第4話 家族

「ウォーターボール」

 

 ミリアは緊張しながら、ゆっくり詠唱を唱える。


 僕は倒れても大丈夫なように後ろでスタンバっている。

 ミリアの手からぐるぐると渦巻きながら、バスケットボールほどの水が出て落ちる。

 昨日はこれでミリアは倒れた。


「……大丈夫!!」


 ミリアは安心しきった様子で体の力を抜く。


「ほ、ほらね、言ったでしょ?」


「うん!」


「だ、誰もが最初は水魔法使ってぶっ倒れるもんだよ」


 僕は熟練者のように偉そうに言っておいた。


 あれ、ならなんで僕はぶっ倒れなかったんだろ。僕1日目で水魔法50回くらい使ったけど……まあ細かい事はどうでもいいか。今はミリアの成長を喜ぼう。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 もうそろそろ上級魔法にでも挑戦してみようかな。

 僕が部屋で本を読んでいると。


「トンッ」


 最後のページを開くのと同時に薄いスマホのような形をした金属的なのが落ちた。

 それを拾い上げて観察してみる。


「なんだこれ?」

 

 ふむふむ。どうやらこれは魔力測定器のようだ。

 うん、まさに今、僕が求めていたものだ。


 僕は早速、魔力測定器に手をかざしゆっくりと魔力を込める。

 この魔力測定器はどうやら魔力を込めることで、魔力量を感知し数値化していくようだ。

 どんどんと桁数は上がっていき今100,0000に到達した。


「うわっ!」


 魔力測定器に魔法陣が現れ、黄色に光り出した。

 そのまま本のようなものが、空中でどんどんと形成されていく。


「うぇ?」


 作られた本を持って最初の1ページを開いてみると、何か文章が書いてあった。


 まあ一回読み上げてみるか。


「あなたは選ばれました」

「あなたのような優秀な人材が私の知識を受け取り、世の中を素晴らしく変化させていくことを願っております」

「あなたのーー」


 僕は本を閉じた。


「宗教勧誘だな」


 全くいやだいやだ。

 異世界に来ても、こんな宗教勧誘があるとは。しかもこんな子供心を揺さぶるような悪質な宗教勧誘だ。

 どうせもともと、魔力測定器がすごい数字になるように仕組まれていた、とか、1,000,000と言う数字が別に凄くない、とかのしょうもないことだろう。

 全く趣味が悪い。


「僕は僕の力で強くなってみせる!」


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 それから2年ほど経過し、僕は5歳になった。


 もうすぐ小学校でもあるのかと思ったが、どうやらこの世界に義務教育はないらしい。

 まあ当たり前か。こんなスラムみたいな場所に、義務教育があるわけないし。


 結局僕はまだ上級には手を出していない。

 2年もあれば全部やれるとか思っていたが、この世界の上級はちゃんと上級なようだ。

 ちなみに上級より上はある。下から、

 初級、中級、上級、光級こうきゅう天級てんきゅう神級しんきゅう

 上はまだまだあるということだ。

 でも、どうやら神級を使える人なんて、現状この世に存在しないらしい。


 うんやっぱりまだ早いや。


「師匠〜!!」


 そんな声が聞こえるや否や、体に少女が衝突した。

 そのまま流れるようにベッドに倒れた僕の上に乗っかった。

 ミリアだ。


「そろそろ名前、教えてよ!」


 そう言ってミリアはグイグイ顔を近づけてくる。


 多分、違和感を持った人は少なくないだろう。

 そう、実はミリアはそっち側の人間だったのだ。

 最初は我々の仲間だと思っていたが、時間が経つにつれ陽の側であることが判明してしまった。


「ねえ、聞いてるの?」


「ん? なんだって?」


「だ、か、ら! 名前、教えてよ!」


 ああ、そういえば2年も経つのにまだ名前すら言ってなかったね。

 名前は一応、ルトラ・フェルカルっていうものを授かったけど、あんま言いたくないな。


「嫌だよ、師匠って呼んでくれなくなるじゃん」

 

「えぇー、ちゃんと呼ぶよ。気になるから聞いてるだけ」


「てかそろそろどいてくれない?」


「あー、忘れてた」


 ミリアはてへっと自分の頭をポンと叩くと、あっさり立ち上がった。

 それにしても僕もミリアの距離が近いおかげで女性耐性がついたな。

 最初は指が当たっただけでも反応していたのに。

 うんうん、素晴らしいね。


「そういやミリアはやりたいこととかないの?」


「やりたいことかぁー」


「ずっとこのまま、僕と魔術の練習をしていたらつまらないだろ?」


「私は師匠と一緒にいられればそれが一番だよ」


 ミリアは少し恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

 嬉しいこと言ってくれるね。

 でもどうせ14歳くらいになったら、お父さんの服と一緒に洗わないで! みたいなことを言ってきちゃうんだろう。

 僕は思春期終わってるし大丈夫かな。

 いやでも思春期って体も結構関係してる気がするしな。

 もう一回来ちゃうの? 

