この転生に意味はない

飯間紳助

第1話 魔法と魔術

 ある少年の平凡な高校生活。

 それは突然幕を閉じた。


「なんだこれ…! 魔法陣?」


 クラスのカースト上位男子が大声で叫ぶ。

 彼らの教室に突然描かれた青色の魔法陣。


「扉が開かねぇぞ!!」


「あ、窓が開いてる。あそこから逃げよう!」


 鳴き声や笑い声、いろいろな声が教室に響く。

 だけど、少年、悠遠隅独の頭の中には圧倒的な不安しかなかった。


「ダメだ、これはもう、抵抗できねえ!」


「窓があるわよ!」


「飛び降りろって言うのかよ!」


 少年少女たちの嘆きも届かず、魔方陣はどんどんと光を強めていく。

 だが、静寂は突然を訪れた。


 1人の少年が、何のためらいもなく、窓から飛び降りたのだ。


「は?」


 クラスメイト全員の視線が、一気にその少年に集まる。

 少年の口角は上がっており、みんなの視界からすっと消えた。


「んひひひ!」

「感じる、感じるよ! 今死ねば、絶対に転生できる!」

「んひひひひひひ!!」


 そんな少年の高笑いが静かな教室に響く。

 だが、ドカンッと大きな音とともに、高笑いはやんだ。


 教室は唖然とし、魔方陣の青い光が静かな教室を包んだ。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 目を開けるとそこには知らない世界が広がっていた。

 周りには、助産師のような人が2人と、僕を抱っこしている金髪の女性が1人。


「うあ〜、あ」


 やはり、やはり成功した!

 いやぁ、せっかく異世界転移しても、日本人の体じゃ魔法が使えなかったりしそうだし、病気とかにかかったらすぐ死んじゃいそうだ。

 そこで僕は考えついた。

 なら死のう。

 ついでに、イケメンに生まれ変われる……なんて思ってたんだけど、これ多分顔そのままだな!

 だって黒髪黒目だもん!!


 まあそんなこんなで転生できたわけだけど、ここ海外だったりしないよな?


