうしたのかわからない。

 だけど、何故か飛び出していた。


「この人殺し!!」


 3人は言われ慣れているのか、動揺することなくこっちを向く。


「あ?」


「っ!」


 怖い。そんな感情が頭にたくさん湧いてくる。

 だけど、それ以上の怒りが私の体を支配していく。


「返してよ!! 私のお母さんとお父さんを!!」


 3人は一瞬きょとんとして


「お前のお母さん? それ俺がいつ殺したやつー?」


 下っ端みたいな人がそう言うと、3人は口を揃えて笑い出す。


「ギャハハ! いちいち殺したやつなんて覚えてねーよ!」


「っ!!」


 私は我慢できなくなって、3人に突進する。


「ふざけるな!! 人の命を何だと思ってるの!」


 だけど、私の放った拳は当たることなく、顔を蹴り飛ばされ宙を舞う。


「こいつ、なかなかの上物でっせぇ!」


「そうだな、どっかの貴族にでも売り飛ばすぞ。こりゃあ高値で売れそうだな」


「…い、いや」


 無理矢理腕を捕まれ連れて行かれそうになる。


「いやぁ!!」


 私はとにかく必死に抵抗するけど、全然逃れることができない。


「ちっ! うっぜぇな。ちょっとだけ傷つけちまうか」


「いいんすか? 売り物に傷なんかつけて」


「暴れられる方が困るだろ」


 その男の人はそんなこと言うと、懐からナイフを取り出す。


「ほら、おとなしくしとけよぉ」


 そんなこと言って、笑みを顔に浮かべる。


「いやぁ! やめて!!」


 誰か、助けて…。


「残念だったなぁ!!」


 そんな言葉と一緒に、ナイフが私の腕に向かって振り下ろされる。


「ドン!」


 あれ? 

 痛くない。

 それに今の音は何?


 ゆっくり目を開けて、襲ってこようとした男の人の方を見る。


「っ!?」


 見ると、男の人のナイフが手ごと無くなっていた。


「うわぁぁ!!」


「兄貴!!」


 私は迷うことなく走り出した。


「なんだよ今のぉ! 魔術か!?」


「兄貴、あいつ逃げてますよ!」


「あぁ、そんなことどうでもいい! 俺の手をなんとかしろぉ!!」 


 聞こえてくる男たちの叫びを無視して、私はとにかく走る。


「はぁー、はぁー」


 なんであんなことしたんだろう。

 親を殺された恨み? 

 いや違う。

 全てにおいて嫌気が差していたんだ。もう死んでしまいたいと思っていたんだ。


「私はなんでこんなこと…」


「うわっ!」


 急な風に思わず尻もちをついてしまった。


 なんだろう今の? 

 すごい風が急に来た。


「え?」


 見てみると、ぐるぐると渦巻く風が1つの家の庭から出ている。


 私は、好奇心に負けてしまい、茂みに隠れて様子を見てみる。




 




 




 








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