第4話
はい。
病院を退院してから、一か月が経ちました。
帰る場所と生活を共にしていた子達を失いって、もっと衝撃を受けて塞ぎこむかと思ってました。
けど実際はそこまでではなかった。
これはあの場所や彼らに、そこまでの思入れがなかった、となるのかもしれない。
でもだからといって、彼らと一緒に暮らしていた事実に変わりはないのだ。
運良く生き延びた一人として、理不尽に失われた彼らへ、なんらかの形で追悼や供養が必要だと思う。そして、俺個人の怒りも当然あるので、それはジャッカーへの応報が望ましい。復讐は生き残りの嗜み。目には目を、歯には歯を。
それはそれとして、である。
入院中に行った身体検査にて、ナノマシンが投与されていることが判明したことで、俺達の取り扱いは極めてでりけぃとなものになっている。
具体的に言えば、警察官か保護観察官かは知らないが、政府機関のヒトが保護者となっての共同生活を送る形になっております。他には被害者保護プログラムかなにかで、血縁者なしということも相まって戸籍と氏名が変更になりもうした。
名前については元々のモノに近いことから、そこまで違和感はない。
いやー、そこまでのことができるなんて、権力は怖いねぇ。とはいえ、こちらとしても変に波乱を起こしたい訳でもないので唯々諾々と受け入れて、日々是粛々と大人しく生活している。
後、キョウについても俺に憑いてくる形で一緒になった。引き離そうとしたら大暴れ故、仕方なし。
ちなみにであるが、俺たち以外の子はまだ入院が必要というか細やかな加療対応が必要ということで、人里離れた療養所にて社会復帰を目指すそうだ。彼らもいつかは落ち着くといいんだけどねぇ。
「大智君、私は仕事に行くけど、京香ちゃんのこと、よろしくお願いね。困ったことがあったら連絡してくれたらいいから」
「わかりました。……英子さんも気を付けて、いってらっしゃい」
「ありがとう、行ってきます」
保護者をしてくれている、アラサーな女性公務員……船越英子さんをお見送りし、腰の引っ付き虫と共にリビングに戻る。
学校への復帰はまだ未定。
まだまだ収まっていない世間の大嵐とキョウがもう少し落ち着いたら、ということになっている。
ということで、ソファに腰を……キョウの引っ付き位置をお腹側に移動させて座る。
リビングには監視カメラがついているので、もう少し態勢をなんとかしたいのだが、お相手が承知しないのでどうのしようもない。独身の英子さんから、たまーになんとも言い難い目で見られるのは、本当に勘弁してほしいなぁ。
【まだ幼いとはいえ、四六時中引っ付いた男女の姿を認め、翻っては完全に独立した我が身を思ってのことであると、推定されます】
今日も今日とて、俺の補助をしてくれるえーあいことキューちゃん……安易だがわかりやすく命名……が、英子さんの心理を推定してくる。あえて考えなかったのに……、へい、キューちゃん、人の心ないんか?
【はい、マスターダイチ。当方、制御AIでありますので、ない、ですね】
その答えが本当か怪しいところであるが、とりあえずはテレビをつける。
公共放送ならぬ国営放送が巷を賑わせるニュースを解説していた。
『全国規模で発覚した、ジャッカー残党による児童福祉施設への浸透。これは我が国にとって、大きな問題と言えます』
『どうして防げなかったのでしょうか?』
『8年前に発生した未曽有の大災禍。ダンジョン出現に伴う混乱と溢れ出たモンスターへの対処で、日本皇国政府によるジャッカー撲滅作戦が中断したことが直接的な要因と言えるでしょう。またダンジョン災禍に伴うモンスターによる襲撃で、皇国軍や各治安機関、行政機関やインフラ等に重大な打撃を受けたこと、更には国民への直接的被害が大きかったことで社会秩序が著しく乱れたことから、ジャッカーへの圧力や監視が弱まり、その結果として浸透を許してしまったと考えられます』
ほーん。
ダンジョン……ダンジョンねぇ。
前世では創作以外ではありえなかった現象だよなぁ。
【当方もマスターダイチが有する、前世の2000年代前半までの記憶を参照させていただきましたが、現状と著しい差異が見られます】
どうしてこんなに世界が変わってるのか、ほんと不思議だよなぁ。
俺が俺であるのはさ、魂みたいななにかが平行世界に飛んだとか、転生したとか意識だけトリップしたとかね?
【魂、平行世界、転生、憑依、トリップ等の想定よりも、マスターダイチの有する前世記憶を巧緻な捏造や衝撃で生じた妄想とする方が可能性が高くなります】
やめ、ヒトをヤバい人にするの、やめぇや。
【思考が震えております、マスターダイチ】
震える思考とはいったい……。
【身体が震えるのならば、思考も震えることもある、と推定されます】
スゴイ推定……、別のちゃんねるにぽちっと。
『新潟は定期船があるから、ロシア大公国との交流が盛んじゃないですか。自然と男女のお付き合いも増える訳ですよ』
『あー、なるほど、他には小樽でもそういった話を聞きますね』
『そうそう、んで、段階をちゃんと重ねて結婚まで行くこともある訳でして、その中には友人もいましてね』
『ちなみにご友人というのは、男性ですか女性ですか?』
『男ですよ。結構付き合いが長い。それで、そいつがまたものっそいスタイルが良い美人さんと結婚したもんでして、当時はこいつ上手くやりやがったって思ったもんですよ』
『あっ』
『若い頃はね。でも今となっては……』
『ロシア系奥様、あるあるですねぇ』
『いや、気立ては変わらんのよ。でもやっぱり迫力が年々ね』
ぽち。
おんっ?
テロップ……、ダンジョン関連法が改正され、2年後には指定探索者組織だけではなく、民間にも一般解放されますがどう思われますか、ね。
『……日までの2日間、全国の有権者から3000人を無作為に抽出し、1347人の方から回答を得ました』
『次の項目から複数回答で、最も多かったのが、民間活用による経済効果への期待で89%、次いで、税収の増加や社会保障費の削減への期待が76%、皇国陸軍への負担が減ることへの歓迎が60%、ダンジョンの間引きが適正に行われるか不安が57%、力を得た探索者による犯罪への不安が49%、新たな社会保障としての期待が41%、探索者に死傷者が増えるのではないかとの懸念が34%、ジャッカー等の犯罪組織による悪用への懸念が18%、となっています』
ふーん、ぽちっとな。
『へへっ、台湾から樺太まで、ご苦労なこった』
『あんたに、あんたに殺された……姉の敵っ! ここで死ねぇぇぇっっ! ………………え、な……、なんで、なんで』
『……ぐっ、リューさん。その人じゃない、その人のせいじゃなくて』
『ど、どうして、どうしてなの、直行さん!』
『おれが……おれが悪いんだよ』
ぽち。
『うわーん、ドライもーん!』
『だから言ったでしょ。最初から宿題をしておきなよって』
『そんなこと言わないで助けてよぉ』
『僕、知ーらない。ノリ太くん、徹夜で頑張るか先生に怒られるか、好きにしなさい』
ノリ太くん、ドライもんの言う通りだ。
ノリで生きられるのは子どものうちだけなんだから、今から頑張った方がいいよ、うん。
ちらりとお腹に巻き付いたキョウを見る。
孤児院時代はドライもんを好き好んで見ていたのに、まったく反応しない。そのことに少しばかり悲しくなるが、今は仕方ないと割り切って、テレビを消した。
ま、どのみち学校に行き始めたらこんな時間もそうそうないだろうし、今はのんびりしておこう。
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