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 月日は流れていき、3年が経った。


 最初はとても大変だった。理由はシンプルに動けないからだ。

 しゃべれないし、動けない、それは僕にとって何よりも辛かった。

 自殺を考えたくらいだ。

 さらに頭を使いすぎるとすぐに眠くなるし、子供は物覚えが良いって言うが、少し若すぎたせいかいろいろ大変だった。

 それでも僕は努力し、言葉を覚え、歩く術を得た。

 赤ちゃんの頃は、言語の習得以外にやることがなかったので、言語はほぼ完璧だろう。


 ……そして何より大変なのが。


「私は出かけてくるからあんたは勝手に家で過ごしてなさい」


 そう、母親がかなりのクソ親なんだ。


 この人の名前は、ルミニア・フェルカル。

 子供の面倒は見ないし、朝から晩まで出かけてる。

 さらに、なんと3歳の子供を家に置いて、出かけていく。

 僕は、前世の記憶があるし家に1人だろうと別に生きていけるけど、普通は違う。

 まあ、ちゃんとお金はくれるし問題ないけど。


 そして今日は待ちに待った、魔術書を買いに行く日だ。

 ちなみに魔術書は、今僕がそう呼んでるだけだから、魔術本でもなんでもいい。


 冷たい母さんにダメ元で勇気を出し、お小遣いをせびってみると。


「金なんて有り余っているから、好きに使えば」


 と、よくも悪くもお金を入手するここが出来た。

 母親の喋り方が明らかにツンデレ系なのは置いておこう。

 この世界はなんにせ紙が高いんで、本はなかなか買えないんだ。


 僕は待ちきれずに、走って町唯一の本屋へ向かった。


 そこは小さな、こぢんまりした古い本屋だった。

 木で作られた質素な店だったが、清潔感があり、大切にされていることが伝わる。

 カウンターを見ると、強面こわもての髪なし店主が僕を凝視している。


「え…?」


「こんにちは!」


 僕は良い子なのでちゃんと挨拶をする。


「こ、子供? いや、流石に小さすぎやしねえか?」


「失礼だな。別にいいでしょ、お金は払うよ」


 店主は少し落ち着き、タバコを吸い始めるが、動揺を隠しきれないようだ。

 まあ無理もない、僕だって3歳の子供が1人で来たら警察に通報するだろうし。


「あの、初心者向けの魔術書が欲しいんだけど」


「魔術書だぁー? そんなもんお前みたいなガキにはまだ早えよ」


「なんで?」


「なんでって、魔術はバカみたいに危険だからに決まってんだろ」

「間違った風に使えば、自分の首がぶっ飛ぶし、子供の頃から使うと、寿命が縮むって言われてんだよ」


 そうか、この世界の魔法の認識は、僕たちのいた世界とは違う。

 魔法は楽しくて安全なものだとばかり思っていたけど、ミスれば死ぬシビアなやつなのか。


「それでもいいから売ってよ」


「ダメだ、子供に売るなんて殺すようなもんだ」


 人が良いのも考えようだね。怖い顔してんだからそんなん気にせず高い金で売り付けろよ。

 全く、どうやったら売ってもらえるんだろうか。

 いや、もう考えてもしょうがない。

 駄々こねるしかねないな。


「え〜、やだやだ欲しい欲しい!!」


 僕は、恥を忘れて転がりながら、両手で床を叩いて泣きじゃくる。


 まあ恥ずかしがる方がダサイって言うもんね。


「はぁー、めんどくせぇガキだな」


 店主はそう言ってだるそうにため息をつく。


「あ! あんなところに、その、あの、とにかく凄い人がいる!」


「やるならもうちょい精度上げてからにしとけよ」


 この天才的な作戦にも引っ掛からないとは……こいつ、できる!


「まずまずそんな子供騙しに引っかかるわけーー」


「あ、あんなところにビキニのお姉さんが!」


「え、まじで!? どこどこ!!」


 僕は店主が後ろをキョロキョロしている間に、硬貨を投げ、本を奪って逃げた。

 後ろから店主の悲しみと怒りの咆哮が聞こえたが、気にしないでおこう。

 それにしてもこの世界、ビキニあるんだな……。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 と、帰り道。

 急にいかにもイキってる兄ちゃんたちに話しかけられた。


「おいおい、お前本なんて高価な物持ち歩いてんのか?」

「面白そうだな」


 ニヤニヤこちらを見ながら男は言った。

 その顔はまるで本を盗もうとしているかのようだった。


「もしかして、お前たちも魔術好きなの!」


 僕はぐいと顔を近づけ、質問する。

 するとなぜか兄ちゃんたちは戸惑い始めてしまった。


「な、なに言ってんだお前?」


「いや良いよね魔術。男の夢が詰まってる」

「それに魔術さえあれば神だって殺せるさ」


 僕が笑顔で魔術の話に花を咲かせていると。

 なぜか兄ちゃんたちはこそこそと内緒話を始めた。


「お、お前、それもしかして魔導書か?」


「え、うん」


 すると兄ちゃんたちは急に冷めた目になり、異端者を見るような目で僕を見てきた。


「あ、うん。さ、さいなら」


 するとなぜか兄ちゃんたちは戸惑いながら去って行ってしまった。

 どうして、ついに仲間ができたと思っていたのに……。

 まあいっか!


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆* 


 そんなこんなで本を開いて読んでみた。

 本当は詳しく説明したいとこだけど、長くなりそうだし簡潔に説明する。

 

 まず、この世界は魔法と魔術の区別がある。

 唱えたり、描いたりすることで、何かを起こすのが魔術、想像だけで何か起こすのが魔法。

 どっかで、科学の力で再現できないものを魔法と呼ぶ、みたいなことを聞いたことがあるが、そんな理屈は異世界では通用しないらしい。

 そして、魔術は魔法より簡単だけど、魔力の消費量が多い。

  

 まあ、とりあえず使ってみるか。 


「ウォーターボール」


 すると、手のひらにりんごほどのサイズの水が渦巻きながら出てきて、そのまま床に落ちた。


「うお、できちゃったよ…!」


 なんかすごいすんなりできたな。


 僕はその後、とりあえずたくさんウォーターボールを使いまくった。

 よく見ると部屋中水浸しになっていたが気にしないでおく。


「……疲れた」


 僕は這いつくばってベッドに移動し、重い体を持ち上げ、寝転がった。

 

 にしても頭が痛いし、視界もぼやける。

 これは魔力切れってやつか? 