 まあ僕の思春期いつ来たかわからないくらい弱かったんだけど。 


「ね、ねえ、なんか反応してよ!」 


 ミリアは頬をぷくっと膨らませていた。

 

 おっと、考え事が過ぎたかな。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ほんとにそれでいいの?」

「別にもっと好きなように生きてくれていいだよ?」


「師匠が何をそんなに心配しているのかわからないけど、私、今すごく幸せだよ」


 そう言って曇りない笑顔をミリアは見せてくれた。

 

 その時、下の一階から扉の開く音がした。


「隠れて」


「え、大丈夫なの?」


 ミリアは凄く心配そうな目でこちらを見てくる。

 

「多分危ない感じじゃないよ」

「一応ね、隠れといて」


「でも……」


「まあやばかったら助けてって呼ぶから、一緒に死のうぜ」


 僕はそんなことを言いながら、ミリアに下手な笑顔を向けておいた。

 するとミリアはすごく驚いたような顔をした。


「本当に、変な人」


 そう言って優しく笑ったミリアは美しかった。


「それじゃ」


 恐る恐る階段降りてみると、そこには予想外の人がいた。

 それは顔立ちが整っていて、まるで貴族のような人だった。

 そう、母さんだ。


「か、母さん?」

「なんで、仕事は?」


「急遽休みになったの」


 母さんは表情一つ変えることなく、興味なさそうに冷たく言った。


「へ、へえ」


「なに、その反応」

「何かやましいことでもあるのかしら」


 うお、さすが血縁。

 わかっちゃうか。

 

「い、いや、別に」


 やばいなんか目が勝手に泳いじゃう。


「ふーん」


 母さんは急に歩き出し、僕の部屋の方へ向かっていった。


「ちょ、ちょっと待って!」


「あら?」

「やっぱりやましいことでもあるのかしら」


 母さんは無表情で足を止めることなく言ってくる。


「い、いや別にそういうわけじゃ……」


 そんなことを言っているうちに、部屋の前に着いてしまった。


「なら問題ないわね!」


 扉が勢いよく開かれた。

 そうすると、必死に壁と同化しようとしている、アホ毛の立った頭の悪そうな少女が姿を表した。


「……説明してもらえるかしら」


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 僕は隠すことなく事情を全て話した。

 本当は嘘を混ぜていい感じに話したかったが、ミリアは嘘をつくのが下手だし、なんだかんだで母さんは母さんなので見抜かれそうだったので、話すことにした。


「ーーってことなんだけど……」


 どんな反応をされるのか全く想像できない。

 やはり無表情で、あっそとか言ってくるのだろうか。


「え、えぇ!」

「それ本当なの!?」


 母さんは予想と反して、すごく動揺して驚いていた。

 こんな取り乱した母さんを見るのは初めてだろう。


「な、なんで言ってくれないのよ!」


「だって、ホームレスの少女拾ったなんて言ったら捨ててこいとか言われるかなって」


「私をなんだと思っているの?」

「もちろん驚くだろうし怒るだろうけど、見捨てたりしないわよ!」


 あれ、母さんって意外と優しいんじゃね。

 だんだん興味は湧いてきたな。

 この機会にいろいろ聞き出してみるか。


「でも、僕にいつも興味なさそうじゃん」


「そ、それは……」


 母さんはそこで言葉を止める。


「それは?」


「……拒絶されるのが怖くて」


「…」


「それ、本気で言ってるの?」


「…」


 僕はなんとなくだんだん笑いが込み上げてきて、笑ってしまった。


「プフッ」

「しょうもな! そんなことで今まで……」

「あの態度はそういうことか!」


 安心感からか、とにかく笑いが込み上げてきた。


「わ、笑わないでよ」


 あの無表情の母さんが顔を少し赤くしていた。


「あ、あの、私は……」


 すると、僕の後ろに隠れていたミリアが、不安そうに顔を出した。


「べ、別に好きにすれば」

「あんたが何してても私には関係ないし」


 母さんの言葉を聞くと、ミリアはパッと顔を明るくしてこちらに顔を向けた。


「よかったね」


「うん!」


 これで一件落着だ。

 最初はどうなることかと思ったけど、最終的には母さんのことも知れたし、いい感じに終われてよかった。

 と言ってもまだ安心してはならない。

 今気を抜くとフラグが成立してしまうので、とりあえず適当に警戒しておこう。



 

 





 


 








 




 


 

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