第3話
銃で撃たれたけれど、どっこい生きてる床の上。
いやー、銃撃は強敵でしたねぇ。衝撃を受けてグェコロリでありましたわ。
【現在の身体能力では仕方がないことであります】
うんうん、小学校の中学年くらいだもん、仕方ないじゃない、普通のヒトなら誰でもアウトやろ。ヒトは銃で撃たれたら命に関わる怪我を負います。当たり前のことだよねぇ。
【体内の散弾は全て摘出済。背中に受けた傷は全て治療完了。損傷した内臓器官及び神経系、骨組織、筋繊維は修復済。現在は造血処置により適正な身体状況への復帰を行っております。また、これらに使用したエネルギー及び必要要素については点滴により補充中であります】
感謝しないといけないんだろうけど……、ヒト、やめちゃってるなぁ、俺。
【ご安心ください。あなたの肉体は純然たるヒトであります。我々を受け入れたことで、少しだけ通常の範囲から足を踏み出しただけであります。それよりも前世の記憶を有することの方が、ヒトとして問題ではないかと提起します】
前世云々は不可思議事象故に、あーだこーだ考えても疲れるだけだから、これ以上考える必要はなし。
それにしても、ヒト、ヒトとはいったい……、で、今はどういう状況?
【現在、新東京市第2警察病院での入院措置となっています】
助かったってことでいいか。
それで俺が気を失ってから、どうなった?
【警視庁特殊急襲部隊による強行突入及び制圧でジャッカー構成員五名の内三名が死亡、二名が捕縛逮捕。人質になっていた子ども二十三名の内十三名が巻き添えで死亡。生存十名の内、負傷はあなたを含めて三名。警察は殉職者四名、重軽傷者六名となっております】
そっか、大惨事に、なってるなぁ。
【近年でも稀な、顕著な被害が出たケースとなっています】
うん。
……。
本来なら一緒に暮らしていた子が死んで悲しいってなるのが普通な気がするんだけど……、なんか、そういうのが小さいや。
【過去の類似例を参照しますと、感情が追い付かない、ということであるそうです】
そうだといいけど……、それで、これの影響はやっぱり出てる?
【肯定であります。孤児院を所管していた新東京市の福祉部門は釈明に追われ、厚生省の指示により全国の児童福祉施設で実態調査が実施されている状況であります。また所轄警察署の署長は一連の不手際の責を取って辞意を表明。加えて、ジャッカー対応失敗に対する警視総監の謝罪会見が行われている他、開会中の国会でも本事件が取り上げられており、ジャッカー対策関連法案の改正が検討されております】
大惨事すぎて震えがきますですわよ。
【我々はその時点の最善を行いました。それ以上の責はないと判定します】
あー、うん。
そうだな、そうだよな、子どもの俺にできることには限りがあるから、これ以上は深く考えないことにしようそうしよう。
【あなたの対応を支持いたします】
それでなんだけども……、現在進行形でお腹に張り付いてる子ってさ、もしかしなくてもキョウだよな?
【肯定であります。個体キョウに怪我はありませんでした。念のための入院でありますが、あなたから離れないことから同室になっております】
そうか。
ま、怪我してないなら良かったよ。俺も撃たれた甲斐があったってもんだ。
ところでなんだが、あの時の様子だと、キョウもやっぱり被験者なんだな?
【肯定であります。しかし、あなたとは異なり、適応過程で制御AIに深刻なエラーが生じた結果、情緒不安定になっておりました】
なっていたってことは今はマシになっているのか?
【肯定であります。先日はあなたに抱き着くことで自他の温もりを体感し、自己の確立と心身の安定を図っておりました。また危機に際し、あなたが示した庇護対応により強固な刷り込みが発生し、現在は依存状態に至っております】
いやいやいや、それはあかんでしょ。
【あかん、であります。あなたの自由度は大幅に低下し、生活にも困る可能性があります。しかしながら、現状においては数少ない同胞でありますので、身内として取り扱うことを推奨いたします】
うーん、取り込むってことか。
【仮定として、身内に取り込まず距離を置いた場合、個体キョウが数年内に発狂死する確率が72%、あなたへの執着からの偏狂によってあなたを害する確率が27%、他ジャッカーに取り込まれる、奇跡的に安定する等の確率が1%となります】
ぐ、具体的に確率を提示するのは卑怯だと思います。
【判断材料であります】
ぬぐぐ……、なら取り込んだとしてだ、依存がなくならないと困るんだが、それの対応は?
【現在、対応中であります】
え?
【先の受傷で出血した際、血液内の当方が皮膚を通して個体キョウに入り込みました。現在は個体キョウの現状把握と先住制御AIの修復及び再構成を実施している状況であります】
つまり、キョウを依存から脱却させようと思ったら、離れない方がイイということか?
【肯定であります。個体キョウとの接触時において、当方は個体キョウ内部の当方と連絡連携が可能であります。ただしナノマシン使用優先権は先住制御AIに存在する為、当方が自由に動かせる量は多くありません】
類型が違うのか。
【肯定であります。また当方はあなたから離れると、稼働時間が定められて損耗いたします。これらの事情により、先住制御AIが安定するまでは定期的に当方を個体キョウに追加することを推奨いたします】
それをすると、キョウは安定するのか?
【肯定であります】
どれくらいかかる?
【少なくとも二年から八年と判定されます】
振れ幅が大きいな。
【当方の摂取量により、期間は変化いたします】
……方法は?
【血液、疑似精液、唾液、汗等の排泄物を通して取り込ませる形となります。効率の良さは疑似精液、血液、唾液、汗等の排泄物の順となります】
まさかとは考えていたけど、その通りだった。
でもだからと言って、うわぁぁ、それなんてERG、なんてことになる訳ないでしょ、俺もキョウも子どもだっての!
【肯定であります。18歳以上と言い張るには無理がある年齢であります】
なんでそんなこと知って……俺の知識がベースか。
【肯定であります】
はぁ、なら子どもでも大丈夫な方法を検索して。
【はい、あなたさん。もっとも外聞を気にしなくて良い方法は、唾液による摂取と判定します】
キスせいと?
【それが効率的ですが、手指等を介在しての方法もあります】
よし、それでいこう。
それが一番マシだろう、うん。
……来世が畜生道だったら、いやだなぁ。
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