 いや少し違うような気もするな。魔術を使った瞬間が痛かったんだ。

 今はそれの余韻でしかない。

 まあいいや、もっとたくさん使えばわかるだろ。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 それからさらに1ヶ月位経過した。

 

 とりあえず、本に載っている初級の魔術は大体覚えた。

 でもまだ中級魔術は使っていない。

 理由はシンプル。

 怖いからだ!

 だって中級魔術ってほんとに危ないらしいんだよ。

 うーん、でもこれじゃ流石にダサいか。

 そうだ、明日やろうは馬鹿野郎だ。


 僕はとりあえず外に出て、草だらけの庭で空いてる場所を探し、座り込む。


「やっぱ最初に使う中級魔術と言えば水だよな」


 ページを捲り、安全そうな中級魔術のページを開く。

 

 内容は絵を見た感じちょっとした雨を降らせる的なやつだ。

 でも最初は範囲を広くするのは難しいらしい。

 雨を完璧に操れたら楽しそうなのになぁ。

 

「ヒュエストンインベル」


 さて、どうなるか。

 まあ何があってもただの水だし大丈夫だろう。


 その瞬間、周りにボーボー生えている雑草がざわめき始め、雰囲気が変わり始める。

 雲は出てこなくて、快晴のままだった。

 

 その時、目にも止まらぬ速度の雨粒がシュッと横髪をかすった。


「へ?」


 音はザーではない。

 その目にも止まらないスピードの水滴が地面に落ちるたび、ドカンッ! 

 と爆発音のようなものがするのだ。

 僕は反射的に横に飛んだ。


「ドカンッ! バコンッ!」


 そこからは1粒1粒が爆発音をたてながら、次々に降り注いだ。

 雨粒1粒1粒からたくさんの魔力が吸い取られていき、意識が朦朧もうろうとする。

 1粒落ちるたびに、そこには、ほんの小さなクレーターができていく。

 だが、何百粒の水滴が蓄積していって、最終的には深さ3メートルほどの大穴になってしまった。


「これはやばい……」


 すごい速度で水がぶつかったせいで、水蒸気と砂埃が舞い上がっている。

 もっと早く魔術を強制終了すればよかったけど、正直好奇心が湧いてしまった。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


 砂埃が空や水蒸気は晴れ、僕も落ち着きを取り戻した。


 幸い、範囲が極端に狭かったおかげで、庭のそこら中が穴だらけと言う事は無い。

 だが、少し大きな穴ができてしまったので何とかしなきゃいけない。

 この世界にはいろいろな魔術があるけど、一定の範囲を土で埋め尽くすと言う魔術は存在しない。

 だから魔法を使ってみようと思う。

 魔法はなかなか難易度が高いらしいけど、その有用性から使える人は少なくはないんだとか。

 つまり天才である僕は、そんなの一瞬で使えるということだ。


「土よ出ろ〜」


 なんとなくそんなことを唱えながら、土が埋まる様子を想像する。

 すると、そのままみるみる穴が埋まっていった。


「お! まじて一発でできたぞ」


 さすが僕と言ったところだ。

 

「ふぅー、家戻るか」


 お風呂に入りに行こうと思い、立とうとするとなぜか体が上がらない。

 そして埋めた穴をよく見てみると、


「あれっ?」


 魔法を使うときにかざしていた右腕が、土に埋められていた。

 土のぬくもりが心地良くて、気づかなかった。


「え? ちょ、抜けない、抜けないよぉ」

 

 そして結局、腕は結構本気で抜けず、そのまま僕はそこで1日を過ごしたのであった。

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